Amazonのプロダクトマネジャーの役割とは?

Amazonのプロダクトマネジャー(PM)には必ずしも技術的なバックグラウンドは必要とされない。製品のデータ分析とカイゼンを繰り返し、様々なチームと協働してロードマップの進捗管理をする。

Amazonのプロダクトマネジャーの役割とは?

要点

  • PMは製品のデータ分析とカイゼンを繰り返し、様々なチームと協働しながらロードマップを策定・管理する
  • Amazonはプロダクトマネジャー(PM)としてMBA取得者の採用を好む。必ずしも技術的なバックグラウンドは必要とされない。
  • プロダクト開発とオペレーションが分離。オペレーションはプログラムマネジャーが担当する
  • PMが会議の土台となるメモを作る。文章力が必要。

必ずしも技術的なバックグラウンドは必要ない

『世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 トップIT企業のPMとして就職する方法』で、著者の2人は、Amazonでは、PMの役割にはMBA取得者が好まれ、技術的なバックグラウンドが必須とは考えられていない、と説明しています。Amazonは新卒者をPMとして採用しない、数少ない企業のひとつです。同社は新卒者をプログラムマネジャーまたはテクニカルマネジャーとして受け入れており、これは「プロダクトデザイン」より「プロジェクトデザイン」寄りの役割です。

同書によると、AmazonはPMとテクニカルプログラムマネジャー(TPM)、プログラムマネジャーという区分を採用しているようです。PMがビジネスとプロダクトマネジメントを見て、TPMが開発者と密にコミュニケーションをし、その他のオペレーション、ビジネスプロセスをプログラムマネジャーが引き受けます。ビジネスドリブンな企業のアプローチだとわかりますし、ここから日本で「Amazonの経営を真似よ」的な書籍が売れるのも類推が効きます。現行の日本企業のあり方としてはこれが最も移行のしやすい製品開発のあり方であるのは間違いがありません。

PMは、プロダクトのオーナーであり、プロダクトのビジョンに焦点を当てます。Amazonは、プロダクトマネジャーの役割にはMBA取得者を好む傾向があり、ビジネススクールを卒業したばかりの人を雇用します。ほかの多くの企業と異なりAmazonはPMに技術的なバックグラウンドを求めていません。

テクニカルプログラムマネジャー(TPM)は、技術的なプロジェクトの日々の業務に責任を持ちます。TPMには高度な技術的バックグラウンドが必要で、学校を卒業してすぐ採用されることもあれば、エンジニアリング職から転換することもあります。TPMはエンジニアと緊密に連携をとります。

プログラムマネジャーはオペレーションなど、技術意外のプロジェクトに関してプロジェクトマネジメントの職責を担います。プログラムマネジャーにはさまざまなバックグラウンドの人がいますが、SQLがわかると有利です。Amazonは、賢く、スピーディで、重圧のもとでも働けるプログラムマネジャーを求めています。Amazonがプログラムマネジャーに要求することは、チームのプロセスの実行と改善です。

さらにPMはAmazonの顧客本位の思想をプロダクトに反映させることが求められます。PMはSQLから取得したデータの他にユーザーインタビューのような定性的な手段も採用します。

加えてPMは担当するチームのビジョンとロードマップに責任を持っています。Amazonは顧客を魅了し続けることを重んじており、顧客が何を望んでいるか、何を必要としているかということから、多くの新しいアイディアを得ています。Amazonはデータをきわめて重視しているため、PMには高い分析スキルが必要です。

AmazonのPMはプロダクトをローンチする段階になると、PMはマーケティングチームと協力して、オペレーションチームに引き継ぐ準備をします。オペレーションチームがその後、立ち上げられたプログラムを継続して運営します。

