iPhoneとApple Watchは次世代医療のハブになる
デバイスとソフトウェアの機能改善の裏側で、Appleと医療・研究機関はデータ駆動型の次世代医療を目指す努力を進めている。
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要点
Appleは開発者会議で個人化されたヘルスケア新機能を発表した。背後では医療機関との連携が進み、ユーザーがリアルタイムで蓄積する健康データを利用した次世代の医療の模索がされている。
Appleは6月7日、世界開発者会議(WWDC)でヘルスケアアプリのデータを家族などと共有できるようにすることを発表した。これは、iPhone向けの新しいヘルスケア機能の一つだ。
親族や医者のような許可を得た人は、iPhoneユーザーの心拍数や動きのデータを共有することができる。また、心拍数の上昇や動きの変化などに気付いたときに、許可されたユーザーに通知するアラートへのアクセスも共有できるようになる。
この機能は、年老いた両親のような大切な人の健康状態を離れた場所から見守っている介護者にとって便利なもの。しかし、高齢者は、介護者に比べてこの種のモニタリングに抵抗がある傾向がある。監視ツールは、介護者には安心感を与えるが、追跡される側には侵略的な印象を与える。
Appleは、ヘルスケアアプリに、「歩行の安定性(Walking Steadiness)」という別の健康指標を追加する。これは、iPhoneがすでに収集している移動データを利用して、バランスや歩行パターンなどの要素に変化がないかどうかを監視し、転倒のリスクが高まっているかどうかをユーザーに伝えるものだ。同社によると、このシステムは、あらゆる年齢層の10万人以上の参加者を対象とした臨床研究で得られたデータをもとに構築されたとのことだ。
Appleは昨年10月、iPhone/iPod touchで医療記録をつけるHealth Recordを導入した。これにより、ユーザーが自分の健康記録を視覚化し、安全に保存することがこれまで以上に容易になった。患者は、患者自身が作成したデータと一緒に、複数の医療機関からの健康記録を集約することができ、より全体的な健康状態を把握することができる。Appleは北米ですでに協力する医療機関を確保しており、実際の医療現場で採用されている。今回の共有機能はここから一歩進んで、医者や介護者がユーザーの健康状態をモニターできるようにするものだ。
また昨年導入された睡眠追跡機能にもアップデートが入り、Apple Watchを着用して入眠することで睡眠時間、心拍数、血中酸素濃度、呼吸数といったパラメーターを取得、従来の睡眠時間データとあわせてヘルスケアアプリに取り込まれるようになった。
スマートフォンの背後で進む次世代医療
このようなデバイスとソフトウェアの機能改善の裏側で、Appleと医療・研究機関はデータ駆動型の次世代医療を目指す努力を進めている。これらの試みは2019年に開始し、その規模を拡大している。
今年1月、Appleとマサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置く神経学的治療法の会社Biogenは、Apple WatchとiPhoneが認知機能の健康状態をどのようにモニターできるかを分析する研究プロジェクトで提携した。この複数年にわたる観察研究は、2021年後半に開始され、様々な認知機能を持つ若年層や高齢者を含む参加者が登録される予定だ。主な目的は、デジタルバイオマーカー(患者の治療計画を策定するために使用される生化学的データ)を開発し、認知機能の長期的なモニタリングやMCIの初期兆候の特定に役立てることだ。リサーチ会社Emergen Research社は、デジタルバイオマーカーの世界市場規模は、2019年には7億2,780万米ドルとなり、年平均成長率39.2%で2027年には103億8,000万米ドルに達すると予測している。
2月、AppleのAdeeti Ullal率いる研究者が、ボストンのマサチューセッツ総合病院およびマサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大学の科学者と協力して、Apple Watch内でパーキンソン病の症状を追跡するシステム「MM4PD」を設計したと、米国科学振興協会が発行するScience Translational Medicineに掲載されました。 このシステムは、投薬の変更や脳深部刺激治療による症状の変化を識別し、投薬を怠った患者を検出し、投薬方法を変更することで利益を得られる参加者を認識することができた。
同じく2月、AppleはトロントのUniversity Health Networkと新たな協力関係を結び、Apple Watchのモニタリングによって心不全の初期兆候を検出できるかどうかを検証する、と発表した。著循環器内科医であるHeather Ross博士らのチームは、Apple Watchを使って収集したデータを、患者が通常受ける身体検査から日常的に収集したデータと比較し、血中酸素濃度アプリやモビリティメトリクスなどのApple Watchの健康センサーや機能が、心不全の悪化を早期に警告できるかどうかを調べるという。
3月、Appleはミシガン大学公衆衛生学部と提携し、騒音レベルを測定して聴覚に危険を及ぼす可能性のある騒音をユーザーに警告するAppleのNoiseアプリケーションを使って、聴覚の健康と騒音への暴露をテストした。
同じく3月、ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のApple Women's Health Studyチームは、AppleのResearchアプリを通じて研究に参加した全米の様々な年齢や人種の1万人のコホートから寄せられた、女性とその月経症状に関する科学的予備データを公開した。この研究に参加する女性は、月経周期の記録やその他の健康データを提供し、関連する調査に回答した。
iPhoneから得られたデータを利用して診療を円滑化するとともに、Appleは遠隔診療や予防医療まで将来的には見据えていると考えられる。また、コロナ禍はデジタルデバイスを医療に適用することを促している。Appleは、Googleとともにコロナウイルス感染症のモバイル曝露通知技術を提供し、政府、地方自治体が感染警告アプリを構築するのを助けた。デジタルデバイスを通じて医療を受けることは確実に受け入れられつつある。
Photo by Luke Chesser on Unsplash
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