アドビ神谷新社長、メディア向けに事業戦略を説明

コロナ禍によるデジタル化が追い風

アドビ神谷新社長、メディア向けに事業戦略を説明

要点

コロナパンデミック以降の世界的なデジタル化のなか、デジタルメディアに関連する広範な事業を行うアドビは、その変化を大いに享受している。同社は日本でもその波に乗って業績を拡大しようとしている。


アドビ株式会社は29日、報道関係者向け事業戦略説明会を行い、同社代表取締役社長の神谷知信とGTM・市場開発部 ビジネスデベロップメントマネージャーの阿部成行が日本法人の事業戦略について話した。アクシオンの吉田もウェビナーに参加した。

神谷は4月上旬に代表取締役社長に就任。今回が初めてメディア向けの会見となった。社長就任前は、アドビのデジタルメディア事業統括本部バイスプレジデントとして、Creative Cloud及びDocument Cloudからなるデジタルメディア事業の製品及び販売戦略を含む事業全体を統括。「また、2014年10月入社以来、アドビが自ら推進してきたデスクトップからクラウド、サブスクリプション化へとデジタルトランスフォーメーションをリード」。社長就任に付き、Experience Cloudも範囲に収めることになった。

神谷は日本のビジネスの概況やクリエイティブクラウド、ドキュメントクラウド、エクスペリエンスクラウドを説明した。中小企業、企業、教育機関・政府に対して、専門営業、CSM(カスタマーサービスマネジメント)部門を設置し、同様の範囲に対してパートナーを配置する、顧客対応体制に力を注いでいる。

神谷は、企業のデジタル戦略に対するコンサルティングサービスを拡充する方針を示し、「戦略・方針策定、導入・開発設計・人材育成計画、実装/開発/検証、活用推進・成果創出」(アドビの定義する各段階)のすべてでコンサルタントの支援を提供する、と語った。

神谷は、事業環境の一つとして、スマートフォンでの動画撮影から、より本格的な動画の作成へと足を踏み入れるビギナーが増えており、対応が追いつかないほどのものだ、と語った。YouTubeのトップコンテンツ制作者の中には1億円以上を有に稼ぐものがおり、それ以外のセミプロからアマチュアまでの厚い層がおり、彼らは動画の撮影から編集、サムネイルの作成、流通チャネルの確立等を自ら行っている。

最近では、アドビはプロ向け動画編集ソフトPremiere ProのテレビCMを打ち、周囲を驚かせた。テレビCMのマーケティング費用を負担してでも、獲得する価値のある市場をプロ向けの動画編集ソフトが持つようになったことを示唆しているからだ。

パンデミックでスクリーンタイムが急激に増加したことを受け、クリエイターエコノミーの急激な増加が起きているが、アドビの諸製品はこの潮流から追い風を受けている。

米アドビ本社は、6月中旬に発表された、2021年度第2四半期決算において、四半期収益を38億4,000万ドルとし、前年同期比で23%の成長を達成。デジタルメディア部門の収益は、前年同期比25%増の27億9,000万ドルとなり、デジタルメディアの年間経常収益(ARR)は、前期比5億1,800万ドル増の112億1,000万ドルに達している。

米アドビの新しいAdobe Digital Economy Indexによると、パンデミックの影響でオンライン支出が過去1年間で1,830億ドル増加し、Eコマースが恒常的に加速しており、2022年にはアメリカ人のオンライン支出が過去最高の1兆ドルに達する見込みである。この報告書は、パンデミックが始まった2020年3月から2021年2月までの支出を測定し、オンラインでの支出の急増が鈍ることはないだろうと結論づけている。

これらの文脈を反映し、神谷が示した以下のスライドにはアドビがデジタルメディアとデジタルマーケティングの市場にとても強気であることが伺える。Total Adressable Market(TAM)の推計(2020年12月)は、クリエイティブクラウドが4.1兆円、ドキュメントクラウドが1.3兆円、エクスペリエンスクラウド8.5兆円で合計14,7兆円であり、パンデミック前の2019年11月で合計12.8兆円から拡大している。

アドビのTAM. 出典:アドビ株式会社

コンテンツとAI

GTM・市場開発部 ビジネスデベロップメントマネージャーの阿部成行はコンテンツ制作・流通とAI支援を組み合わせたアドビのサービスが提案した。

阿部は、近年のインターネットコンテンツ流通の傾向として、一方通行のコミュニケーションから、双方向でメッシュ状のものへと進化している、と指摘している。発見、体験、買う、利用、更新のアドビが定義するカスタマージャーニーすべてをアドビ製品はカバーしているが、クリエイティブクラウドで作ったものをエクスペリエンスクラウドに組み入れることで、コンテンツマーケティングの精度を引き上げる事ができると主張した。

発表では、同社のAI製品Adobe Senseiは、機械学習でコンテンツを分類することができ、Adobe Senseiが、好まれる写真のレコメンドを行い、ユーザーのコンテンツへの反応率を予測することができることや、PhotoshopのクラウドAIをサービスを使って、与えられた素材を組み合わせて、サムネイル画像のパターンを大量に生成することができることが紹介された。

プレゼンでは触れられなかったが、米アドビには昨年、Google’s Pixelのカメラソフトウェアの父である、Marc Levoyがカメラアプリケーションを作るために入社し、バイスプレジデントとフェローに就任している(スタンフォード大教授兼任)。仮にプラットフォームに左右されない優れたカメラアプリがアドビから出てくるのなら、アドビのコンテンツ製作・流通に特化したAIとの相性も含め、非常に興味深いビジネス展開が生まれる可能性がある。

神谷 知信 プロフィル(Adobe公式より)

アドビ入社前の 2012 年から 2014 年には、株式会社ディーアンドエムホールディング ス(現サウンドユナイテッド)にて、アジア太平洋及び中東地域のマネージングディ レクターとしてセールスマーケティング、カルチャーの変革を通じて収益と EBITDA の成長をけん引。 2012 年以前に勤務していた日本 AMD 株式会社では、マーケティン グや営業の要職を歴任した後、シンガポールに赴任し ASEAN 及びオセアニア地域を

統括。その後日本に戻り対日本大手メーカーの戦略グローバルアカウントセールスバ イスプレジデントとして、南北アメリカ、EMEA、APAC、日本の営業チームを統括しました。

それ以前には、デルジャパン(現デル・テクノロジーズ株式会社)にて、セールスな ど複数の部門を牽引した後、エンタープライズマーケティング部門をリードし、サー バ市場初となる国内シェアの 1 位獲得に貢献しました。

青山学院大学法学部国際私法学科卒業。スタンフォード大学にてエグゼクティブプログラムを習得。趣味はマリーンスポーツ全般と旅行。公私ともに多くの国を訪れ、休暇の際は家族や友人との旅行を楽しんでいます。


Read more

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)