マスクのAI新興企業はいかほどのものか?

イーロン・マスクは人工知能に特化した新会社 「xAI」を正式に発表した。大手テクノロジー企業が大量の資金を注入し、新興企業が巨額の資金調達を繰り返す中、新会社は食らいつけるだろうか。

マスクのAI新興企業はいかほどのものか?
2021年7月13日(火)、米デラウェア州ウィルミントンで行われたソーラーシティの裁判で法廷に到着したテスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)。ブルームバーグ。

イーロン・マスクは人工知能に特化した新会社 「xAI」を正式に発表した。大手テクノロジー企業が大量の資金を注入し、新興企業が巨額の資金調達を繰り返す中、新会社は食らいつけるだろうか。


xAIは12日、ウェブサイトと12人のスタッフからなるチームを発表した。ウェブサイトによると、この新会社はマスクが率い、X(旧Twitter)、テスラ、その他の企業と密接に協力し、ミッションに向かって前進する、という。同社のミッションは「宇宙の本質を理解すること」だ。

マスクは、チャットボット「ChatGPT」を発表したAI企業「OpenAI」の対抗馬を作ろうと研究者を募っている、と報じられてきた(マスクはOpenAIを共同設立したが、経営陣と対立し、退いたとされている)。

4月には、マスクがネバダ州に「X.AI」社を登記したとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じていた。米国のスタートアップの通例的な登記先であるデラウェア州と比較して、ネバダ州の法律は会社の経営陣や役員に対してより多くの裁量権と保護を与えているという。これはマスクがベンチャー・キャピタルやプライベート・エクイティから積極的に資金調達する意図がないことを示唆しているだろう(実際、Twitterのレバレッジドバイアウトでは痛い目にあった)。

WSJが引用した研究者によると、マスクはAIへの野心の一環として、11月からOpenAIの対抗馬を作ることを目標に、研究者のリクルートを続けてきたという。

チームはヘビー級

チームはAI研究者とマスクの12人で構成されている。マスクを除く11人はトップ研究所、企業であるDeepMind, OpenAI, Google Research, Microsoft Research, テスラ、トロント大学に所属したことがあり、有名戦略ゲームStarCraft IIのトッププロプレイヤーに勝利したAlphaStar、コード生成のAlphaCode、世間の注目をさらった大規模言語モデル(LLM)であるGPT-3.5とGPT-4のプロジェクトに参加、あるいは主導したことがある、とウェブサイトには書かれている。

テスラでは、昨年、AIチーフだったAndrej Karpathyが退任した。同社は、Karpathyが主導した路線に必要なアノテーターのチームを解雇し、自律走行に必須と考えられているLiDARやレーダー等のセンサーを使わない、ユニークな「カメラのみアプローチ」が、壁にぶつかった。先進運転支援システム(ADAS)による相次ぐ事故が報告されており、今では同社の自律走行の品質は、懐疑の目で見られている。Karpathyは最近、マスクが敵視するOpenAIに入社した。

最近、Twitterが無料ユーザーに対して閲覧制限を行い、大きな混乱を引き起こしたが、もしかしたらAI会社を本格的に始動する上で、競合がTwitterの内容をスクレイピングすることを防ぐ目的があったかもしれない。マスクはその措置を実行する際に「極端なレベルのデータスクレイピングやシステム操作に対処する」とツイートしていた。

マスクは、ChatGPTやマイクロソフトのBing、グーグルのBardのような大規模言語モデル(LLM)をAIのトレーニング用にデータを取り込もうとしている企業を非難してきた。ただ、TwitterのデータがLLMの事前学習にとってどの程度有用なのかは議論の余地があるだろう。

主要なプレイヤーにとっては、すでにデータセットは完成しており、Twitterをスクレイピングする必要はなくなっているかもしれないし、もしかしたら品質の問題で必要なかったのかもしれない。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史