Appleのインドシフトが進行 中国依存脱却を模索

Appleのインドシフトが進行  中国依存脱却を模索
ムンバイの金融、アート、エンターテイメントで賑わうバンドラ・クラ・コンプレックスに位置する直営店「Apple BKC」。Apple BKCでは、20カ国語以上を話す100人のスタッフが顧客対応する。出典:Apple

インドがiPhoneの生産拠点と消費地の双方で最も重要なフロンティアと目されている。Appleは中国への過度な依存から多様化を目指す中、成長途上の14億人市場はうってつけの存在だ。


Appleは、中国に代わる製造拠点としてインドを位置付けたようだ。Appleは昨年はインドで70億ドル以上に相当するiPhoneを生産。今後はさらに生産を拡大し、2025年までには全体の4分の1をインドで製造する計画である、とブルームバーグが報じた

Appleは、インドで鴻海精密工業、ペガトロン、ウィストロンの製造サプライヤー3社の操業を強化し、生産の多様化を進めている。インドで約6万人の従業員を抱えるこの3社は、老朽化したiPhone 11から最新のiPhone 14までのモデルをインドで製造している。

最近まで、Appleは通常、最新モデルの発売から7〜8ヶ月後にインドでモデルの組み立てを開始していた。しかし、昨年、アップルはiPhone 14の発売から数週間後にインドで製造を開始した。

インドではすでにインド製iPhoneが販売の4分の1を占めている。Appleは近年、インドでの生産台数を3倍に増やし、世界のiPhone製造に占めるインドの割合を7%に押し上げているという。

昨年、鴻海が運営する河南省鄭州市の世界最大のiPhone工場でコロナが蔓延し、労働者の抗議行動で生産が中断したことで、中国に過度に依存することの脆弱性が露呈した。

インド国内のiPhone販売も増加

インドは製造拠点だけならず、市場としても有望な兆しを見せている。ブルームバーグによると、Appleのインドにおける売上高は2022年3月期に60億ドル近くに達し、前年度から50%近く増加した。AppleのCEOであるティム・クックは4月18日、同社初の店舗のオープンに立ち会うためインドを訪問した。

クックは、拡大するインドの中産階級を魅力的な機会として認識しており、同社は現地生産を増加させつつある。Appleはインドでは小売パートナーやオンライン販売に頼ってきたが、最近直営のオンラインストアを立ち上げ、今週はムンバイとニューデリーに初の実店舗をオープンした。

Apple BKC in Mumbai opens for customers this Tuesday
Apple today previewed Apple BKC, the first Apple Store in India, located in Mumbai’s bustling Bandra Kurla Complex district.

インドでの製造業の難しさも

「インドシフト」の難しさも伝えられている。フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道によると、Appleは、同国での生産確立を目指し、米国や中国からエンジニアや製品デザイナーをインド南部の工場に派遣し、現地労働者を教育している。Appleは2017年からインドで低価格帯のiPhoneを生産しているが、同国で高価価格帯のフラッグシップモデルを製造する動きは、製造の歩留まりの悪さや工場における危機感の欠如といった課題に直面しているという。

インド政府は2年前から、工業化、輸出の拡大、雇用の増加を支援するため、14の特定分野の製造業者に報酬を与える生産連動型優遇策(PLI)を開始した。生産量を増やしたことを証明できる対象企業は、拡大した生産額の4%から12%に相当する補助金を受け取ることができる。

しかし、PLIは有効なインセンティブとして機能しているか疑わしい。その理由のひとつとして、このスキームが輸入関税の引き上げを通じて現地生産を奨励していることが、メーカーは部品の輸入に対して過分なコストを強いられ、その製品は世界市場ではもちろん、時にはインド国内でも競争力を発揮することが難しくなっているという。テスラがインドとインドネシアを天秤にかけ、インドを選ばなかったのもこの要因のせいだとされる。

インドは進出企業にとって規制リスクが指摘されている。規則や規制が突然変わることでも知られ、企業は予期せぬコストにさらされる可能性がある。進出企業からの中央と地方の官僚機構の機能不全への不満は大きい。

「次の中国」になれないインド:製造業育成に躓き続ける
インドの製造業振興は遅々として進んでいない。iPhoneの生産の一部が中国から移転しても、投資先として魅力的であるとは必ずしも言えない。インドは今の所、「次の中国」にはなりえないだろう。

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By 吉田拓史
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