ソフトウェア開発のAI化は進展するばかり
大規模言語モデル(LLM)の進化が、ソフトウェア開発を支援するAIの進化を引き起こしている。AIで増強された開発者が受け持てる領域は拡大していくだろう。
大規模言語モデル(LLM)の進化が、ソフトウェア開発を支援するAIの進化を引き起こしている。AIで増強された開発者が受け持てる領域は拡大していくだろう。
マイクロソフト傘下のソフトウェア開発プラットフォーム であるGitHubは、年次会議で「Copilot Workspace」という新しいシステムを発表した。
今回の発表は、AIがコーディングに占める領域を大きく拡張するものだった。Copilot Workspaceのデモでは、ソフトウェア開発者が編集可能なプロジェクト計画案を生成し、最終的な目標に沿ってAIを作業させることができる、というより抽象性の増したAIコーディングが披露された。
ユーザーが課題を伝えると、Copilot WorkspaceがSpecification(仕様)を作成する。それが実装計画を示し、その内容に開発者が同意し「Implement」(実装)を押すとコードが生成される。テクノロジーメディアのPublickeyにその様子が詳しく書いてある。
Githubは、2021年に同社のアクセス可能なコード群を利用した「Github Copilot」を発表した。マイクロソフトの支援を受けるOpenAIによって開発されたクラウドベースの人工知能ツールであるCopilotは主に、開発環境の中で開発者が書いたコードに対して数行のオートコンプリートを提供した。CopilotにはAmazon CodeWhisperer、Google CloudのDuet AI、独立系AIコーディングツールという競争相手がいるが、OpenAIのGPTの躍進と呼応してCopilotはモメンタムを得ているようだ。
GitHub Copilotの収益性が疑われたことがある。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のレポートでは、2023年の初めから数カ月間で、同サービスはユーザー1人あたり月額平均20ドルの損失を記録していることが明らかになった。さらに、特に頻繁に利用するヘビーユーザーの中には、毎月最大80ドルのコストが発生している事例も報告されている。「月額10ドル、年額100ドル」という料金体系では採算が合わないと見ている。
これに対し、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、190カ国の3万7,000以上の企業で100万人以上の開発者がCopilotを使用しており、史上最も広く採用されているAI開発者ツールとなっている、と反論した。
さらに、年次イベントでは、一部でベータ利用されていた「GitHub Copilot Chat」が2023年12月にCopilotサブスクリプションプランの一部として、組織および個人ユーザーに対して一般提供される予定であることもアナウンスされた。これはChatGPTのソフトウェア開発者特化型と考えてもらえばいいだろう。
進展するSoftware 2.0
Github Copilotが体現しようとしているのは、「Software 2.0」と呼ばれるもの。これは、テスラの元AI担当ディレクターで、現OpenAI(*1)のAndrej Karpathyが提唱した造語で、機械学習によるソフトウェア開発のパラダイムシフトを表している。「Software 1.0」という従来のソフトウェア開発手法では、人間がデータ構造やアルゴリズムを考案し、それに基づいてプログラムを作成することで、目指す動作を実現してきた。これに対し、Software 2.0はコンピューター・ビジョン、自然言語処理、強化学習などの複雑なタスクを実行できるニューラルネットワークを作成し、トレーニングする。
ややもすると、自らを滅ぼしかねないSoftware 2.0のアプローチを、ソフトウェア開発者は歓迎しているのかもしれない。GitHubのデータによると、開発者の92%がAIコーディングツールを業務内外で使用していると報告している。さらに、開発者の約81%が、AIコーディングツールによってチームの協調性が高まると考えている。
CoplitやCopilot Workspaceなどによって、様々なコーディングが抽象化されることで、1人のエンジニアが受け持つ領域が拡張し、生産性が増すことになるはずだ。これは、素晴らしい。ただ、一人一人の負荷が増すことも意味する。働きすぎてはいけない。
脚注
*1:Andrej KarpathyはOpenAIのファウンディングメンバーでもある