地球冷却のために成層圏に粒子を散布せざるを得ない?

成層圏に硫黄粒子を散布することで太陽光を遮り、地球を冷却しようとするスタートアップMake Sunsetsが注目を浴びている。同社の試みは、ジオエンジニアリング(気候工学)と呼ばれる介入によって気候変動を解決しようとするものだ。

地球冷却のために成層圏に粒子を散布せざるを得ない?
Photo by Richard Horvath

成層圏に硫黄粒子を散布することで太陽光を遮り、地球を冷却しようとするスタートアップMake Sunsetsが注目を浴びている。同社の試みは、ジオエンジニアリング(気候工学)と呼ばれる介入によって気候変動を解決しようとするものだ。

Make Sunsetsは、2つのベンチャーキャピタルファンドの支援を受け、10月に設立された。この会社は、地表から20km以上離れた成層圏に気球で硫黄を注入する計画を持っており、すでに2回のテスト飛行を行ったと主張している。この会社は成層圏に硫黄粒子を注入すると、深紅の夕焼けが見られることから名付けられた。年間500億ドルで、世界を産業革命以前の気温に戻せると主張している。

Make Sunsetsの試みはソーラー・ジオエンジニアリング(SRM:太陽光気候工学)と呼ばれる。SRMとは、大規模な火山噴火の後に起こる自然のプロセスを真似て、太陽光をより多く宇宙空間に反射させることで気候を操作しようとする意図的な取り組みのことである。理論的には、硫黄などの粒子を大量に噴霧することで、地球温暖化を緩和できる可能性がある。

地球の歴史を振り返ると、火山噴火などで成層圏に巻き上げられたエアロゾル粒子は、太陽光の一部を宇宙に反射することで、寒冷化をもたらしてきた。カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは成層圏への粒子散布による地球温暖化対策を行った場合、作物収穫量は増加も低下もしないと予測している。気温の低下によって収穫量が向上するものの、日照時間の減少による生産性の低下によってそれが打ち消される、というのが彼らの結論である。

「暑いときに頭に傘をさすようなものです」と論文の筆頭著者で、カリフォルニア大学バークレー校農業資源経済学部の博士課程に在籍するJonathan Proctorは言った 。「地球規模の日除けを設置すれば、温暖化を遅らせることができます」

ホワイトハウスは、「気候への介入」研究のための5年間のアウトラインを設定した。その中には、SRMが含まれている。Make Sunsetsが実現しようとしている手法だ。SRMはより穏当な手段で気候変動を抑制することに失敗した場合を想定した、過激な手段とみなされている。過激な手段が必要になりつつあるとみる気候学者もいる。昨年、全米科学アカデミーは、この問題の研究に少なくとも1億ドルを使うよう勧告した。

SRMには反対派がいる。380人以上の科学者が署名した公開書簡では、SRMの世界的な不使用協定を要求している。「太陽熱地球工学のリスクは十分に理解されておらず、完全に把握することは不可能である。影響は地域によって異なるはずで、気象パターンや農業、食糧や水といった基本的なニーズの供給への影響も不確かである」と書簡はSRMを非難している。

昨年、スウェーデンで行われたハーバード大学の研究者が率いる高高度SRM気球の探査飛行は、環境保護団体や先住民族の指導者の反対中止された。ハーバード大学の物理学者で、このプロジェクトに携わっているデビッド・キースは、気候変動の影響を最も受けている国を含む他の国々での調査では、ジオエンジニアリングの研究を支持していることが示されていると話した

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の環境法の専門家エドワード・パーソンは、ほとんどの研究者は、絶望的で最後の手段だと思われる選択肢を展開することに慎重である、と説明している。しかし、最後の手段を検討せざるを得なくなるシナリオの上に人類は立っている。「私の意見では、今後30年間に国家が太陽地球工学に真剣に取り組む確率は約90%です。影響がよりひどくなり、(気候変動の)緩和策が大幅に増加しない場合、どこかの主要国が、その国民が耐え難い気候の害に苦しんでいると考える可能性がかなり高いと私は判断しています」。

参考文献

  1. 杉山昌広, 西岡純, 藤原正智. 気候工学(ジオエンジニアリング).

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

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米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)