急成長するアマゾン広告の「負の側面」

アマゾンの広告ビジネスは急成長しており、クラウドに次ぐ稼ぎ頭にまで台頭した。一方で、ユーザー体験の悪化や販売業者への「追加課税」の影響が懸念されている。アマゾンは危ない橋を渡ってはいないだろうか。

急成長するアマゾン広告の「負の側面」
出典:Amazon

アマゾンの広告ビジネスは急成長しており、クラウドに次ぐ稼ぎ頭にまで台頭した。一方で、ユーザー体験の悪化や販売業者への「追加課税」の影響が懸念されている。アマゾンは危ない橋を渡ってはいないだろうか。


アマゾンの広告ビジネスは2021年に58%成長して売上収益が310億ドルを超え、米国ではGoogleとFacebookに次ぐ第3位のオンライン広告販売業者となった。2022年の最初の9カ月間で、アマゾンの広告収入は、プライム、プライム・ビデオ、その他オーディオや電子書籍の購読料から得られるお金を合わせた額を上回った。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と並んで、広告が同社の2大利益エンジンの1つに浮上している。

アマゾンは、ビデオゲームのライブストリーミングサービスTwitchやPrime Videoで配信されるスポーツイベントのライブ中継など、アマゾンが保有するサービスでのビデオCMの販売を強化し、Amazon Musicでのオーディオ広告の提供により、広告事業を新たな高みへと押し上げようと考えている。また、同社は、ブランドがウェブ上でターゲットを絞った広告を購入できるようにするための自社ソフトウェアツールに多額の投資を行っている。

このような変革により、アマゾンは、電子商取引、物流、エンターテイメント、クラウドコンピューティング、音声アシスタントなどすでにあるリストに広告を加え、さらに別の業界における有力プレーヤーとなったのである。しかし、アマゾンの広告進出は、他の業界と同様、アマゾンでの販売で生計を立てようとする中小企業の出店者から、オンラインで物を買う経験が変化し続ける人々、アマゾンとアマゾンに追随して広告を増やしているウォルマートやホームデポなどの競合他社まで、何百万人もの人々に複雑な波及効果をもたらしている。

多くの広告主がこの広告を気に入っており、それには十分な理由がある。アマゾンの検索結果広告は、Googleと同様のアプローチで、広告主が特定の検索キーワードに入札し、検索結果の上位に自社の製品リストを表示するものだが、1つだけ決定的な違いがある。アマゾンで商品を検索する人は、通常、すぐにでも商品を購入しようとしているのに対し、Googleで検索する人は、ただ商品についてリサーチしているだけかもしれない。

もう一つの違いは、アマゾンの広告をクリックした後、顧客がアマゾンのサイト内で購入することが多いため、どの広告が購入につながり、どの広告がそうでないかを、完全ではないが、よりよく把握できることだ。Googleの検索広告は通常、ユーザーを別のサイトに誘導するため、広告効果の測定がやや複雑になる。また、Googleのユーザーの中には、実店舗で購入する人もいるため、広告が効果を上げたかどうかの測定はさらに難しくなる。

アマゾンのこのいわゆる「アトリビューション(貢献度評価)」は、広告主にとって、どの広告が実際に効果を上げているか、つまり販売につながっているか、をよりよく確信できるようにするものだ。また、Appleは最近、広告主が様々なアプリを行き来する顧客をターゲティングすることを難しくしており、アマゾンの閉じたエコシステムをより魅力的にしている。

ガートナーの著名なバイスプレジデント・アナリストであるAndrew Frankは「デジタル広告の予算は、広告主が拡張性のあるターゲットキャンペーンに必要なデータとメディアを持つ、ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭園)へとシフトした」ことを指摘している。これこそ、アマゾンが提供するものだ。

ユーザー体験の悪化

しかし、アマゾンのページ上に増え続ける広告の存在は、顧客のショッピング体験全体を担当するアマゾンの一部のスタッフを苛つかせているようだ。広告部門とは別に運営されている同社の小売部門は、「広告によって顧客体験がネガティブな影響を受けると本気で信じていた」とアマゾンの元バイスプレジデントはRecode / Voxに語っている。広告部門は、この事業から得られる利益がいかに重要であるかを強調し、社内の議論で優勢に立っているようだ。

アマゾンの直近の四半期決算では、販売された全商品の58パーセントがサードパーティ販売によるものだった。サードパーティ販売とは、アマゾンが「マーケットプレイス」と呼ぶ場所を通じて商品を販売する特権のために、中小企業を中心とする何十万ものオンライン販売業者から料金を支払っている業者だ。

こうした販売業者のおかげで、米国の他の小売業者とは比べものにならないほど充実している。アマゾンはまた、これらの販売業者に課す手数料から巨額の収益を得ている。直近の3カ月間で、商品の出品からアマゾンの倉庫での保管・発送、顧客サービスまで、あらゆる手数料が280億ドル以上にも上る。

ワシントンポストのテクノロジー・コラムニスト、ジェフ・ファウラーは「Amazonでの買い物体験が悪化している」と訴えている。彼の主な不満は、広告がアマゾンの検索結果を支配するようになったことである。先週、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、アメリカの顧客満足度指数でアマゾンの順位が過去最低に落ち込んだと指摘した。アマゾンはかつて、同調査で常に上位にいることを自慢していたが、最近のスコアの変化については沈黙している。

世界中のウェブサイトから1日に10億回以上の検索を追跡している広告テクノロジー企業のキャプティファイ(Captify)は先週、ブラックフライデー割引に関する検索で、ウォルマート(前年比386%増)が昨年首位だったアマゾンを抜いたと伝えた

広告は出品者に対するさらなる課税

一方で、広告は出品者に対するさらなる課税という側面もある。

5~6年前は、多くの出品者がアマゾンの広告にお金をかけずに、高品質で差別化された商品で、アマゾンでビジネスを構築することができたが、現在はそうではない。Recodeがインタビューした6人の大規模な販売業者によると、アマゾンで成功している販売業者は、売上の10パーセントから20パーセントをアマゾン広告に費やす必要があるそうだ。これは、アマゾンに支払う出品料や倉庫保管料に上乗せされたものだ。

アマゾンの「課金」は、過去1年間にアマゾンで販売する商品の価格を大幅に引き上げなければならなかった理由の上位2つのうちの1つであると言う人もいたという(広告費に次いで多くの人が挙げる理由は、アマゾンが出品者に課す倉庫での保管・発送手数料の値上げだ)。

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
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