Apple、自社広告事業への露骨な我田引水

Appleはプライバシーの保護をうたって他社の広告ビジネスを圧迫するポリシーをとり、その一方でiOSにおける自社広告部門を強化しており、関係各社の不満を煽っている。

Apple、自社広告事業への露骨な我田引水
Photo by Paolo Giubilato 

Appleはプライバシーの保護をうたって他社の広告ビジネスを圧迫するポリシーをとり、その一方でiOSにおける自社広告部門を強化しており、関係各社の不満を煽っている。


7月下旬、AppleはApp Storeの検索結果における新しい広告スペースを導入する、と発表した。これまでAppleは、App Storeにおいて、検索タブと検索結果ページの2つの広告掲載機会をデベロッパーに提供してきた。新しい広告はApp Storeのトップページである「Today」タブに広告を掲載する予定だという(Today App Store広告)。

2021年5月、AppleがiOS 14を通じてプライバシー規則「App Tracking Transparency(ATT)」を展開した。これは、Appleは、他の広告プラットフォーム(特にFacebook)には、ターゲティングに利用する仕組みを事実上破壊するプライバシーポリシーの導入という重大なハンディキャップを与えた。

アプリインストール広告はアプリ広告市場の大半を占めている。インストールはかならず、App Storeからのダウンロードを経ないといけなため、Appleは最も効果的な広告の場を持っていることになる。長期に渡って広告に投資し、ターゲティングに磨きをかけてきた競合他社はATTによって競争力を減じられている。

ATTによってモバイル広告のエコシステムにもたらされた損失を考慮すると、Apple検索広告ネットワークにおけるAppleの商機は、非常に大きなものだ。一部のアナリストは、Appleがわずか数年後に年間広告収入を200億ドルにまで伸ばせると予想している。

Appleはプライバシーに関して、明確にダブル・スタンダード(二重基準)を設定している。Appleの広告ネットワークは、アプリのインストールとアプリ内課金のデータを利用する。Appleは、ATTの制限のもとで独占的にファーストパーティ・アクセス権を持ち、その広告ネットワークでユーザーをターゲティングしている。

Appleのプライバシーに関する大幅な変更により、オンライン上で新規顧客をターゲットにすることが難しくなったため、中小企業はマーケティング費用を削減しつつある。

オンライン広告に依存して新規顧客を獲得している多くの中小企業は、フィナンシャル・タイムズ(FT)に、物価上昇により世界の主要市場で消費者需要が圧迫されるここ数ヶ月まで、Appleの規制の完全な影響に当初は気づかなかったと語っているという。

eコマースグループを支援するデータ共有プラットフォームVarosが、1,300社の中小企業のデータを分析したところ、第2四半期には収益の減少が毎月加速し、6月には今年最悪の落ち込みとなる13%減に至った、とFTは報じている。同時に、オンライン広告による新規顧客獲得コストは昨年より「著しく高く」なっており、今年のFacebookdeでの広告費は全体的に「実質的に減少」しているという。

その結果、多くの中小ブランドは最近までマーケティング戦略を変更せず、オンライン広告プラットフォームが不利に働くことになった。先月、Snapは過去最低の四半期売上成長率を報告し、Shopifyは従業員の10%を解雇し、Metaは史上初の年間売上縮小を経験し、Twitterは損失を計上した。

FTが引用した広告技術企業のLotameのデータによると、Facebook、Snap、Twitter、YouTubeは、Appleの変更により、今年180億ドルの収益を失うと推定されている。Facebookの親会社であるMetaは特にひどい打撃を受けており、今年初めにはAppleの変更によって少なくとも100億ドルの損失が出たと述べた。

ただ、iOSのサードパーティ・トラッキングに依存しない広告ビジネスは堅調で、Appleの方針にも影響されないGoogle検索とAmazonの広告事業は、第2四半期に活況を呈していた。

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