「資本は増えども優れたスタートアップは増えず」 ベンチャー投資ブームの真相

未曾有のベンチャー投資ブームが巻き起こった2022年。当時もてはやされたスタートアップが20ヶ月の「生存資金」を確保しようと汲々としている。お金はすべてを解決しなかったのだ。

「資本は増えども優れたスタートアップは増えず」 ベンチャー投資ブームの真相
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未曾有のベンチャー投資ブームが巻き起こった2021年。当時もてはやされたスタートアップが20ヶ月の「生存資金」を確保しようと汲々としている。お金はすべてを解決しなかったのだ。

サン・マイクロシステムズの共同設立者ビノッド・コースラはフィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューに対し、2021年のブームが必ずしも技術革新を促進しなかったと主張した。

「資本が過剰になると、何かに利用せざるを得なくなる。しかし、優れたスタートアップ企業や起業家の供給は、資本の流入ほどには増加しなかった」

一部の分野には資本が集まりすぎた、とコースラは言う。多額の現金を消費するビジネスモデルとしてUberがあり、おそらく、資本がもっと少なければ、あのような発展は不可能だった、とコースラは指摘する。Uberは、非上場時の破竹の勢いとは裏腹に、上場後の株価は低調なパフォーマンスを続けている。自律走行や「空飛ぶクルマ」の垂直離着陸機 (VTOL) のような研究開発部門は切り離し、未だに黒字化していない。

BNPL(後払い決済)の雄ともてはやされたクラーナは、パンデミックブームのから騒ぎの象徴的存在となった。わずか1年前の評価額である460億ドルから数分の1の約65億ドルで新たな資本を調達する予定である、と複数の関係者を引用してFTが1日に報じている。バリュエーションを2倍の460億ドルにまで引き上げた資金調達ラウンドは、ソフトバンクグループ(SBG)が主導した。SBGは世界中の衆目を集める破綻に至ったWeWork、グリーンシル、カテラの筆頭株主だった企業だ。

VC業界はここ数年、好景気に沸いていたのにもかかわらず、低迷期を迎えた。セールスフォースからエクソンモービルまでの大企業のベンチャー部門、コーチューやタイガー・グローバルなどのニューヨークのヘッジファンド、ウォール街のバイアウト王、その他シリコンバレーの中心地では嘲笑的に知られている「観光客」などが、新興企業に資金を投下した。北京からバンガロールまで、世界各地に新しいハイテク拠点が誕生した。

調査会社のCB Insightsによると、2021年に世界のテック系スタートアップが集めた資金は6,210億ドル。これは前年の2倍、2012年の10倍だった。しかし、昨年終盤から急激にテックセクターをめぐる風向きが変わった。ハイテク企業の多いナスダック総合株価指数は、昨年11月のピークから30%下落した。データプロバイダーであるPitchBookは、2020年以降にアメリカで上場した140社以上のVC支援のスタートアップが、生涯に調達した資金総額よりも低い時価総額になったと見積もっている。

ドットコムバブルのピーク後は、VCファンドの資金投入が2年以上低下したが、そこまでひどい調整はないだろうと、エコミスト誌は予想している。というのも、多くの新興企業が昨年のブームを利用して十分な軍資金を蓄えており、健全なバランスシートを有しているからである。一般的なキャッシュバーンレートを想定すると、70社あまりの大手ソフトウェア新興企業のうち3社を除くすべてが、2025年まで持ちこたえるだけの資金を調達していると、エコノミスト誌は分析している。

コースラは、最近まことしやかに語られていた「お金の出し手が勝者を決める」という論理に疑念を示した。「ソフトバンクの資金があれば、不利な条件を克服して資本を投入することができた旧来の世界よりも、小規模な起業家の方が、優れた技術や優れたアプローチを差別化できる可能性が高くなる」。資本の多寡は必ずしも勝敗を決せず、ときに資本の悪い使い方を助長する。

これに対し、より小さな資本で始めた会社はより高い資本効率を表現できると彼は説いている。「私は、資本がもっと少なければ、新興企業はもっと発展していたと思う(中略)もし現在の環境が続くなら、今後10年間で、大企業の設立における資本効率は上昇する」

2021年のように資本が溢れた状況だと、2020-21年に組成されたファンドの今後10年間のリターンは相当低くなるとFTの西海岸担当編集者、リチャード・ウォーターズが指摘すると、「彼らは高いお金を支払ったのだから、それは間違いない」と応じている。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

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1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

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今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)