有名なメモ会議

文書を利用したAmazonの会議手法は非常によく知られていますが、この会議の核となる文書を作るのがPMです。

PMは、アイデアを思いつくと費用対効果の検討とあわせてメモにまとめます。このデモはナラティブ(語り)とも呼ばれます。このドキュメントには、提案内容の詳細と、それを裏付ける分析、特に影響と理由付けに関する数値が書かれています。Amazonでは、新規提案のプレゼンテーションではなく、ドキュメントを重視しています。ドキュメントを書くには精密さが求められ、思考の明快さが表れる、と会社は考えているのです。

初期段階の改訂と修正を経た提案は、会議でマネジメントと共有されます。この会議では、まず全員が一斉にドキュメントを黙読します。このやり方は一見、奇妙に見えるかもしれませんが、全員が提案を細部まで読み、全員が集中できる方法です。全員がドキュメントを読み終わると、それに対して質問します。

AWS(アマゾンウェブサービス)でPMの経験があるDarshana Sivakumarはブログで「アマゾンにはドキュメント主導の文化がある」と説明しています。「書かれたドキュメントは、コンテンツとそのコンテンツをどのように提示するかに焦点を当てています。メッセージを効果的に伝えるために、最も主張したり、最高のプレゼンテーションスキルを持っている必要はありません。書き留めておかないと忘れてしまう廊下での会話とは異なり、文書は時間の試練に耐えます」。

Sivakumarは、AmazonのPMは優れた文章力を身につけないといけないと記述しています。「箇条書きにしても詳細が不明瞭になることはないので、思考の明晰さが求められます。アマゾンでは、プレゼンテーションよりもドキュメントの使用を推奨しており、アマゾンにいる間は、優れたライティングスキルを身につけることが不可欠です」。

「上手に書けば曖昧さが減り、意図をより良く捉え、全員が同じページにいることを確認することができます。あなたがPMであれば、製品の要件、ユースケース、ユーザーストーリー、ブログ、会議のサマリーなどを文書化することにはすでに慣れているでしょう。書くことを続けましょう」。

この文化はメディアで有名なりましたが、2018年にCEOのジェフ・ベゾスはこのやり方の存在を認めています。ベゾスは何年も前にスライドを禁止しメモ型の会議を採用しました。すべての会議で最初に座って読むというよく練られた6ページのメモが求められます。その6ページのメモを作る労力はとてつもないことが想像できます。スライドによるプレゼンは様々なごまかしが効きますが「文書を黙読」となると課題をめぐる極めて厳しい検討とその洞察と表現力の双方が求められます。

シアトルにあるAmazonの本社オフィスビル。Source: Amazon Press Room.

シニアプロダクトマネジャーの仕事

Amazonのプロダクトマネジャーの仕事の具体例が、カルフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス(Haas School of Business, University of California Berkeley)のブログにあったので、参照します。

Stephanie Curranは、ブルームバーグ調査部からカルフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス(Haas School of Business, University of California Berkeley)のMBA取得を経て、Amazon Marketplaceのシニアプロダクトマネジャーを務めています。彼女へのインタビュー(by Haas School of Business, University of California Berkeley)は示唆に富んでいます。

彼女はAmazonのPMについてこのように描写します。「プロダクトマネージャー(PM)であるということは、自分のプログラムのジェネラルマネージャーであることを意味します。ソフトウェア開発者、デザイナー、財務、編集、法務、他のプログラムのプロダクトマネージャー、そして私の場合は、Amazonのリテールチームと機能横断的に仕事をすることになります。あなたは、自分のプログラムをいつ、何のプログラムをローンチするかを決定するロードマップを管理しています。アマゾンでは、11の異なるマーケットプレイスでテクノロジーを展開しているため、グローバルに考えなければなりません」。

彼女は、他のチームとの交流の中で、プログラムの管理方法だけでなく、技術開発、ユーザーエクスペリエンス、UIデザイン、マーケットプレイス間のニュアンスの違いなど多くを学ぶことができた、と語っています。

