メタバースの普及にはまだ時間がかかる

メタバースは各社によって喧伝されたような速度で実現しておらず、今後もハードウェアとアプリケーションにおいて試行錯誤が求められる。長い道のりになりそうだ。

メタバースの普及にはまだ時間がかかる
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メタバースは各社によって喧伝されたような速度で実現しておらず、今後もハードウェアとアプリケーションにおいて試行錯誤が求められる。長い道のりになりそうだ。


ニューヨーク・タイムズのテクノロジー・ジャーナリストBrian X. Chenは、2月22日に発売予定のソニーのPlayStation VR2の先行レビューで「購入できるVRハードウェアの中で最高の1つ」と評したものの、「VRゴーグルが必要な理由はまだわからない」と付け加えた。

Metaとは異なり、ソニーはVRゴーグルの使用をゲームのみに限定している。一週間で様々なVRゲームを試したChenは「『なぜ、テレビ画面ではなく、VRでプレイする必要があるのだろう』と思うことが多々あった」と書いている。

ChenはPlayStation VR2ゴーグルを装着してオープンワールド型アクションRPG『Horizon Call of the Mountain』をプレイしたが、PlayStation 4のオリジナル版、つまり通常のスクリーンでプレイするほうが好みだったようだ。

Chenの意見は珍しいものではない。「メタバース」というバズワードは、エピックゲームズのティム・スウィーニーがしきりに囃し立てていたのを、マーク・ザッカーバーグが(いつも通り)パクり、社名にまでしたことでゲーム業界やテクノロジー業界の外側まで広まった。ゴールドラッシュに追いつこうとする熱狂が生まれた反面、業界はまだ、決定的なハードウェアとキラーアプリケーションを見つけられずにいる。

その最中、Microsoftは1月、ゲームやメタバース向けの消費者向けVRから事実上撤退した。 ビジネス向けVRのHoloLensでも、米陸軍との大型契約がなくなり、関連従業員の90%を削減した。2月には、産業用メタバースプロジェクト部門の閉鎖を決定。2022年10月の開始からわずか4ヶ月での決断だった。同社はVR / AR分野を放棄し、ChatGPTのようなAI分野への投資に厚みをもたせている。

Metaは、大量の資金を投じ、少なくともハードウェアの品質を素早く引き上げることはできそうだ。しかし、MetaのAR / VR部門のCTOを勤めていたジョン・カーマックは昨年12月に同社を去る際に、組織の効率性の低さを指摘している。「とんでもない数の人材とリソースを持っていながら、常に自虐的になって努力を浪費している。これはどうしようもないことで、私たちの組織は、私が満足できるような効果の半分で運営されていると思います」。

VR / AR、ゲーミング分野のベンチャー投資家であるマシュー・ボールは、1月に発表したブログで、2023年のVR / ARの状況を観察すると、この技術は、最も情報に精通し、最も財務的に恵まれた企業の多くが予想したよりも難しいことが証明されていると言っていい、と指摘している。

VRは、マスマーケットに到達するのに苦労し続けている。確かにMeta Quest 2は何百万本も売れている。しかし、XboxやPlayStationのようなゲーム機は、小売店でいまだにVRヘッドセットの販売を上回っている。

ボールは、消費者の使用時間もシステムによって異なるのではないかと推測した。ボールによると、2022年3月現在、PlayStation 5の平均的な所有者は月に50時間、1日に約2時間デバイスを使用した。

一方、VRヘッドセットの使用時間については、確かな数字を見つけることができない。また、XboxやPlayStationの年間売上は3年目になっても伸び続けているが、Meta Quest 2の売上は発売後2年目ですでに減少している。

決定的なハードウェアが生まれていない要因について、ボールは、VR機はゲーム機よりも開発要件が厳しいことを挙げている。ゲーム機とは対照的に、VR機は電源ケーブルなしで動作しないといけない。ゲーム機はテレビに接続するだけだが、VR機は独自のディスプレイを搭載し、WiFiとモバイルネットワーク接続を装備していることなどが望ましい。また、VR機は、ユーザーの頭への負担を最小限にするために、より軽量であるべきでもある。

ただ、彼は、ARはもっとマス市場への到達が近い、とみている。彼は、メタバースが成功するために必要なARアプリケーションの多くは、すでに私たちのスマートフォンで利用されていると述べ、メタバースに対してやや楽観的な見方でエッセイを締めくくっている。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

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By エコノミスト(英国)
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By エコノミスト(英国)