AMDはNVIDIAのAIチップ独占の有望な挑戦者になれるか

最近のNVIDIAの株価急騰の多くは、AIプロセッサー市場の独占で説明できる。この状況を嫌うステークホルダーは多い。AMDはIntelのシェアを取り崩したシナリオをAIチップでも再現できるだろうか。

AMDはNVIDIAのAIチップ独占の有望な挑戦者になれるか
Instinct MI300のイメージ。出典:AMD

最近のNVIDIAの株価急騰の多くは、AIプロセッサー市場の独占で説明できる。この状況を嫌うステークホルダーは多い。AMDはIntelのシェアを取り崩したシナリオをAIチップでも再現できるだろうか。


AMDは6月13日に「AMD Data Center and AI Technology Premiere」を開催し、CEOのリサ・スーがAI製品の展望を詳しく説明する予定だ。

最も期待されている製品は、NVIDIAのH100 GPUに対抗できるAMDのデータセンター向け加速処理ユニット(APU) である「Instinct MI300」である。Instinct MI300は年初の国際展示会CESで開発は発表されたものの、その詳細は余り公表されていない。

Instinct MI300は、2 EFLOPS(エクサフロップス)の性能を示すローレンスリバーモア国立研究所(LLNL)のEl Capitanスーパーコンピュータに搭載されており、年内に量産が開始されるとの台湾の業界筋の観測もある。

CTOのMark PapermasterによるITF Worldの基調講演では、2025年までに電力効率を30倍にするというAMDの目標「30x25」が示され、ムーアの法則が遅くなっている現在、電力効率の重要性が増していることに言及された、とTom’s HardwareのPaul Alcornは書いている。その構想の鍵となるのがInstinct MI300であるという。

APU は、従来的なCPUとGPUを一つのチップに統合することで、高い計算能力と効率性を同時に提供するプロセッサだ。APUの技術は、AMDが2006年にATI Technologiesを買収したことにより実現可能になった。ATIは、高性能グラフィックスカードとチップセットの製造で知られていた。この買収により、AMDは自社製品の中に強力なグラフィックス機能を組み込む能力を得た。これは、高性能コンピューティングとゲームの領域での競争力を大いに向上させた。

その一方で、AMDの主要な競合相手であるNVIDIAは、独自のGPU技術とGPGPUプラットフォームであるCUDAを持っている。これにより、NVIDIAはAIやディープラーニング、高性能コンピューティング(HPC)といった分野で強力な地位を確保している。

NVIDIAのA100とH100 GPUは、世界のAI GPU市場で覇権を握っている。ソフトウェア、ハードウェア、エコシステムの強さ、価格、仕様、供給の面で、NVIDIAはAI GPU分野をリードしている。しかし、業界は、1社が市場を独占することで、価格や供給の交渉の余地が少なくなることを警戒している。

NVIDIAの支配を望まないテクノロジー企業は多いだろう。Microsoftは、AMDと提携し、AIプロセッサーへの進出を後押ししていると言われている。ブルームバーグの報道によると、AIプロセッサー市場で推定80%の市場シェアを握るNVIDIAに対抗するため、Microsoftはエンジニアリングリソースを提供しているとのことだ。

ブルームバーグの情報筋は、AMDがMicrosoftの自社製AIチップ(コードネーム:Athena)の開発を支援しているとも主張した。Microsoftのシリコン部門の数百人の従業員がこのプロジェクトに取り組んでいるとされ、同社はすでに約20億ドルをその開発に注ぎ込んでいるようだ。

自社製のAIチップを開発しようとしているのはMicrosoftとAMDだけではない。GoogleはAIモデルを訓練するための独自のTPU(Tensor Processing Unit)チップとTensorFlowライブラリを持っており、Amazonも同様に機械学習コンピューターモデルを訓練するためのTrainium AIチップを作った。ただ、AMDと違ってこれらは外販されない。

ソフトウェアもAMDの挑戦の鍵を握るだろう。この10年間におけるAIのブレークスルーの大半は、NVIDIAのCUDAエコシステムに頼ってきた。AMDのGPGPUプラットフォームであるROCmは元々HPC用途に設計されていたが、直近のアップデートでPyTorch、TensorFlowなどの機械学習ライブラリのサポートが追加されAI処理のプロダクションレベルに近づいている。

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