「PMとしてのあなたの現在の職責は何ですか?」という問いにCurranさんはこう答えています。「私は現在、Amazonのマーケットプレースビジネスのシニアプロダクトマネージャーとして"Authoritative Identity Program” を管理しています。私は別のシニアPMとビジネスアナリストの2人で構成されるチームを管理しています。我々はサードパーティの販売者が出品したものを理解するため、彼らが提供してくれているデータを活用します」

Amazonでは必ずしも技術的なバックグラウンドは必要ないとのことですが、彼女は十分それについて知識を持っているようです。「私の製品は、バックエンド技術主導の改善(例えば、私たちのモデルを強化するための機械学習の使用)と、サードパーティの販売者がAmazonで販売するときに優れた体験を得ることを保証するフロントエンドユーザーエクスペリエンスの改善の面白い組み合わせです。 私はプログラムのロードマップを管理し、開発チームと緊密に連携して、何をいつ始めるのかを決定します」。

彼女はサードパーティの出品者の出品動向のデータを分析し、それを次にどのような”カイゼン”に活かせばいいのかを開発者と話し合うようです。**彼女の職責から、Amazonがコマース事業ではデータ分析とそこからビジネス上の洞察を行う力を重視していることが伺えます。購買というビジネス上の知見が必要とされる分野を扱うPMには、検索やソーシャル、OSを手がける企業とは異なる能力が必要とされるようです。

MBA取得者を好む傾向

Curranはブルームバーグ勤務時代にファイナンスの分析に使用していたスプレッドシートを越えた仕事をし、より幅広い役割を果たすスキルセットを構築したいと考えて、UCバークレーでのMBAを開始。その後、プロダクトマネジャーとして経験を積みました。

彼女はMBAでの経験が生きている例をこのように説明します。「PMに求められる要件の1つは、最小実行可能な製品(MVP)がどのような機能で発売されるかを決定することです。ハース・スクール・オブ・ビジネスでは、私は新製品開発のクラスを受講しましたが、そのクラスでは、1学期に1つの製品をコンセプトからMVPまで運転しました。私は、計画中の新製品や機能のためのビジネス要件書を書き始めるたびに、この演習を思い出しています」。

彼女は「プロダクトマネジメントに興味がある人にMBAはおすすめですか?」との質問には、こう答えています。

「その人のスキルや経験によると思います。私のように、技術的なバックグラウンドを持たずにキャリアと業界の転換をしていた人にとっては、MBAは絶対に必要なものでした。MBAを取得したことで、必要なスキルを身につけることができただけでなく、他社でのプロダクトマネジメントのような役割を経験することができましたし、Amazonでのインターンシップでは、面接でうまく話すことができました。これは間違いなく、私が門戸を叩くのに役立ちました」

「技術的なバックグラウンドを持っていて、プロジェクトマネジメントやコンサルティングのバックグラウンドを持っている人には必要ないかもしれません。とはいえ、MBAを考えている人には、自分がなりたい場所に行くために必要なのかどうかを理解するためにリサーチをして、もし必要であれば、両足で飛び込んで行くことを絶対にお勧めします」

MBAを経て、彼女のキャリアは証券会社の調査部からかなり「ものづくり」に近づきました。よりテクノロジーオリエンテッドでエキサイティングな仕事につくこともできています。

厳密な分析力、問題解決能力、優れたコミュニケーション能力…

ハース・スクール・オブ・ビジネスを2016年に卒業したMarco Cagnaは、AWSのPMT-ES(プロダクトマネージャー、テクニカル/外部サービス)を担当し、AWSグローバルネットワークを利用している顧客のために、グローバルなアプリケーションの可用性とパフォーマンスを向上させるサービスであるAWS Global Acceleratorの開発に日々取り組んでいます。彼は、ハース・スクール・オブ・ビジネスのMBA学生の中から将来のインターンや従業員を採用するという重要な仕事もしています。

