世界経済は4つのリスクに直面、シンガポールMAS長官が警告

シンガポールの中央銀行のラヴィ・メノン氏は、世界経済は来年の景気後退を含め1つではなく4つの重要な不確実性に直面しており、政策当局が消火活動を長く続けることになるというシグナルを発した。

世界経済は4つのリスクに直面、シンガポールMAS長官が警告
2020年11月24日(火)、シンガポールの中央銀行本部でブルームバーグ・テレビのインタビューに応じるシンガポール金融管理局(MAS)のラヴィ・メノン専務理事(Ravi Menon)

(ブルームバーグ) -- シンガポールの中央銀行のラヴィ・メノン氏は、世界経済は来年の景気後退を含め1つではなく4つの重要な不確実性に直面しており、政策当局が消火活動を長く続けることになるというシグナルを発した。

メノン氏は、世界経済の見通しに対する主なリスクとして、景気後退の深刻さ、中期的なインフレ率の推移、地政学が市場に与える影響、ポートフォリオに与える気候リスクを挙げている。

シンガポール金融管理局(MAS)のメノン局長は、プライベートエクイティとベンチャーキャピタルの専門家が集まるSuperReturn Asiaで講演し、「重要なのは、景気後退がどの程度深く、長期化するかだ」と指摘した。その場合、中央銀行は市場の予測よりも長く、より多くの引き締めを行うしかない」と、メノン氏は付け加えた。

シンガポールは、世界の多くの経済と同様に、まだピークに達していないインフレと、パンデミックから立ち上がる際に人手不足の企業にとって頭痛の種となる労働市場の逼迫に直面している。MASは、2回のサプライズ的な動きを含め、この1年ですでに4回の引き締めを行ったが、来月には再び引き締めを行い、年末までに物価上昇率を現在の7%台から鈍化させると予想されている。

中期的なインフレは、最近の穏やかな物価上昇よりもむしろ長く続く可能性が高いとメノン氏は言い、安いお金と安い労働力の時代は終わった可能性が高いと付け加えた。

シンガポールは逆風の中、今年は比較的安定した成長ペースを保つことができた。8月下旬からのブルームバーグの調査では、エコノミスト37人の中央値は、昨年8%近く成長した後、2022年は3.6%の成長を予測している。これは東南アジア地域の中でも最も遅い成長ペースとなる。

同時に、貿易に大きく依存するこの経済は、第一の貿易相手国である中国の弱体化による大きな影響など、世界的な見通しの悪化に脆弱である。世界的な金利上昇競争は、中央銀行に対して引き締め継続のさらなるプレッシャーを与えていますが、自国通貨の下落は他の地域の通貨に比べて小さくなっている。

以下は、メノン氏のスピーチの主なポイントである。

  • 3つの軸を提案。
      1. 成長から持続的な収益性へ2. 南アジア・東南アジアへの軸足3. 新たな資金調達の手段として、プライベート・クレジットに軸足を移す。
  • プライベート・マーケッツ・プログラムの一環として、世界のトップクラスのプライベート・クレジット・マネージャーと10億ドルの投資を行うことを発表。
  • これにより、プログラム全体の規模は60億ドルに拡大する予定

David Ramli, Michelle Jamrisko. Global Economy Faces Four Key Risks, Warns Singapore MAS Chief.

© 2022 Bloomberg L.P.

翻訳:吉田拓史、株式会社アクシオンテクノロジーズ

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