サウジはゲーム産業でも大盤振る舞い
サウジアラビアが、自らを世界の主要なプレイヤーへと引き上げようとする努力は、ゲーム産業にも広がっている。任天堂やカプコンの大株主である同国が、ゲームの中心地に躍り出る日は来るのだろうか。
サウジアラビアが、自らを世界の主要なプレイヤーへと引き上げようとする努力は、ゲーム産業にも広がっている。任天堂やカプコンの大株主である同国が、ゲーム産業のメッカに躍り出る日は来るのだろうか。
サウジアラビアは、スポーツやエンタメ産業で積極的な投資と改革を進め、世界的な存在感を高めつつある。サッカー界では、カリム・ベンゼマやネイマールなどの世界的スター選手を獲得し、国内リーグのレベル向上を図っている。エンタメでは、紅海国際映画祭や米最大のプロレス団体「WWE」などの大型イベントを開催し、海外からの観光客誘致につなげている。
サウジアラビアの政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が支援するゴルフツアー「LIVゴルフ」は、米男子ゴルフのPGAツアーから選手を引き抜き続けている。PGAツアーとサウジ政府系ファンドのPIFは、事業統合の期限が12月31日に迫る中で最終合意への詰めの作業を進めている。
ムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子はゲーム産業での勢力拡大も企図している。同国の政府系ファンド、公的投資基金(PIF)は、テイクツー・インタラクティブ、エレクトロニック・アーツ(EA)、アクティビジョン・ブリザードなどの米ゲーム大手企業に少数株主として出資。日本企業ではカプコン、ネクソン、任天堂の株式を保有している。MBSは熱心なゲーマーとして知られる。
PIFが100%出資するゲーム産業専用投資ファンドSavvy Games Group(2021年11月設立)も、非常に活発に活動する。傘下に12レーベルを抱えるスウェーデンの大手ゲーム会社 Embracer Groupの株式を10億ドルで購入し、モバイルゲームパブリッシャーのScopelyを49億ドルで買収した。Savvy には380億ドルの軍資金が与えられている。投資規模という点では、中国のテンセントやのような大企業を凌ぐ。サウジアラビアは昨年、主に大手企業の株式購入を通じて、ゲーム業界に80億ドルを投資したとフィナンシャル・タイムズは報じた。
Scopelyは、Savvyにとってこれまでで最大の買収であり、モバイルゲーム市場における確固たる足がかりとなった。同社はスパイダーマンやXメンらのマーベルのヒーローを使ったモバイルゲーム「Marvel Strike Force」のパブリッシャーだ。最近、Scopelyの傘下スタジオが開発した、有名ボードゲームのゲーム版『モノポリーゴー」は、今年提供開始からわずか7ヶ月で10億ドルの収益を達成したと明らかにした。このタイトルは120カ国の「数百万人のプレイヤー」から毎月2億ドル以上の収益を集めており、4月のデビュー以来、1億回以上ダウンロードされた。
ゲーム産業の育成は国家目標だ。サウジアラビアは、「サウジ・ビジョン2030」 と呼ばれる国家目標の中で、2030年までに250のゲーム会社とスタジオを設立し、39,000人の雇用を創出し、国内総生産の1%に貢献することを目指している。ゲーム立国戦略は、技術やハードウェアの開発、ゲーム制作、eスポーツ、付加サービス、その他インフラ、規制、教育、人材獲得 の8つの分野に分けられており、20以上の政府・民間団体によって立ち上げられ、管理されている。
SavvyはPIFが100%所有しており、取締役会長にはMBSが就任している。しかし、MBSはマイクロマネジメントはやらないようだ。ブライアン・ウォードCEOは、ゲーム業界誌Gamesindustry.bizに対して、Savvyの運営体制についてこう説明している。「私たちは戦略、運営上の目標、指標、目的などをすべて設定します。全体的な戦略は、会長(ムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相)を含む取締役会によって承認されます......しかし、取締役会は私たちがやっていることに口を出したり、なぜ(私たちが)この会社に投資するのか、あの会社に投資するのかについて具体的な助言を与えたりはしません」
ウォードは、アクティビジョン・ブリザード(最近マイクロソフトに買収された)のワールドワイドスタジオの責任者を務めた経験を持つ人物。同スタジオはモンスターゲームの『コールオブデューティ』を開発したことで知られる。MBSは熱心な『コール・オブ・デューティ』プレイヤー。ウォードには、他にもEAやマイクロソフトなどの勤務歴があり、ゲーム業界での25年以上の経験がある。
eスポーツ
サウジアラビアは近年、その莫大な富を活用してeスポーツの舞台で存在感を示し、華やかなカンファレンスを主催したり、実績のあるトーナメント主催者を買収したりしている。eゲーム大手のESL GamingとFaceItを買収し、両者を統合してESL FaceIt Groupを設立するなどの動きも見られた。さらにサウジアラビアは9月、来年から首都リヤドでEsportsワールドカップを開催すると発表し、将来的には未来都市計画NEOMの観光資源の一つに利用する目論見がある。
PwCが昨年発表した調査によると、2026年には世界のゲーム産業はパンデミック前夜の2019年の2倍にあたる約3200億ドルを生み出すと予測した。アジア太平洋(APAC)地域は2021年に1,094億米ドルの収益を上げており、サウジがこの市場にっゲームを供給できれば良いビジネスになるだろう。
ただし、同国には人権侵害疑惑という障害がある。MBSは2018年にワシントン・ポスト紙のジャーナリス、ジャマル・カショギの殺害を画策したとして告発されている。2020年にゲーマーからの反発を受け、大手ゲームパブリッシャーのライオットゲームズとブラストプレミアの両社はサウジアラビアから撤退した。