CagnaはAmazonがMBAを採用する際の考え方について、ハース・スクール・オブ・ビジネスからのインタビューに対し、このように説明しています。「アマゾン・リーダーシップ原則は、アマゾンでの日々の意思決定に役立ち、特に候補者との面接の際に使用しています。私たちは、採用するすべての人に、私たちが行うすべての意思決定は顧客から始まり、その後に遡って行われるということを理解してもらいたいと考えています」

「オーナーシップは、面接で重視するもう一つのリーダーシップの原則です。私たちは、問題を発見するだけでなく、問題を解決することができる、初日からオーナーシップを持てる人を求めています。もう一つの特徴として、私たちがMBA候補者に求めるのは、発明と単純化の能力です。この原則は、バークレー・ハースで奨励されているデザイン思考に関連しています」。

シアトルのAmazon本社のドッグパーク。Photo by Amazon Press Room

「特にPMTやその他の技術職の候補者を探す際には、これらの職務にはSTEM(科学技術)のバックグラウンド(例えば、工学やコンピュータサイエンスの学位などの学歴、または技術分野での関連する職務経験)が必要であることがわかっています。さらに、技術系、非技術系のプロダクトマネージャーに必要なスキルとして、厳密な分析力、問題解決能力、優れたコミュニケーション能力、リーダーシップ能力などを求めています」。

「面接のプロセスが進めば進むほど、あるトピックについて深く掘り下げることができることを証明することが重要になります。私たちは、Amazon Leadership Principlesや他の職務要件と同様に、ストーリーを語り、適切な例を示すことができる人を求めています。候補者が、構造化されたアプローチで曖昧な問題を分析することにどれだけ慣れているかを知りたいと考えています」。

AmazonがMBA取得者を採用する際には、職種は多岐にわたります。Cagnaは、プログラムマネジメント、プロダクトマネジメント、テクニカルプログラムマネジャー(TPM)をはじめ、ファイナンス、オペレーション、リテールのリーダーシップ開発プログラムなど、全社的にさまざまな役割で採用する、と説明しています。

「AWSでは、MBA取得者に提供される機会を拡大し続けています。今年の秋には、AWSに特化した新しい役割の選択肢として、プロダクトマネージャー、テクニカル・エクスターナル・サービス(AWSの外部顧客との独占的なパートナーであり、実際には私の現在の役割です)を導入しました」。

有名な「ピザ二枚」ルール

Amazonのプロダクトマネジメントを象徴する、ピザ2枚ルールは非常に有名です。アマゾンの初期の頃、創設者兼最高経営責任者(CEO)であるジェフ・ベゾス氏は有名な規則を定めました。「チームは、2つのピザを分け合えるほど小さい必要がある」ということです。

2013年の株主への手紙で、Bezosは「ピザ2枚規則」の根拠を説明しました。

「大小を問わず、偉大な技術革新が毎日お客様のために、そして会社全体のあらゆるレベルで行われています。会社の上級リーダーに限らず、会社全体にこのように発明を浸透させることが、堅牢でスループットの高い技術革新を実現する唯一の方法です」

「ピザ2枚」のチームとは5〜9人程度と想定でき、そのなかに「プロダクトマネジャー」を1人含みます。この小規模のチームが意味することは、戦略策定の仕組みがボトムアップ型でできていることを意味します。この小規模のチームの「ミニCEO」こそがプロダクトマネジャーなのです。ただ、Amazonの場合は、このチームの戦略に対してかなり厳密に上級クラスの人が監督している様子が伺えます。

参考文献

  1. Morgan Berstein "Do I need an MBA to be a product manager, part IV". Berkeley Haas.
  2. Betsy Ream. The MBA from the eyes of a hiring manager at Amazon Web Services. Berkeley Haas. February 20, 2020
  3. An Exclusive Look at an Amazon Product Manager Role by Carlos G de Villaumbrosia
  4. Gayle Laakmann McDowell, Jackie Bavaro. 『世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 トップIT企業のPMとして就職する方法』.
  5. Darshana Sivakumar. Seven Key Takeaways From a Former Amazon Product Manager. Product Management Insider.

Image via Amazon Press Room

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