ジェネレーティブAIに投資家の熱視線が注がれる

様々なコンテンツを生成する「ジェネレーティブAI」が一般的な認知を得て、ベンチャー投資が加速している。スタートアップが大手より素早く動いてユーザーのニーズを掴む例が多く出ており、群雄割拠の様相だ。

ジェネレーティブAIに投資家の熱視線が注がれる
Stability AI創業者のEmad Mostaque via https://www.realvision.com/shows/horizon/videos/emad-mostaque-horizon-bv57

様々なコンテンツを生成する「ジェネレーティブAI」が一般的な認知を得て、ベンチャー投資が加速している。スタートアップが大手より素早く動いてユーザーのニーズを掴む例が多く出ており、群雄割拠の様相だ。


最近、注目を集めたテキスト画像生成AIの「Stable Diffusion」を展開するStability AIは、約10億ドルの企業価値で1億100万ドルを調達した、と発表した。

Stability AIはその評価を正当化するだけのユースケースをすでに生み出している。最高経営責任者であるEmad Mostaqueの発言とプレスリリースによると、同社のWebアプリケーション「DreamStudio」のユーザー数は150万人以上、合計で1億7000万枚以上の画像を作成している。Stable Diffusionのユーザー数は全チャネルで1日1,000万人以上とのことだ。

Stability AIは、今回の資金調達により、ユーザー向けのカスタムバージョンのモデルをより大規模に展開し、コンピューティングの能力を高めるための投資を行う予定だ。また、雇用も増やしていく予定で、Mostaqueは、今後1年間で従業員が100人から約300人に増加する見込みという。

2020年に設立されたロンドンに本拠を置くStability AIは、2022年8月にStable Diffusionを一般公開し、AI業界で一気に有名になった。Stable Diffusionは、拡散モデルと呼ばれる新しい生成AI技術によって実現され、AIモデルにノイズを導入して画像を効果的に破壊し、再構築することで画像の構築方法を学習する技術を習得させるものだ。

Stable Diffusionは、大小さまざまな企業によって運営されている数多くのテキストから画像への変換プロジェクトの一つだ。GoogleとOpenAIは、それぞれImagenとDALL-E 2を展開し、Stable Diffusionの流行前にはMidjourneyが大いに話題を集めていた。

突然注目を集めたAI画像生成Midjoureyを運営する社員10人の「零細企業」の裏側
各所で話題を呼んでいる「AI画像ジェネレーター」 のMidjourneyは、社員数わずか10人の会社によって運営されている。作者のデイヴィッド・ホルツは会社を「自己資金で運営される研究所」と形容しており、すでに利益が出ているという。資金力が物を言う分野で異色の存在だ。

しかし、後発のStability AIが最も利用者が多いサービスに躍り出た。同社はオープンソース化で差別化を図っている。つまり、誰もが同社のコードを基に構築することができ、さらには自社の商用製品を動かすために使用することもできる。

ただ、Stability AIがかなりスピーディに資金を燃焼しているのは間違いない。機械学習モデルのトレーニングは、時間的にも計算量的にも負担が大きい。TechCrunchのインタビューによると、Stability AIはモデルの訓練にAWSで稼働する4,000個のNvidia A100 GPUのクラスターを使用したとのことだ。

このようなジャンルを主にビジネスサイドでは「Generative AI(ジェネレ―ティブAI)」と名付けているが、先週はもう一社、このカテゴリからユニコーンが生まれている。

オースチンのスタートアップJasperは、今週1億2,500万ドルを調達し、立ち上げから24カ月足らずで企業価値15億ドルにまで成長した。Jasperは、ユーザーがJasperに書いてほしい内容を記述すると、AIがブログ、ウェブサイトの文章、ソーシャルメディアの投稿などを生成する。月額40ドルからサブスクリプションを販売するJasperは、現在7万人以上の加入者と150人の従業員を抱えている。

Jasperが商品コピーを生成している様子。via https://sassyboss.co/jarvis-ai-copywriting/

このような「ジェネレ―ティブAI」は、最近その投資活動が低調になったと言われるベンチャーキャピタル(VC)が熱心に取り組むものの一つとなりそうだ。大手VCのセコイア・キャピタルのパートナーであるSonya Huangは、マーケティング・コピー、アート、ソフトウェア・プログラミングですでにその有用性が認められている、と語っている。

Huangは、ジェネレ―ティブAIが注目を集めている理由の一つについて「ひとつは、今、世界は暗い時代にあると思うからです。人々は何か希望となるものを探しており、ジェネレーティブAIはそのような存在に見えています」と話した。

AI分野への米VCの積極的な投資は以前からあり、最近の拡散モデルを使った画像生成の爆発的な広まりは最新の波にすぎない。少し前は、進化の速度がものすごく速い自然言語処理(NLP)スタートアップに多くの資金が投じられていた。JusperもNLPスタートアップのひとつである。

自然言語処理スタートアップがブーム: AIで最も進歩が早い分野
自然言語処理(NLP)スタートアップがブームだ。NLPはAIで最も進歩の早い分野で、基盤的なモデルを様々なユースケースに適応させる点において、既存ビジネスを塗り替える広範なビジネス機会が望まれている。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

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1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

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今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)