「次の中国」になれないインド:製造業育成に躓き続ける

インドの製造業振興は遅々として進んでいない。iPhoneの生産の一部が中国から移転しても、投資先として魅力的であるとは必ずしも言えない。インドは今の所、「次の中国」にはなりえないだろう。

「次の中国」になれないインド:製造業育成に躓き続ける
インド、ガンディナガルで開催された防衛エキスポ2022で演説するナレンドラ・モディ首相。

インドの製造業振興は遅々として進んでいない。iPhoneの生産の一部が中国から移転しても、投資先として魅力的であるとは必ずしも言えない。インドは今の所、「次の中国」にはなりえないだろう。


Appleの中国サプライヤー12社以上がインドでの事業拡大の初期許可を得たとブルームバーグが報じた。AirPodsとiPhoneの組み立てを行うLuxshare Precision(立訊精密工業)と、レンズメーカーのSunny Optical(舜宇光学)の一部門が、許可を得た企業の中に含まれているという。

この出来事は、中国の製造業の集積をインドが吸い取る兆候に見えるかもしれない。しかし、実態としては、インドの製造業は長期に渡り、壁にぶち当たっている。

モディ首相は就任した2014年から製造業振興のスローガンである「メイク・イン・インディア」を掲げている。この枠組みは、2013年の危機的状況に対応するために立ち上げられた。大いに盛り上がった新興国バブルが崩壊し、インドの成長率は過去10年で最低のレベルにまで落ち込んだ。BRICS諸国の期待も薄れ、インドはいわゆる「フラジャイル・ファイブ」(脆弱な新興国5通貨)のひとつに挙げられていた。

メイク・イン・インディアは対内直接投資(FDI)誘致を促進し、GDPに占める製造業の割合を15%から25%に引き上げる目標を掲げてきた。しかし、新規プロジェクト、既存設備の拡張ともに投資が低調だ。製造業はインドのGDPの14%を形成するに過ぎない。GDPに占める製造業の割合を25%に引き上げる期限は、2020年、2022年、2025年と3回延期された。しかし、2014年以降、その比率はほぼ変わっていない。

インド政府は2年前から、工業化、輸出の拡大、雇用の増加を支援するため、14の特定分野の製造業者に報酬を与えるという意欲的なプログラムを開始した。この生産連動型優遇策(PLI)では、生産量を増やしたことを証明できる対象企業は、拡大した生産額の4%から12%に相当する補助金を受け取ることができる。

しかし、PLIは有効なインセンティブとして機能しているか疑わしい。カウンターポイント・リサーチの調査によると、中国のスマートフォン企業であるOppoは、PLIの恩恵を受けていないが、国産スマートフォンの出荷台数では常にPLI受給企業であるサムスン電子をリードしている。このことは、PLI制度が重要な要素になっていないことを示唆している。

PLIは5年間で2兆ルピー(約3.2兆円)を投じて開始されたものの、製造拠点としてのインドの魅力を相対的に高めるには至っていない。その理由のひとつは、このスキームが輸入関税の引き上げを通じて現地生産を奨励していることだ。このため、メーカーは部品の輸入に対して過分なコストを強いられ、その製品は世界市場ではもちろん、時にはインド国内でも競争力を発揮することが難しくなっている。テスラは以前、インドがまず関税を引き下げて輸入車の販売を許可すれば、インドに工場を設立することを検討すると述べていたが、現在、インドネシアでの工場建設が間近に迫っている。

インフラの未整備、税制・税務、行政手続きの煩雑さなどの理由で、進出企業にとってビジネス上の課題が多い国とみなされている。2020年からA.T.カーニーの外国直接投資(FDI)信頼度指数でインドは上位25位から転落した。カーニーの指数は、特定の市場に投資する企業の3年先までの信頼度を測定する。中国、アラブ首長国連邦、ブラジル、カタールは、2022年にリスト入りした唯一の新興国市場だった。

多国籍企業がインドを敬遠する理由はたくさんある。例えば、インドでは、農家や家庭の電力コストを補助する政府制度の一環として、すべての工場が高い電力料金を支払っている。さらに、契約の履行、気まぐれで支配的な官僚機構への対応、その場しのぎの国家政策決定といった長年の問題もある。
iPhone生産のような中国からの移転は顕著な動きではないようだ。シンガポール国立大学南アジア研究所のシニアリサーチフェロー兼リサーチリード、Amitendu Palitは、中国からの移転は「まだ顕著になっていない」とブルームバーグに対して指摘する。サプライチェーンの有意義な移転のためには、モディ政権は単に政治的要因や安全保障要因に頼って企業を誘致するのではなく、インドがより安価で容易にビジネスを行える場所であることを証明する必要があると元インド財務省高官のPalitは言う。

インドは地域や二国間の貿易交渉に消極的であるなど、開放的な貿易に著しい抵抗感を示してきた。多国間貿易協定についても同様の戦略をとっている。インド政府は日本や中国、ASEAN諸国などを含む「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」にも参加しなかった。

世界第6位の経済大国でありながら、世界貿易に占めるインドの輸出貢献率はわずか1.6%にすぎなかった。インドは、1990年代から欧米向けのITサービス輸出国として台頭してきた。そのため、ASEAN諸国と異なり、第二次産業(製造業)ではなく第三次産業(サービス業)が先に主要産業になった。デロイトによると、近年、外国資本の大部分は生産部門ではなくサービス部門に流れ込んでいる。

ただ、インドの製造業が成長していることは確かだ。ベイン・アンド・カンパニーの最近のレポートは、良好なトレンドに後押しされ、インドの製造業輸出は28年度までに1兆ドルに達すると予測している。インドの製造業輸出は40%成長し、21-22年度には前例のない4180億ドルに達した。これは、パンデミック前のピークであった18-19年度の3280億ドルをも上回るものであった。

参考文献

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