米上院、アプリストア規制法案でAppleとGoogleに圧力

Epic Gamesの提訴が法案として実現するか

米上院、アプリストア規制法案でAppleとGoogleに圧力
Photo by Sara Kurfeß on Unsplash

要点

「門番」と揶揄されるAppleとGoogleのアプリストアの慣行を規制する法案が米上院に提出された。スティーブ・ジョブズが最初に引いたプラットフォームに優位すぎる線が、引き直されることになるか。


超党派の上院議員3人はAppleとGoogleのアプリストアを標的とした「Open App Markets Act (アプリ市場開放法)」の法案を上院に提出した。法案は2社がモバイルOSとアプリストアをゲートキーパー(門番)的に管理していると主張している。

Open App Markets Actは、コネチカット州選出のリチャード・ブルーメンタール議員らが主導する法案。この法案は、アプリストアの運営方法とアプリ開発者に課すことのできるルールに新たな制限を設けることで、競争と消費者保護を強化することを目的としている。2020年だけでも米国の消費者はアプリ・ストアで330億ドル近くを費やし、134億個のアプリをダウンロードしたが、現状、AppleとGoogleはこの市場の中でプラットフォームであり、審判であり、プレイヤーでもあるという「優位なポジション」を築いている

「AppleとGoogleは、何年もの間、この数十億ドル規模の市場の善良な門番のように振る舞いながら、競合他社を潰し、消費者に知られないようにして、多額の利益を得てきた」とブルーメンタールは2社を非難。上院の反トラスト委員会の委員長であるエイミー・クロブカー上院議員は、この法案を共同で支持している。

並行して、下院委員会は、6月にApple、Googleなどを対象とした反トラスト法変更案を可決したが、大手テック企業は大きな変更があればロビー活動を行うことを示唆していた。4月に行われた上院の公聴会では、音楽ストリーミングサービスのSpotifyやオンラインデートサービスのMatch Groupなど、AppleやGoogleを批判してきた会社が、決済処理にかかる手数料などで不当に利益を得ていると非難した。

法案が提起している論点は以下のようなものだ。

1. サードパーティアプリストア

この法案は、アプリストアが特定の開発者に不利益を与えないようにし、サードパーティアプリストアを認めることを目的としている。サードパーティアプリストアは、GoogleのAndroidユーザーには提供されているが、Appleは自社のストアを通じてのみアプリのダウンロードを許可している。

2. サイドロード

この法案は、アプリを公式アプリストアからダウンロードする必要のない「サイドロード」も認めている。Appleは、サイドローディングによって消費者の携帯電話がセキュリティ上の脆弱性にさらされると主張している。Appleが発表した「Building a Trusted Ecosystem for Millions of Apps(数百万のアプリのための信頼できるエコシステムの構築)」と題されたレポートは、App Storeを回避するためにアプリをサイドロードする行為を非難する内容となっている。

Appleのレポートは、サイドロードされたアプリを「深刻なセキュリティリスク」と位置づけ、サイドロードを許可すると、人々の携帯電話にランサムウェアを入れたり、個人情報を盗んだりすることになると主張していた。

サイドロードは、App Storeの利用を禁止された人気アプリにアクセスするために使用されるが、その中でも特に有名なのが、Appleとアプリストアの規約をめぐって法廷闘争中のEpic Gamesの「Fortnite」だ。AppleのレポートはFortniteを念頭に入れていると考えられる。Epic GamesのCEOであるTim Sweeneyは、このレポートを「嘘の海」と呼んだ。

この法案は、AppleとGoogleが、アプリ内課金システムやその他のツール、プロトコルがセキュリティ上必要であると主張する余地を残している。法案によると、ユーザーのプライバシーやセキュリティ、不正防止のために必要な行為、または連邦法や州法を遵守するために必要な行為であれば、この法案の対象となるプラットフォームは違反とはならないという。

しかし、ブルメンタールはCNBCに対し、AppleとGoogleのユーザーのセキュリティを守るという主張は「独占的な立場を維持するための口実」だと述べた。「なぜなら、彼らは実際にプライバシーを侵害し、開発者からデータを盗んでいるにもかかわらず、『我々はプライバシー保護者なんだ』と言っているからだ。実際、私たちの法案の第4節には、現在よりもさらにプライバシーを保護するための具体的な条項がある。この種の議論はまったくのデタラメであり、この法案によってプライバシーがよりよく保護されることは、絶対に明らかになると思う」と述べている。

3. アプリ内購入

Epic GamesやSpotifyなどの企業は、顧客が自社アプリで購入した際の手数料を両社が負担していることを問題視している。例えば、Appleは、顧客がiOSアプリを通じてSpotify Premiumにアップグレードした際の支払いから、15〜30%を手数料として徴収している。また、Appleは開発者がユーザーに対して別のチャネルで購入すればより低価格で購入できることを広告することを禁じている。

AppleとGoogleは、アプリの購入から徴収する手数料は市場の標準的なものであり、運営するアプリストアの構築と運営にはコストがかかるとしている。多くの開発者は、こうしたコストをカバーするために手数料を支払うことには反対しないが、現在の手数料は不当に高いと主張している。

Epic Gamesの訴訟はこの論点のランドマークだ。2020年半ば、同社はiOSとAndroidの両方でFortnite内に独自の決済システムを実装し、AppleとGoogleのポリシーに違反して、双方のストアからアプリを削除された。AppleとGoogleは、独自の決済システムを通じてアプリストアを回避せず、アプリ内購入に対する30%の手数料を受け入れるようEpic側に迫った。これに対し、Epicは2020年8月、App Storeにおける慣行が反競争的であるとして、Appleを提訴していた。

4. 機密情報の活用

Open App Markets Actは、大規模なアプリストア運営会社が、サードパーティアプリの非公開ビジネス情報を利用して、そのアプリと競合することを禁止している。また、これらの企業が自社やビジネスパートナーのアプリを他のアプリよりも「不当に優先したり、ランク付けしたり」することも禁止している。

開発者たちは、アプリストア運営会社が自分たちの市場に関する知識を利用して競争しているという疑惑を主張してきた。例えば、Spotifyは、Appleが「ユーザー体験やアプリの機能を向上させるようなバグ修正やアプリの強化を日常的に拒否している」とし、一方で、自社のサービスの前にそのような「障害」を置くことはしないと告発している。

Appleは2019年の声明で、アプリのアップデートをブロックしたというSpotifyの主張を否定し、「我々が調整を要求したのは、Spotifyが他のすべてのアプリが従うのと同じルールを回避しようとしたときだけだ」と反論している。

コメント

Epic GamesとSpotifyは米国と欧州でAppleと訴訟をしている。米国とEUはアプリストアに関する調査を進めている。マイクロソフトはWindowsのアプリストアの規則を柔軟なものに変え、Appleの第一の批判者となっている。アプリストアへの包囲網は狭まっている。

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