デジタル人民元がテンセントとアントの決済帝国を壊し始める
デジタル人民元の利用対象地域が拡大し、企業や行政が決済手段として採用しつつある。この最先端の中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、アントグループとテンセントのデジタル決済の牙城をいよいよ脅かし始めた。
デジタル人民元の利用対象地域が拡大し、企業や行政が決済手段として採用しつつある。この最先端の中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、アントグループとテンセントのデジタル決済の牙城をいよいよ脅かし始めた。
福建省福州市が開発・構築した市の公式スポーツサービスプラットフォーム「e福州」アプリは11月30日、デジタル人民元決済に対応した。同25日には広東省と中国工商銀行広東支店が同省広州市で初のデジタル人民元納税業務を成功させた。その2ヶ月前、中国人民銀行は、本土人工の20%をカバーする23都市のユーザー向けにiOSとAndroid向けの新しいデジタル人民元(e-CNY、数字人民币)アプリをリリースした。
上海、北京、深圳を含む中国23都市のユーザーは、さまざまな商業銀行を通じてサインアップすると、商品やサービスの代金をe-CNYで支払うことができるようになった。今後、最も人口の多い広東省をはじめとして、河北省、四川省、江蘇省にも順次拡大していく予定だ。
デジタル人民元は2020年10月に深圳で試験運用を開始し、2021年末までに累計取引額が875億7,000万元(約1兆7,200億円)に達した。中国人民銀行は、2021年末の公式アプリ「eCNY」のユーザー数は2億6,100万人に達したとし、2022年8月31日までに1,000億元以上が3億6,000万件の取引で使われたと報告している。これが段階的に採用地域が拡大しているため、今後も増えていくと見られる。
中国は2019年にデジタル人民元の最初の試験運用を開始したが、北京オリンピックは、世界的な野心を持つプロジェクトの重要なお披露目の舞台となった。公式なデジタル通貨を大規模に展開する最初の主要国として、中国は、公式な形のデジタルキャッシュの概念が議論の段階にとどまっている米国や日本をはるかに凌駕している。
中国のデジタル決済は、長きに渡って他国の追随を許さなかった。パンデミック以前に、中国ではモバイルウォレット決済が9兆5,000億元(1兆4,000億ドル)規模に達していた。2013年からは、アントグループのAlipayとテンセントのWeChat Payが、モバイル決済市場の90%以上を支配するようになり、他の国々もこのモデルを熱狂的に真似するようになった。しかし、北京当局は、資金とそれに付随する非常に価値の高い顧客データが、2つのテクノロジー企業に独占されていることを好ましく思っていなかった。
顧客がどのアプリを使うかわからないため、加盟店は少なくとも2者のQRと、銀行向けの国有決済処理会社である中国銀聯のアプリを提供する準備をしなければならなかった。
しかし、デジタル人民元は、別のプラットフォームと分離された「ウォールドガーデン(壁に囲まれた庭)」を圧迫する役割を持っている。中国人民銀行は、加盟店がすべての顧客に単一のQRを表示し、デフォルトでデジタル人民元を受け入れるようにする予定だ。中国人民銀行副総裁の範一飛は、最近のデジタル金融に関するフォーラムで、特にバーコードを標準化し、「加盟店がコストを上げずにさまざまな決済ツールに対応できるようにする必要がある」と述べている。
コンサルティング会社オリバー・ワイマンの調査報告書は、デジタル人民元はネットワークの優位性を低下させ、2社の複占に挑戦する、と主張している。
WeChatは、デジタル人民元アプリの提供開始直後に、サービス利用時の決済オプションとしてe-CNYを選択できるようにすると発表している。WeChatは、12億人以上のユーザーを抱え、そのうち約7億5千万人が日常的に活動しているため、e-CNYの利用が急激に拡大する可能性がある。
2021年5月には、e-CNYがアリババのサービス・エコシステムに統合されることも発表された。これにより、アリババのフードデリバリーアプリ「ele.me」や食料品配達アプリ「Hema Fresh」、ECプラットフォーム「Taobao」「Tmall」の利用者は、Alipayと直接競合しているとはいえ、注文代金をe-CNYで支払うことができるようになっている。
参考文献
- Fullerton, Elijah JourneyMorgan, Peter J.. The People's Republic of China's Digital Yuan: Its Environment, Design, and Implications. ADBI Working Papers.