アリババ、AIやシリコンフォトニクスの進化を予測
アリババは、1月中旬に今後数年間に経済や社会全体に影響を与えると思われる技術の動向をまとめたレポートを発表。科学研究におけるAIの利用、シリコンフォトニクスの採用、地上と衛星のデータネットワークの統合などが含まれている。
アリババは、1月中旬に今後数年間に経済や社会全体に影響を与えると思われるテクノロジーの動向を詳細にまとめたレポートを発表した。これには、科学研究におけるAIの利用、シリコンフォトニクスの採用、地上と衛星のデータネットワークの統合などが含まれている。
「テクノロジートレンドトップ10」(Top 10 Technology Trends of DAMO Academy) レポートは、アリババが2017年に設立した「DAMOアカデミー」によって作成された。DAMOは最近、処理とメモリーを融合した斬新なチップアーキテクチャーの開発を発表して話題になった。
DAMOのレポートに記載されているトレンドの中で、AIは複数回取り上げられている。科学分野では、大量の多次元・マルチモーダルデータを処理し、複雑な科学的問題を解決する機械学習の能力により、AIに基づくアプローチが新しい科学的パラダイムを可能にするとDAMOは考えている。報告書では、AIは科学研究のスピードを速めるだけでなく、科学の新たな法則の発見にも役立ち、一部の基礎科学の生産ツールとして利用されるようになるとしている。
その証拠として、報告書は、GoogleのDeepMindがすでにAIを使って新しい数学の定理を証明・提案し、複雑な数学を含む分野で数学者を支援している事実を挙げている。
再生可能エネルギー
DAMOがAIが影響を与えると見ている珍しい分野として、再生可能エネルギーを既存の電力ネットワークに統合することが挙げられている。再生可能エネルギーの発電量は、天候によって変化する。天候は予測不可能であり、急激に変化する可能性があるため、再生可能エネルギーの統合には、安定した出力の維持などの課題があると報告書は述べている。
DAMOは、これらの課題を解決するためにはAIが不可欠であり、特に天候予測に基づいて再生可能エネルギーの容量をより正確に予測することができるようになると述べている。深層学習技術を用いたインテリジェントなスケジューリングにより、風力、太陽光、水力などのエネルギー源のスケジューリングポリシーを最適化することができるはずだ。
ビッグデータとディープラーニング技術を活用することで、電気系統の設備を監視し、故障を予測することが可能になるという。
モデルの小規模化
DAMOはまた、AIモデルの進化において、BERTやGPT-3のような大規模な学習済みモデルから、動作に膨大な処理能力を必要とし、そのために多くのエネルギーを消費するモデルから、下流のアプリケーションでの学習や推論を処理する小規模なモデルへとシフトするだろうと考えている。
その結果、メインモデルから別々に進化したブランチが生まれ、それぞれのシナリオで動作することにより、独自の知覚、意思決定、実行の結果が生まれ、それが基礎モデルにフィードバックされることになる、と主張している。このようにして、基礎モデルはフィードバックと学習によって継続的に進化し、有機的な知的協調システムを構築することができる、と報告書は主張している。
もちろん、このビジョンには課題がある。DAMOのレポートによると、このようなシステムでは、大規模モデルと小規模モデルの連携や、小規模モデルに依存する基礎モデルの解釈可能性と因果推論の問題に対処する必要があるという。
シリコンフォトニクス
シリコンフォトニクスは、何年も前から期待されている技術で、コンピュータチップが光接続で通信できるようになるだけでなく、チップ内で電子の代わりに光子を使うことも可能になるかもしれない。DAMOでは、今後3年以内にデータセンターでの高速データ通信にシリコンフォトニックチップが普及し、5年から10年後には一部のコンピュータ分野で電子チップに代わってシリコンフォトニックチップが徐々に使われるようになると予想している。
クラウドコンピューティングとAIの継続的な台頭は、シリコンフォトニックチップの急速な進歩と商業化を実現する技術的ブレークスルーの原動力となるだろう、と報告書は述べている。
シリコンフォトニックチップは、データセンター内やデータセンター間の光通信や光コンピューティングに広く利用できる可能性がある。しかし、DAMO社によると、シリコンフォトニックチップの現在の課題は、サプライチェーンと製造プロセスにあるという。シリコンフォトニックチップの設計、大量生産、パッケージングはまだ標準化されておらず、生産能力の低さ、歩留まりの悪さ、コストの高さにつながっている。
プライバシーもまた、DAMOが今後数年間で進歩すると考えている分野だ。同報告書によると、プライバシーを保護しながら計算や分析を行う技術はすでに存在しているが、性能上のボトルネックや標準化の問題から、その技術の普及は限られている。
レポートでは、暗号化を解除せずにデータの計算を可能にする同型暗号化の高度なアルゴリズムが臨界点に達し、暗号化をサポートするために必要な計算能力が低下すると予測している。また、組織間のデータ共有を促進するために、信頼できる第三者として技術や運用モデルを提供するデータトラストエンティティの出現も予測している。
衛星接続
DAMOのもう一つの予測は、今後5年間で、衛星通信と地上ネットワークの統合が進み、ユビキタスな接続性が実現するというものだ。報告書では、これを「衛星-地上統合コンピューティング(STC)」と呼び、高地球軌道(HEO)および低地球軌道(LEO)の人工衛星と地上のモバイル通信ネットワークを接続して、「シームレスで多次元的なカバレッジ」を実現するとしている。
もちろん、従来の衛星通信は高価であり、STCの要件を満たすことができない静的な処理メカニズムを使用していること、衛星用のハードウェアは一般的ではなく、地上用のハードウェアは宇宙では使用できないことなど、これらを実現するためには大きな課題がある。
クラウド・ネットワーク・デバイス・コンバージェンス
最後に、DAMOのレポートでは、「クラウド・ネットワーク・デバイス・コンバージェンス」と呼ばれるものが台頭してくると予測している。これは、クラウドプラットフォームが膨大な計算能力を提供する一方で、最新のデータネットワークがその計算能力へのアクセスをほぼどこからでも可能にし、エンドポイントデバイスはユーザーインターフェースを提供するだけでよい、という前提に基づいているようだ。
そう、シンクライアントの概念が、今度はクラウドをホストにして再び登場したのだ。クラウドを利用することで、アプリケーションはデバイスの限られた処理能力から解放され、より要求の厳しいタスクをこなすことができるようになる。一方で、5Gや衛星インターネットなどの新しいネットワーク技術は、広い範囲をカバーし、十分な帯域幅を確保するために継続的に改善する必要があるとしている。
アリババクラウドはすでにそのようなデバイスを持っており、2020年にはハンドヘルド(片手で持てるの意)型の「Wuying」が発売され、昨年にはより充実したデスクトップ型のデバイスが披露された。
当然のことながら、DAMOのレポートでは、今後2年間で「クラウド・ネットワーク・デバイスの融合システムの上に立つアプリケーションシナリオの急増」が予想されている。これにより、新しいタイプのデバイスの出現が促進され、ユーザーにはより高品質で没入感のある体験が約束される。