ウーバーで1万倍リターンを成功したエンジェル投資家ジェイソン・カラカニス

『エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか』は、ウーバーへの投資で1000万円を100億円に増やした現役のエンジェル投資家が書いた実践の書である。

ウーバーで1万倍リターンを成功したエンジェル投資家ジェイソン・カラカニス

『エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか』は、ウーバーへの投資で1000万円を100億円に増やした現役のエンジェル投資家が書いた実践の書である。

著者のジェイソン・カラカニスはエンジェル投資家と同時に作家、ポッドキャスターの顔も持っています。彼は戦略的にコンテンツを世に放っており、それで最初期のスタートアップとのコミュケーションを図っています。もともとは起業家であり、彼の最初の会社はニューヨークのドットコム時代に創設したものですが、芳しいパフォーマンスは残していません。彼の2番目のベンチャーであるWeblogsはその名の通りのデジタルパブリッシャーで、AOLに売却されました。以降、10〜50ベーシスポイントの持ち分と引き換えの社外取締役を兼任しながら、エンジェル投資に勤しんできました。

本書の内容は、「プロラタ条項(Pro Rata:出資先の企業が増資する場合、初期の出資比率を維持できるように追加出資する権利)は絶対につけさせろ」のようなポジショントークも多分に含まれており、同時に生存者バイアスの匂いもするものの、それでも、シリコンバレーの慣行を学ぶ上で貴重な資料と言えるし、日本語で手に入るベンチャー投資に関する情報の中では、非常に有用な種類のものに分類されるはずです。

カラカニスは創業者を見て投資を決断するとしています。エンジェル投資の段階ではプロダクトの将来性を予見するのは非常に難しく、「どの人間が成功しそうか?」を判断する努力をしなければならない、と説いています。また彼は、他の人が距離を置こうとするようなワイルドカードの創業者が大半のリターンを生み出す、とも指摘しているのです。「優れた創業者はほぼ全員が頑固で熱狂的なワイルドカードだ。つまり自分のビジョンを追うことに懸命で他人の感情などにはまったく注意を払わない人種だ」。

カラカニスが挙げるエンジェル投資家に必要な能力のうちには、人付き合いが上手なことが含まれています。「特に、最後の能力は極めて重要で、創業者というのは、成功して大富豪になった暁には、後付けで『ビジョナリー(先見の明がある)』などと呼ばれるが、成功するまでは『頭がおかしい』とか、『ナルシストだ』とか、更にはもっとひどい言われ方をされる」と記述しています。そのような個性と付き合うには人付き合いが上手でないといけないということです。

「資金のショートでビジネスが潰れるわけではない、努力の放棄によって潰れる」と指摘していますが、目的のある人間は、努力の放棄に至らない、人が『頭がおかしい』『ナルシストだ』と呼ぶ特性を備えているのかも知れません。

エンジェルラウンドはスタートアップの最初期のラウンドですが、実際にはその前の「ラウンド」が存在するそうです。彼はそれを、ただ働きラウンド、ブートストラップラウンド、家族類縁者ラウンド、と読んでいます。そしてエンジェルラウンドの先にある最初の登竜門であるシリーズAについては、「シリーズAとなれば、投資を実施するのはプロのベンチャーキャピタルであり、案件の担当者はスタートアップの取締役に就任して『適切な経営管理』を助ける。『適切な経営管理』というのは、株価を1セントでも高めるために取締役が集まって定期的に取締役会を開き、必要な措置を取るよう決議を行うということだ」と説明しています。

僕は、CEOがシリーズA以降、取締役会対策にかなりの時間を割くという記述にはおおいに驚きました。「しかしひとたびシリーズAの資金調達すると事業が変わる。CEOは時間の20%を取締役対策に当てることになる。取締役会は6週間から10週間に一度開く必要がある。つまり年に6回から8回程度開催しなければならない。そこで創業者は取締役会で使うスライドを準備し、弁護士を頼んで社員に報酬として株式を分与するストックオプションのための決議案を起草する」。流石に20%は割きすぎな気がするのだが、日本の慣行がどうなのかは聞いてみたい気もします。

シリーズA以降、スタートアップをめぐる環境が変わる理由については、彼は、VCは報酬としてマネジメントフィー(管理報酬)とキャリー(成功報酬)を得ており、それを最大化するゲームをしている、と説明します。マネジメントフィーは通常、運用資産の2%で、VCの運営コストをカバーするために支払われます。加えてキャリーは20%が一般的な数値のようです。「VCはOPM、つまり他人の金(Other People’s Money)を動かしているからだ。VCはOPMを投資して20パーセントの『キャリー』を上げようとしている」。

ぼくは現在のスタートアップのゲームのオッズとエッジの設計は最良ではないと考えています。それはカラカニスが指摘するところでもあります。「しかし確率から言えば、創業者が大きな利益を手にできる可能性が非常に低い。スタートアップの経済におけるオッズは長期にわたって投資を続けるエンジェル投資家やベンチャーキャピタリストに有利にできている」。現状のスタートアップのやり方は最良の制度設計ではなく、将来は株式が常時オークションに駆けられ、その権利が動的に変化するような仕組みになるのではないか、と僕は予測します。暗号通貨取引所やICOの仕組みにはヒントがありいつか逆流が起きるのではないかと想像しています。すべては、オークションにオークションにかけられ続け続けたほうがいいのです。

『エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか』 ジェイソン・カラカニス 日経BP社 2018年

Image Source: Discover ideas about Horse Betting / Susan Nelson / Pinterest.

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By 吉田拓史
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