AIがコロナ治療を支援 NVIDIAと20カ国の病院が共同研究

英ケンブリッジのアデンブルック病院は、世界の20の病院とNVIDIAとともに、人工知能(AI)を用いてCOVID-19患者の酸素必要量を高い精度で予測するモデルを開発した。医療へのAI応用が着実に進んでいること示す事例だ。

AIがコロナ治療を支援  NVIDIAと20カ国の病院が共同研究
"U.S. Navy Doctors, Nurses and Corpsmen Treat COVID Patients in the ICU Aboard USNS Comfort"by NavyMedicine is marked with CC PDM 1.0

要点

英ケンブリッジのアデンブルック病院は、世界の20の病院とNVIDIAとともに、人工知能(AI)を用いてCOVID-19患者の酸素必要量を高い精度で予測するモデルを開発した。医療へのAI応用が着実に進んでいること示す事例だ。


Nature Medicine誌に掲載されたこの研究では、COVID-19の症状を持つ患者の胸部X線写真と匿名化された電子健康データ、人工統計学的データをアルゴリズムで分析した。

アルゴリズムがデータを学習すると、その分析結果をもとに「EXAM」というAIツールが構築され、救急外来に到着してから24時間以内の患者の酸素必要量を、感度95%、特異度88%以上(つまり高い精度)で予測できることがわかった、と論文は主張している。

今回の研究では、機械学習の一種である連合学習(Federated learning、以下FL)が用いられた。FLは、開発者や組織が、複数の場所に分散したトレーニングデータを使って、集中的にディープニューラルネットワーク(DNN)をトレーニングすることができる学習手法。この技術により、組織は臨床データを直接共有することなく、共有モデルで共同作業を行うことが可能になる。

FL方式では、学習前のモデルを他のサーバに送信して部分的な学習タスクを実行させ、その結果を送り返して中央のサーバで統合する。これは、トレーニングが完了するまで繰り返し行われる。

この分散的な性質からFLでは医療データに関わるプライバシーへの配慮が可能だ。データはローカルに維持され、クライアントと連携サーバーの間ではモデルの情報のみが伝達されるためだ。

FLにより、世界中の約1万人のCOVID-19患者の予後が分析され、その中には2020年のパンデミックの第一波でアデンブルック病院に来院した250人も含まれていた。

論文は、FLを用いてモデルを学習した結果,16%の有意な性能向上が得られたと記述し、FLを採用する有効性を主張している。

このモデルでは、34層の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて胸部画像の特徴を抽出し、内視鏡画像の特徴と結合することで、内視鏡画像と胸部画像の両方の情報を融合する。

北米、南米、ヨーロッパ、アジアの共同研究者が集まった今回の研究では、わずか2週間のトレーニングで、患者の酸素必要量を高品質に予測することができ、医師が患者に必要なケアのレベルを判断するのに役立つ知見を得ることができたとされる。

a, EXAM研究に貢献した20の異なるクライアントサイトを示す世界地図。 b, 各機関またはサイトが貢献した症例数(クライアント1は最も多くの症例を貢献したサイトを示す)。各クライアントサイトのサンプル数を補足表1に示す。Source: Ittai Dayan et al. 2021.
a, EXAM研究に貢献した20の異なるクライアントサイトを示す世界地図。 b, 各機関またはサイトが貢献した症例数(クライアント1は最も多くの症例を貢献したサイトを示す)。各クライアントサイトのサンプル数を補足表1に示す。Source: Ittai Dayan et al. 2021.

この研究は、アメリカ国立衛生研究(NIH)とケンブリッジ生物医学研究センター(Cambridge BRC)の支援を受けて行われた。米国のMass General Brigham病院とNIH、Cambridge BRCは現在、NVIDIAと新興企業Rhino Healthと協力して、EXAMに関する研究を継続している。

ケンブリッジ大学で本研究を主導したFiona Gilbert教授(アデンブルック病院名誉顧問放射線科医)は、「連合学習は、臨床ワークフローにAIの革新をもたらす変革力を持っています」と述べている。

ケンブリッジのアデンブルック病院では、症状が出る前にMRIの脳スキャンから認知症を診断するアルゴリズムを使った別のAI試験が行われている。また、Microsoft Research Cambridgeが開発した、がん患者の治療を加速させるAI深層学習ツール「InnerEye」を世界で初めて採用した病院でもある。

