オープンソースのゲリラ勢がAI開発競争でGoogleとOpenAIを圧倒する?

コンサルティング会社SemiAnalysisが手に入れたGoogleの社内文書が波紋を広げている。文書は、GoogleとOpenAI/Microsoftの双方が、オープンソース陣営の「ゲリラ兵」に圧倒される可能性を示唆している。

オープンソースのゲリラ勢がAI開発競争でGoogleとOpenAIを圧倒する?
Midjourney / Nijiで吉田拓史が作成

コンサルティング会社SemiAnalysisが手に入れたGoogleの社内文書が波紋を広げている。文書は、GoogleとOpenAI/Microsoftの双方が、AI開発競争において、オープンソース陣営の「ゲリラ兵」に圧倒される可能性を示唆している。


社内文書の内容は、大規模言語モデル(LLM)の製品化はすでに驚異的なレベルまで民主化されていることを意味している。LLMが大手企業しか参加できないハイステークゲームだという前提はすでに過去のもののようだ。

この転覆を生んだのは、Metaが2月に発表したオープンソースのLLMであるLLaMAである。LLaMAは部分的にオープンソースで開発されているものの、非営利の研究目的でのみ利用可能で、重み付けのデータは一般公開されていない。

LLaMAを用いれば、研究者は微調整という軽いコストを負担するだけで、参入することができる。「トレーニングや実験への参入障壁は、大手研究機関の総生産量から、一人の人間、一晩、そして頑丈なラップトップにまで低下した」と社内文書には書かれている。

Vicuna: An Open-Source Chatbot Impressing GPT-4 with 90%* ChatGPT Quality | LMSYS Org
<p>We introduce Vicuna-13B, an open-source chatbot trained by fine-tuning LLaMA on user-shared conversations collected from ShareGPT. Preliminary evaluation…

3月に公開された、LLaMAをベースとした2つのオープンソースモデル(VicunaとAlpaca)は、AIコミュニティの注目を集めることに成功し、どちらも無数の応用例を生み出している。

LLaMAを微調整したオープンソースのチャットボットであるVicunaは、OpenAI ChatGPTやGoogle Bardの90%以上の品質を達成する一方、LLaMAやAlpacaといったモデルを90%以上のケースで凌駕した、とカリフォルニア大学バークリー校、サンディエゴ校、カーネギーメロン大学の研究者らは発表している。

Vicunaの70億パラメータ版と130億パラメータ版のトレーニング費用はそれぞれ約70ドルと約300ドルに留まる。コードと重みは、オンラインデモとともに、非商用で利用できるよう公開されている。

図1. GPT-4で評価された相対的な反応の質。出典:
図1. GPT-4で評価された相対的な反応の質。出典:
GitHub - lm-sys/FastChat: An open platform for training, serving, and evaluating large languages. Release repo for Vicuna and FastChat-T5.
An open platform for training, serving, and evaluating large languages. Release repo for Vicuna and FastChat-T5. - GitHub - lm-sys/FastChat: An open platform for training, serving, and evaluating l…

下の図は、Vicunaの研究チームによる図表に、流出文書の中でGoogle社員が「2週間しか離れていない」などと書き加えた図だ。LLaMAの登場以降、それを基にしたオープンソースモデルが、GoogleのBardとOpenAIのChatGPTにあっという間に追いつく様を描いたものだ。TransformerのようなLLMの中核技術を研究開発してきたGoogleにとっては、オープンソース勢の驚異的な追走は相当イライラするものなのかもしれない。

Vicunaの研究チームによる図表に、Google社員が「2週間しか離れていない」などと書き加えた図。あっという間に追いつく様を
Vicunaの研究チームによる図表に、Google社員が「2週間しか離れていない」などと書き加えた図。あっという間に追いつく様を

同じくLLaMAを基にした70億パラメータのLLMであるAlpacaでは、iPhone 14でローカルで動作するよう微調整するまでにオープンソースの人々が要した時間は、たったの3週間だった。構築費用は「600ドル以下」であったと報告されている。

進歩速すぎ…スマホだけで動く軽量LLMがたった3週間で爆誕
ある大規模言語モデル(LLM)がオープンソースで公開されると、すぐさま微調整が進み、スマートフォンやタブレットでの動作が確認された。界隈の課題とされたオンデバイスの軽量AIがたった3週間で生まれてしまった。

AlpacaのiPhoneでの動作は、エッジデバイスにLLMが移植される未来を予見させるのに十分である。ただ、まだ改良の余地は大きいようだ。Alpacaの回答は通常ChatGPTより短く、幻覚、毒性、ステレオタイプなど、言語モデルによくある問題を示している。

モデルの小型化とドメイン固有化は重要なトレンドの1つである。より良いデータで再調整された小さなモデルは、より多くのデータで完全に再調整された大きなモデルよりも、特定のタスクでは勝るかもしれない。これは世界中のソフトウェアエンジニアの参加を募れるオープンソース側に有利なのかもしれない。

ドメイン固有が安く済む証拠はある。Microsoftが生み出した「LoRA(Low Rank Adaptation)」と呼ばれる技術では、基本的には、ドメイン固有のモデルを作る場合、すべてのモデルパラメータを再学習するのではなく、変更する必要があるパラメータを見つけるだけでよい。これによって計算コストを大幅に削減できることを同社のチームは示している。

LoRA: Low-Rank Adaptation of Large Language Models - Microsoft Research
An important paradigm of natural language processing consists of large-scale pre-training on general domain data and adaptation to particular tasks or domains. As we pre-train larger models, full fine-tuning, which retrains all model parameters, becomes less feasible. Using GPT-3 175B as an example…

また、LLaMAを基にGoogleやOpenAIを追走しようとするプロジェクトも活気づいている。RedPajamaは、完全にオープンソース化された大規模言語モデルを開発するプロジェクトで、AIスタートアップのTogether、Ontocord.ai、チューリッヒ工科大学のETH DS3Lab、スタンフォード大学のStanford CRFM、Hazy Research、MILA Québec AI Instituteによる共同研究プロジェクトとして進められている。RedPajamaはその第一段階として、1兆2千億以上のトークンを含むLLaMAトレーニングデータセットを公開した。

RedPajama, a project to create leading open-source models, starts by reproducing LLaMA training dataset of over 1.2 trillion tokens — TOGETHER
RedPajama is a project to create a set of leading, fully open-source models. Today, we are excited to announce the completion of the first step of this project: the reproduction of the LLaMA training dataset of over 1.2 trillion tokens.

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)