自動運転チップの黄金期はいつか?

Mobileyeの上場目論見書は、ADAS向けの半導体ビジネスが黒字化しうることを示した。だが、より自律性の高い走行に対するハイエンドSoCが利益を生むのは、本格的な市場投入が予定される数年先のようだ。

自動運転チップの黄金期はいつか?
サンフランシスコで運営するCruiseの自律走行車。出典:Cruise

Mobileyeの上場目論見書は、ADAS向けの半導体ビジネスが黒字化しうることを示した。だが、より自律性の高い走行に対するハイエンドSoCが利益を生むのは、本格的な市場投入が予定される数年先のようだ。


10月下旬、インテル傘下のMobileyeはIPOを果たした。バリュエーションは、当初目標としていた500億ドル以上には遠く及ばないものの、7日のプレマーケットで194億ドルとなり、インテルが2017年にMobileyeの買収に支払った153億ドルを上回っている。これは最悪に近い市場の地合いを勘案すると悪くない着地点と言えるだろう。

Mobileyeは、自動車の先進運転支援システム(ADAS)を実現するハードウェアとソフトウェアの組み合わせを製造している。1999年にイスラエルで設立された同社は、2007年に最初のEyeQシステムオンチップ(SoC)を発売した。このチップは、自動車の運転支援システム用に最適化された処理能力を提供し、通常、消費電力が少ないものだった。Mobileyeは5世代のEyeQチップを開発し、2021年に1億個目のチップを出荷したと発表している。同社の収益の大半は、EyeQチップの売上が占めている。

Mobileyeが今年のCESで発表した「EyeQ® Ultra™」。出典:インテル
Mobileyeが今年のCESで発表した「EyeQ® Ultra™」。出典:インテル

チップ以外にも、Mobileyeは自律走行技術の「フルスタック」を実現できるとして、ソフトウェアプラットフォームを開発している。ソフトウェア運用には、同社が2018年から収集しているデータを利用したマッピングシステムも含まれる。Responsibility-Sensitive Safety(責任感知型安全論)と呼ばれるフレームワークは、意思決定エンジニアや運転方針など、自律走行車の安全システムを管理する。

Mobileyeは、車両が正確な全方位を把握するために、カメラとライダーシステムによる2つのセンシングシステムを使用する手法も開発している。そして、同社はソフトウェアで定義される次世代画像レーダーの設計に取り組んでおり、これによってより安価で大規模な展開が容易になるとしている。

上場目論見書であるS-1によると、Mobileyeの収益のほとんどは、同社の運転支援製品およびサービスの販売によるもので、そのうち「大部分」は、同社のEyeQチップをさまざまな自動車サプライヤーに販売することで得られる。Mobileyeは収益を2017年の2億1,000万ドルから2021年には13億9,000万ドルまで着実に増やしている。Mobileyeは前年同期の7億400万ドルに対し、8億5,400万ドルの収益を計上した。

Mobileyeは黒字化に近づいている。過去3年間、赤字幅は着実に縮小している。Mobileyeは、2020年に1億9,600万ドル、2019年に3億2,800万ドルの損失を計上したのに対し、2021年の純損失は7,500万ドルであった。

同社は、研究開発に主軸をおいた会社である。同社のグローバル従業員3,100人のうち、約8割が研究開発に専念している。7月までの6ヶ月間の研究開発費は3億5,900万ドルで、売上の約42%を占めている。一般に、大手チップメーカーは売上の20%程度を研究開発に費やしている。

さて、Mobileyeが開示したビジネス情報から分かることのなかには、自律走行車(AV)向けチップに関する手がかりがある。それは、ADASに対するSoCとソフトウェアのパッケージングビジネスはすでに成立している、と言えることだ。Mobileyeが黒字化を見据えていることがその一番の証左である。これに対して、L4/L5の自律走行におけるSoCとソフトウェアのビジネスはまだ黎明期である。

調査会社カウンターポイントのBrady Wangは、世界の自動車出荷台数におけるADASの普及率は2024年までに78.7%に達し、Mobileyeのような新興プレーヤーがADASチップ市場を牽引すると予想する。一方、L4 SoC搭載車が自動車収益に占めるシェアは、2030年に24%に達する。これらのSoCは、L3のSoCよりも参入障壁が高く、価格も高いため、高級車やロボタクシーに採用されることになる、とみている。

より高度な自律性が要求されるロボタクシーや自律走行車の分野では、SoCを内製するいくつかの会社を除けば、NVIDIAが独走しているだろう。このジャンルに長期に渡り研究開発を行っているNVIDIAのプロセッサとソフトウェアのバンドルの利点は、高い計算能力、豊富なソフトウェアツール、クライアントが独自のアルゴリズムを作成できる完全な環境などだ。NVIDIAは世界中の自動車メーカーやティア1サプライヤーの大半と取引している。NVIDIAの最新の自律走行SoCであるDRIVE Thorは、2,000TOPSの計算能力を持ち、2025年に量産されるL4/L5自律走行ソリューションを実装した車両に搭載される予定だ。

DRIVE Thor. 出典:NVIDIA

それに対して、Qualcommはデジタルコックピット、インフォテイメントシステムのような得意分野だけでなく、自律走行向けの超ハイエンド帯でNVIDIAと競争することに対して、NVIDIAのロックインを恐れる完成車メーカーから強いニーズがある。

中国でも状況は似ているようだ。ベンチャーキャピタルに支えられた地元の半導体企業が、NVIDIAの代替を目指す動きが見られる。百度のディープラーニングのベテランが設立した地平線機器人(Horizon Robotics)は昨年、L4対応の車載AIチップ「Journey 5(征程5)」をリリースしている。

Journey 5(征程5) 。出典:地平線機器人(Horizon Robotics)

昨年末までに公表されたHorizon Roboticsの資金調達額は34億ドルに達している。フォルクスワーゲン(VW)の自動車ソフトウェア会社CARIADは先月、自動車チップ開発企業の1つであるHorizon Roboticsと合弁会社を設立する意向だと[発表]している。VWはHorizon Roboticsとの提携に約24億ユーロを投じる計画だ。

11月4日には、アリババの自動車インテリジェンス部門であるBanmaは、Horizon Roboticsと共同でインテリジェント・ドライビング・エコシステム・プラットフォームを発表した。これは、自律走行ソフトウェア企業に、より効率的で便利なソフトウェアとハードウェアの基礎サポートプラットフォームを提供するもので、アリババクラウドのビジネスの延長線上にある。

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