全世界再エネ化のコストは62兆ドルも年間11兆ドルのコスト削減効果 - 新研究

再生可能エネルギーが145カ国で既存のエネルギーを代替するための初期費用は全体で約62兆ドルだが、年間11兆ドルのエネルギーコスト削減効果があるため、新システムの投資回収期間は6年未満となる、という研究が登場した。

全世界再エネ化のコストは62兆ドルも年間11兆ドルのコスト削減効果 - 新研究
Photo by Jason Blackeye on Unsplash

スタンフォード大学のマーク・ヤコブソン教授(土木・環境工学)のグループが行った新しい研究は、再生可能エネルギーが145カ国で世界の二酸化炭素排出量の99.7%を占める既存のエネルギーを代替するための初期費用は全体で約62兆ドルだが、年間11兆ドルのエネルギーコスト削減効果があるため、新システムの投資回収期間は6年未満となる、と主張している。

また、新システムは、世界中で失われたものより2800万人以上多くの長期的な正規雇用を創出する可能性があり、新エネルギー用に必要な土地は世界の約0.53%で、そのほとんどは多目的に使用できる土地で風車間の空き地となる。このように、新しいシステムは、現在のシステムよりも少ないエネルギーで、少ないコストで、多くの雇用を創出する可能性があることが判明した、と論文は主張している。

この研究では、これらの問題を解決するために奇跡的な技術は必要ないと結論づけている。すべてのエネルギー分野を電化し、クリーンで再生可能な資源から電気を作り、その電気から熱、冷媒、水素を作り、電気、熱、冷媒、水素を蓄え、送電を拡大し、一部の電気の使用時間をシフトさせれば、安全、安価、信頼できるエネルギーをどこでも作ることができる。

クリーンな再生可能エネルギーは、燃焼系エネルギーに比べて消費エネルギーがはるかに少なく、これがコスト低減の大きな要因となっている、という。実際、人々が実際に消費するエネルギー量は、クリーンな再生可能エネルギーを採用したオール電化システムによって、全世界で56%近くも減少している。

この減少には、5つの原因がある。産業の電化が進むことで化石燃料を得るためのエネルギーが不要になること、電気自動車が内燃機関自動車よりも効率が良いこと、電気ヒートポンプが内燃機関ヒーターよりも空気や水の加熱効率が良いこと、効率改善が予想以上に進んでいること、などがヤコブソンらにより報告されている。

その上、新しいシステムは単位エネルギーあたりのコストをさらに平均12%削減し、その結果、全世界で年間のエネルギーコストを63%削減することができる。さらに、健康コストと気候コストの削減を加えると、エネルギーコストに健康コストと気候コストを加えた社会的コストは、現行システムと比較して92%削減されることになるという。

検討したエネルギー生産技術は、陸上と洋上の風力発電、屋根や発電所での電力供給用の太陽光発電、集光型太陽光発電、太陽熱、地熱の電力と熱、水力発電、および少量の潮流と波力発電のみである。電力貯蔵技術としては、揚水発電、既存の水力ダム貯蔵、集光型太陽光発電の電力貯蔵も扱ったが、最も重要視したのは電池であった。その結果、4時間以上の蓄電池は不要であることがわかった。4時間以上の蓄電池は必要なく、4時間蓄電の電池を連結することで長時間の蓄電が可能となった。感度試験では、電池の価格が50%高くても、全体のコストは基本試算より3.2%しか高くならないことが分かった。

ヤコブソンらは。完全に再生可能なシステムでは、昼間の充電は太陽光発電とうまくマッチするため、夜間に充電するよりもEVを充電する方が送電網のコストが低くと考えている。

参考文献

Mark Z. Jacobson et al. Low-cost solutions to global warming, air pollution, and energy insecurity for 145 countries. Energy Environ. Sci., 2022. https://doi.org/10.1039/D2EE00722C

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