参考文献

  1. Dayan I, Roth HR, Zhong A, Harouni A, Gentili A, Abidin AZ, Liu A, Costa AB, Wood BJ, Tsai CS, Wang CH, Hsu CN, Lee CK, Ruan P, Xu D, Wu D, Huang E, Kitamura FC, Lacey G, de Antônio Corradi GC, Nino G, Shin HH, Obinata H, Ren H, Crane JC, Tetreault J, Guan J, Garrett JW, Kaggie JD, Park JG, Dreyer K, Juluru K, Kersten K, Rockenbach MABC, Linguraru MG, Haider MA, AbdelMaseeh M, Rieke N, Damasceno PF, E Silva PMC, Wang P, Xu S, Kawano S, Sriswasdi S, Park SY, Grist TM, Buch V, Jantarabenjakul W, Wang W, Tak WY, Li X, Lin X, Kwon YJ, Quraini A, Feng A, Priest AN, Turkbey B, Glicksberg B, Bizzo B, Kim BS, Tor-Díez C, Lee CC, Hsu CJ, Lin C, Lai CL, Hess CP, Compas C, Bhatia D, Oermann EK, Leibovitz E, Sasaki H, Mori H, Yang I, Sohn JH, Murthy KNK, Fu LC, de Mendonça MRF, Fralick M, Kang MK, Adil M, Gangai N, Vateekul P, Elnajjar P, Hickman S, Majumdar S, McLeod SL, Reed S, Gräf S, Harmon S, Kodama T, Puthanakit T, Mazzulli T, de Lavor VL, Rakvongthai Y, Lee YR, Wen Y, Gilbert FJ, Flores MG, Li Q. Federated learning for predicting clinical outcomes in patients with COVID-19. Nat Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1038/s41591-021-01506-3. Epub ahead of print. PMID: 34526699.

📨ニュースレター登録

平日朝 6 時発行のAxion Newsletterは、テックジャーナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、最新のトレンドを調べて解説するニュースレター。同様の趣旨のポッドキャストもあります。

[平日朝6時]デジタル経済の動向をまとめるニュースレター
あなたのビジネスや人生のための「先知」を提供します。

株式会社アクシオンテクノロジーズへの出資

10月1日から1口50万円の公募を行います。詳しくはこちら。

アクシオン、10月1日に1口50万円の第2回公募を開始|吉田拓史 株式会社アクシオンテクノロジーズ代表取締役|note
デジタル経済メディア「アクシオン」を運営する株式会社アクシオンテクノロジーズ(本社:埼玉県さいたま市、代表取締役:吉田拓史、以下「アクシオン」)は、10月1日に第2回公募を開始します。 今回の公募では1口50万円で個人投資家の投資を募ります。事前登録はこちらのフォームから。登録いただいた方に9月下旬から順次案内のメールを差し上げます。そのメールによって交渉・取引が開始されます(特に義務は生じません)。 【2021年10月】(株)アクシオン個人投資家ラウンド事前登録 登録を頂いた方には優先して投資ラウンドのご案内を行います。 forms.gle

クリエイターをサポート

運営者の吉田は2年間無給、現在も月8万円の役員報酬のみでAxionを運営しています。

  • 投げ銭
  • ウェブサイトの「寄付サブスク」ボタンからMonthly 10ドルかYearly 100ドルを支援できます。大口支援の場合はこちらから。
  • 毎月700円〜の支援👇
Betalen Yoshida Takushi met PayPal.Me
Ga naar paypal.me/axionyoshi en voer het bedrag in. En met PayPal weet je zeker dat het gemakkelijk en veiliger is. Heb je geen PayPal-rekening? Geen probleem.
デジタル経済メディアAxionを支援しよう
Axionはテクノロジー×経済の最先端情報を提供する次世代メディアです。経験豊富なプロによる徹底的な調査と分析によって信頼度の高い情報を提供しています。投資家、金融業界人、スタートアップ関係者、テクノロジー企業にお勤めの方、政策立案者が主要読者。運営の持続可能性を担保するため支援を募っています。

Special thanks to supporters !

Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Kinoco, Masatoshi Yokota,  Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 黒田太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, Sotaro Kimura, TAMAKI Yoshihito, kanikanaa, La2019, magnettyy, kttshnd, satoshihirose, Tale of orca, TAKEKATA, Yuki Fujishima.

Read more

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)