死屍累々、過労と不安定な雇用が蔓延するゲーム業界の内実

ゲームビジネスはやりがいがあるが、同時に不安定でもある。過労や不安定な雇用は日常茶飯事だ。市場規模は年々拡大するものの、制作現場にはクリエイターの「屍」が堆く積み上がるという現実がある。

死屍累々、過労と不安定な雇用が蔓延するゲーム業界の内実
Photo by Javier Martínez

ゲームビジネスはやりがいがあるが、同時に不安定でもある。過労や不安定な雇用は日常茶飯事だ。市場規模は年々拡大するものの、制作現場にはクリエイターの「屍」が堆く積み上がるという現実がある。


2020年12月に発売された『サイバーパンク2077』は、ここ数年で最も熱望されたビデオゲームの1つだった。ハッカーや傭兵があふれる暴力的なディストピア「ナイトシティ」を舞台にしたロールプレイングゲームで、俳優のキアヌ・リーヴスが主役を務めている。

しかし、このゲームの開発元であるポーランドのCD Projekt REDは、ロールアウトに失態を犯してしまった。プレイヤーからは、キャラクターがランダムに浮遊するなど、不具合に悩まされるとの報告がすぐに寄せられた。同作の発売が近づくにつれ、スタッフはこのゲームが発売にふさわしいものではないことを知っていたらしい。経営陣が「このゲームはディスクにプレスできる」と宣言していたにもかかわらず、バグが発見された。

プレイステーションの目玉タイトルとして期待された『サイバーパンク』は、苦汁をなめ尽くしたが、最近のNetflix版のアニメの成功で息を吹き返し、恐ろしく過酷だと推測される製作現場にやっといい風が吹いている。

ジャーナリストのジェイソン・シュライヤーが上梓し、翻訳版が出版された『リセットを押せ: ゲーム業界における破滅と再生の物語』は、このような過酷な世界の描写に満ちている。

『リセットを押せ: ゲーム業界における破滅と再生の物語』 via ジュンク堂書店

シュライヤーは前作の『血と汗とピクセル: 大ヒットゲーム開発者たちの激戦記』(2017年)でビデオゲームが作られる過程を探っているが、本書はビデオゲームのビジネスについて知るための有益な入門書に位置づけたようだ。ゲームをプレイしている人、そしてシュライヤーが取り上げたタイトルや開発者を必然的に知っている人だけでなく、ゲームビジネスの内情を垣間見たい人にとって、本書はとても有望な作品である。

シュライアーはブルームバーグで、多くの会社の従業員を取材し、大手スタジオやインディーズ開発者のさまざまな逸話が紹介され、ゲーム業界における雇用の不安定さがよくわかるようになっているのだ。

ゲーム開発現場でよく知られたサイクルはこのようなものだ。ゲームスタジオは、あるプロジェクトについてアイデアを思いつき、急速に開発の規模を拡大する。しかし、どうしても予定した期間内に完成させることができないということが起きる。やがてプロジェクトは長期化し、スタッフは資金繰りの悪化や長時間労働のプレッシャーに悩まされるようになる。そして、最終的には、そのプロジェクトが中止されるか、パブリッシャーがレイオフや倒産を要求することもありうる。高額の予算がプロジェクトの終了前に消滅するケースも少なくない。

ゲーム業界は、過重労働と不安定な雇用が蔓延しているが、シュライヤーが行う人々の描写ががその「毒性」のリアリティを著しく高めている。

2013年に発売された米Irrational Games開発の『BioShock Infinite』(バイオショック インフィニット)の裏話もまた悲しみに満ちている。探偵を主人公に、1912年の架空の空中都市コロンビアを舞台にしたこのゲームを監修したのは、先見性はあるが厳しいボスであるIrrationalのケン・レヴィンだった。筆者は、『BioShock Infinite』の開発期間中、レヴィンが大小のアイデアを実行しては捨て、ゲームが常に変化した様を書いている。レヴィンは、気まぐれに、大きな調整をするようにスタッフに指示する。何週間も費やしてきたものが、いつの間にか水の泡になることが繰り返されるのだ。

このゲームの開発中に、職場環境に嫌気がさして辞めたシニアスタッフが何人もいたそうだ。『BioShock Infinite』は絶賛されたが、クリエイターは精神的に疲弊していた。発売から1年後、レヴィンはIrrationalを辞め、新しいスタジオを立ち上げると発表した。レヴィンのもとには一握りの人材が選ばれたが、それ以外は全員解雇された。

シュライヤーは、数え切れないほどの時間を割いて、この作品を完成させた報酬が職を失うことだったのは、とても不公平な印象を持ったことを隠していない。

これは、とてもいい話だ。


書名:リセットを押せ

副題:ゲーム業界における破滅と再生の物語

発売日:6月20日

【価格】

紙版:2,420円(税込)/四六判/並製/408ページ/ISBN978-4-909688-03-3 C0098

電子版:価格は書店によって異なる

著者:ジェイソン・シュライアー(Jason Schreier)

訳者:西野竜太郎

発行:グローバリゼーションデザイン研究所

出版社ページ:https://globalization.co.jp/publication/press-reset/

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