農機具のAI化が加速
クレジット:ディア・アンド・カンパニー

農機具のAI化が加速

トラクターをはじめとする農機具には、何十年も前から自律走行機能が搭載されており、最近ではロボット工学や自動運転車の発展に伴って導入が進んでいる。だが、メーカーに完全に支配されるとの懸念が農家にはある。

吉田拓史

要点

トラクターをはじめとする農機具には、何十年も前から自律走行機能が搭載されており、最近ではロボット工学や自動運転車の発展に伴って導入が進んでいる。だが、自律的な農機具を提供するメーカーに完全に支配されるとの懸念が農家にはある。


ディア・アンド・カンパニーは、世界最大の電子機器の見本市「CES 2022」において、大規模生産に対応した完全自律型トラクターを公開した。この農機は、ディア社の新型トラクター「8R」、TruSet対応のチゼルプラウ、GPSガイダンスシステム、および新しい先進技術を組み合わせたものだ。

この自律走行トラクターには、6組のステレオカメラが搭載されており、360度の障害物検知と距離の計算が可能だ。カメラで撮影された画像は、ディープニューラルネットワークに通され、約100ミリ秒で各ピクセルを分類し、障害物が検出された場合に、機械が動き続けるか停止するかを判断する。

また、自律走行トラクターは、ジオフェンスに対する位置を継続的にチェックし、想定した場所で動作していることを確認し、その精度は1インチ(約25.4mm)以内に収まっている。

自律走行トラクターを使用するには、農家は機械を畑に運び、自律走行のための設定をするだけですむ。スマートフォンアプリを使って、ライブビデオ、画像、データ、指標にアクセスでき、農家は速度や深さなどを調整することができる。作業品質の異常や機械のメンテナンス問題が発生した場合には、農家に遠隔で通知され、機械の性能を最適化するための調整を行うことができる。

ディア社は、新型トラクターの価格を明らかにしていないが、現行モデルで最も高価なものは80万ドルにもなる。同社はサブスクリプションプランを含め、いくつかのモデルを検討している。

最近のトラクターの中には、GPSで指定されたルートに沿って走行し、障害物を避けることができないなど、限られた状況下でのみ自律走行するものもある。また、限定的な自動運転であっても、農家の人が運転席に座る必要があるものもある。

自動運転トラクターは、農家のコスト削減に役立ち、農業の労働力不足が続く中で脅かされている作業を自動化することができる。しかし、より多くの農業を自動化し、AIを追加することは、労働者の代替や、生成されたデータの所有権と利用に関する議論を巻き起こす可能性もある。

トラクターをはじめとする農機具には、何十年も前から自律走行機能が搭載されており、最近ではロボット工学や自動運転車の発展に伴って導入が進んでいる。

完全自律型の8Rは、カメラからの情報をニューラルネットワークのアルゴリズムで解析しているが、ディア社は数年前から、このアルゴリズムの学習に必要なデータを収集し、ラベル付けをしてきたようだ。

同様のAIアプローチは自律走行車を開発している企業でも採用されている。例えばテスラでは、自動運転システム「オートパイロット」の改良に必要なデータを、販売した車から収集している。何もない野原は、交通量の多い都市の交差点に比べて課題が少ないとはいえ、自動運転車と同様に、雪や雨などの極端な気象条件では、システムが周囲を見づらくなる可能性があると認めている。

クレジット:ディア・アンド・カンパニー
クレジット:ディア・アンド・カンパニー

ディア社は過去10年間で、より多くのAIと自律性を製品に取り入れてきた。8月には、後付けでトラクターの自律性を高める装置を開発するスタートアップのBear Flag Roboticsを2億5000万ドルで買収したと発表した。2017年には、3億500万ドルを投じてBlue River Technologyを買収した。Blue River Technologyは、除草剤を高精度に噴射して不要な植物を識別し、除去できるロボットを製造している。

システムは、作業中に土壌に関するデータを収集する。その情報をもとにアルゴリズムを調整し、パフォーマンスを向上させることで、農家に最適な作業方法を提供することができる。

とはいえ、このシステムはトラクター作業のすべての面に対応できるわけではない。今、ディア社が力を入れているのは、耕すための土壌の準備だ。土をひっくり返したり、作物の残渣を取り除いたり、残渣を畑に戻して栄養分を土壌に還元したりする。この作業は「優先順位の低い作業」であり、通常は収穫時期に行われるため、農家はより緊急性の高い作業を優先する可能性がある。そのため、自動化の対象として最適なのだ。

何年もかけてテストしたにもかかわらず、この技術を農場で使用する際には間違いなく問題が発生する。トラクターの運転は、障害物を回避するだけではなく、機器が正常に作動しているかどうかを確認し、環境の変化に合わせて調整する必要がある。同社のソフトウェアは、耕運機のシャンクが正常に作動しているかどうかなど、これらの変数を監視することができるが、それ以外にも問題があるはずだ。

この新しい自律性パッケージは、最新のトラクターに後付けできる機器として販売される予定だ。しかし、初期費用や年間契約(オートステア製品では有料)などの価格は公表していない。しかし、基本となる機器はすでに非常に高価なものとなっている。ジョンディアの8Rトラクターとチゼルプラウを使った耕運作業では、数十万ドルの費用がかかる。

ディア社が農業従事者に対して「権力」を握る可能性

すでに農業のAI化には様々なシナリオが見え始めているが、AI提供企業が農業全体を支配してしまうシナリオを思い浮かべる人は少なくない。

ディアが完全に農家に対して有利に立つシナリオは、農家や農業を学ぶ学生たちを悩ませている。サンタクララ大学でフィールドロボットプログラムを運営し、農業の自動化を研究しているクリストファー・キッツ教授は、自律走行トラクターが収集したデータは農家にとって非常に有用であるため、ディア社はそのデータにアクセスするための追加料金を請求できるかもしれないと主張している。また、データの独占が起きると、ライバル企業にとっても競争が阻害されるかもしれないと彼は語っている。

農業技術者のケビン・ケニーは、ディア社が農家の機器の修理を制限していることを批判しているが、AIと自律性は最終的に農家の経営管理を弱めることになると主張している。アプリに頼らなければならないとなると、農家はますますディア社に依存するようになり、重要な意思決定ができなくなる可能性があるという。

最終的には、ディア社は農家を必要とせず、自律走行するトラクターで大規模な「ロボット農場」を管理するようになるかもしれないとケニーは主張している。

自律走行型トラクターには「世界に食料を供給する」という特定の目的がある。世界の人口は、2050年までに約80億人から100億人近くに増加し、世界の食料需要は50%増加すると予想されている。さらに農家は、少ない利用可能な土地と熟練した労働力でこの増加する人口を養う必要があり、天候や気候の変化、土壌の質の変化、雑草や害虫の存在など、農業に特有の変数に対処しなければならない。

自律走行型トラクターはこれらの課題を解決するためのものだが、それをどう社会実装するかで、農家の人たちの未来は大きく変わりそうだ。

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