ロボットは雇用を奪わず、むしろ増やしてきた

ロボットの導入で雇用が減ると言われがちだが、日本における1978年から2017年までの長期データを用いた実証研究によると、実際にはロボットは雇用を増やしていたことが判明した。

ロボットは雇用を奪わず、むしろ増やしてきた
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ロボットの導入で雇用が減ると言われがちだが、日本における1978年から2017年までの長期データを用いた実証研究によると、実際にはロボットは雇用を増やしていたことが判明した。


東京大学大学院経済学研究科教授の川口大司、早稲田大学政治経済学術院准教授の齊藤有希子、オーフス大学経済学部助教授の足立大輔は、1978年から2017年にかけての40年間の長期にわたる日本の産業用ロボット導入と雇用のデータを用いて、ロボット導入が雇用に与える影響を分析した。

彼らは、ロボット価格を用いてロボット普及の労働需要への因果効果を推定するという戦略をとった。これまでの研究は、データの制約から、ロボットの導入コストを考慮することができなかった。川口らが採用したJARAのデータは、1978年から2017年までの産業別・用途別ロボット出荷台数(台数・販売金額)に関するものだ。川口らの活用した日本のロボットデータの特徴は、タスクの分類に応じたロボットの単価を観測できることであり、これによりロボットの価格低下が産業雇用の変化に与える影響を研究することができる、と共著者らは主張している。

川口らは、産業レベルではロボットと労働は補完関係にあり、ロボット価格の1%下落がロボット導入の1%増加につながり、雇用は0.28%増加することを明らかにした。著者らは、こうした結果は、戦後の労働力不足により日本で発生したような、ロボットに対する強い国内需要の産物である可能性があると結論付けている。高い需要はロボット導入の増加につながり、その結果、「規模に関して収穫逓増(increasing returns of scale)」による効率向上がもたらされ、自動化と雇用に関する他の文献に見られる、より負の効果が緩和された、と分析している。

米国においてはロボットの導入が雇用を減らすという研究結果が出ていた。マサチューセッツ工科大学経済学部教授のDaron Acemoglu、ボストン大学助教授のPascual Restrepoは1990年から2007年にかけての米国のデータを使い、産業用ロボット利用の増加の雇用と賃金に対する効果は、通勤圏をまたいで大きく、かつ強固な負の効果がある、と結論づけていた。Acemogluらの推計によれば、労働者1,000人当たりロボットが1台増えると、人口に対する雇用比率は約0.18〜0.34%ポイント、賃金は0.25〜0.5%低下するとされていた。

川口らはこの先行研究と結果を比較するため、観察単位を産業別から通勤帯別に変えた分析も行った。分析の結果、労働者1,000人あたり1台ロボットが増えると雇用が2.2%増加したことが示された。これはAcemogluらによる米国の推定結果の-1.6%と雇用が減る結果とは対照的だった。

「このように結果が異なる原因ですが、まず、ロボット導入の初期に当たる1980年代は石油ショック後の安定成長の中で自動車や電機といった産業がその産出量を増やしつつあり、その中で人手不足が成長阻害要因となっており、ロボット導入による人件費削減が低コスト生産を可能にし生産規模を拡大させたことが考えられます」と川口はブログに書いている。

「また、ロボットの導入に伴うコスト減が国内生産を維持することにつながったことも重要だと考えられます。ロボット導入に伴う労働代替が雇用を減らした面もあったものの、生産コスト減による生産規模の維持・拡大の効果が大きく、最終的には雇用を増やしたと考えられます」

「新技術の導入が仕事を奪う直接的な効果がある一方で、新技術導入をコストダウンにつなげ、生産規模の拡大を通じて雇用を増やす間接的な効果も期待できます。つまり、新技術導入が雇用増をもたらすかどうかは、生産性向上による生産規模拡大が起こるかにかかっているといえます。生産規模が拡大すればそれに付随して雇用機会は拡大し、賃金や労働時間といった就業環境も改善していくことが期待されます」

これは、必ずしも日本に限定される研究結果ではないかもしれない。日本の製造業は世界中にロボットを輸出しているため、本研究で開発した産業年別有効ロボット価格系列は、他国におけるロボット導入の効果を分析するための説明変数として機能する可能性がある、と川口らは書いている。

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