ソフトバンク傘下アームの将来に暗雲:AndroidのRISC-V移行
携帯電話OSのAndroidが、英半導体会社Arm(アーム)からRISC-Vへと移行する兆しを見せている。推進するのは、アームの最大顧客である米半導体大手クアルコムと、Androidの親であるGoogle。ソフトバンクグループ傘下のチップ会社の「スマホの城」に暗雲が漂っている。
携帯電話OSのAndroidが、英半導体会社Arm(アーム)からRISC-Vへと移行する兆しを見せている。推進するのは、アームの最大顧客である米半導体大手クアルコムと、Androidの親であるGoogle。ソフトバンクグループ傘下のチップ会社の「スマホの城」に暗雲が漂っている。
クアルコムとグーグルは米国時間17日、次世代「Wear OS」製品向けに設計されたRISC-V命令セットアーキテクチャ(ISA、*1)をベースとする、ウェアラブル端末向け省電力システムオンチップ(SoC)である「Snapdragon Wear」プラットフォームの開発で提携を拡大することで合意したと発表した。
同社によると、「RISC-Vベースのウェアラブル・ソリューションを、米国を含むグローバルで商品化する」計画だという。グーグルとクアルコムにとって、このチップは商業的なRISC-V Androidプロジェクトに初めて取り組んだものであり、これまでに発表された最初の大量市場向けRISC-V Androidチップである。
Wear OSは、もともとグーグルが2014年に「Android Wear」として発表したもので、スマートウォッチやウェアラブル端末向けに設計されたOSだ(*2)。
RISC-VをWear OSの選択肢に加えることには、大きな意義がある。Wear OSがAndroidの亜種であることに起因するが、このプロジェクトは、クアルコムとグーグルがRISC-Vスマートフォンへと向かう場合、両者に有益なノウハウを提供することになるだろう。実際、クアルコムは、グーグルとの共同開発により、「Androidエコシステムにおいて、低消費電力で高性能なカスタムCPUを活用する製品が増える道が開かれる」と述べた。
クアルコムの声明によれば、「RISC-V用のアプリケーションと堅牢なソフトウェア・エコシステムが商業的な立ち上げに利用できるようにするための作業が開始され、今後も継続される」とのことである。
RISC-Vがアームを代替するシナリオ
RISC-Vは、アームのさまざまな問題をすべて回避する方法でもある。アームは多くのビッグテックのビジネス基盤となっているが、親会社のソフトバンクが投資からの現金化を図ったため、同社はここ数年不安定な時期を過ごしてきた。当初、ソフトバンクはアームをNVIDIAに売却しようとしていた。規制当局がこの取引を認めなかった後、アームはIPOに至った。アームは株主に高いバリュエーションを納得させようとした結果、以前よりもIPに対して劇的に高い金額を請求しようとビジネスモデルを変更しようとしている。
またアームは現在、チップ設計会社NUVIAのライセンス料とカスタムチップの設計をめぐり、親会社のクアルコムを提訴している。クアルコムはアームの最大顧客である。クアルコムの幹部は、アームに提訴された後に開催されたRISC-Vのカンファレンスに出席し、アームを「レガシーアーキテクチャ」と揶揄したとされている。
アームは米中貿易戦争の主要なツールにもなり、中国企業は代替手段としてRISC-Vへと資源を集中させている。米国政府は、チップ輸出規制に対する米国の影響力を回避する方法として、RISC-Vを懸念している。
RISEプロジェクト
Linux Foundationの欧州部門Linux Foundation Europeは2023年5月、「RISC-V Software Ecosystem(RISE)」プロジェクトの創設を公表した。Armの牙城を崩すべく、RISC-Vアーキテクチャ向けのオープンソースソフトウェア開発を加速させていく計画だ。
RISC-V製品の市場投入を促進するため、RISC-V Internationalとの緊密なパートナーシップの下、商用ソフトウェアの準備に重点を置いている。対象となる市場セグメントには、モバイル、家電、データセンター、自動車が含まれる。
脚注
*1:ISAとは、チップの機械語を抽象化する多層のプロセスにおける、最初の段階を担うもので、チップ設計と非常に密接な関係がある。RISC-Vは英半導体設計企業Arm(アーム)のARMとその始祖を同じとしながらも競合関係にある。どちらも、米国の計算機科学者デビット・パターソンらが提案したReduced Instruction Set Computer(縮小命令セットコンピュータ)を基にしている。https://engineering.berkeley.edu/david-patterson-a-winning-risc/
*2 :AndroidとiOSの両方のスマートフォンに対応し、Google Playストアからのアプリサポート、Googleサービス(アシスタント、Fit、Payなど)との統合、ペアリングした電話からの通知、カスタマイズオプションなどの機能を提供する。