Apple Vision Proは複合現実の新たなマイルストーンとなるも課題は残る
Appleは複合現実(MR)ヘッドセットの発売予定を発表し、いい前評判を勝ち取った。新たなプレミアム製品の登場はメタバースが一般層に受け入れられる未来をうっすら予感させるものの、現実的な問題は残る。
Appleは複合現実(MR)ヘッドセットの発売予定を発表し、いい前評判を勝ち取った。新たなプレミアム製品の登場はメタバースが一般層に受け入れられる未来をうっすら予感させるものの、現実的な問題は残る。
Appleは、米国時間5日に始まった開発者会議「WWDC 2023」で、新しい富豪現実(MR)ヘッドセット「Vision Pro」を発表した。来年初頭の発売。販売予定価格は3,499ドル。
Vision Proの発表により、同社の技術力の高さが示され、VR市場におけるプレミアム製品として位置づけられることになりそうだ。
しかし、このデバイスの「キラーアプリ」や一般層を惹きつけるかどうかは模索されているさなかだ。仮想現実(VR)が「ハードコアなゲーム」のニッチ市場を超えうるものか、挑戦は始まったばかりだ。
デモ動画では、Vision Proは、さまざまなウインドウを並列的に表示可能な広い拡張現実(AR)空間を提供し、ウルトラワイドモニターよりも広いワークスペースを提供してくれそうに見える。
屋外で使うARグラスとしての用途はカバーしないが、屋内で利用する分には快適かもしれない。プロモーション動画も屋内でのユースケースのみを紹介していた。
ただ、シンプルな用途のためにVsionProを使う理由を見つけることは難しい。例えば、たった一通のメールの返信のためにVision Proでわざわざメールアプリを使うのは、どうにもバカバカしい。ビデオ会議の場合も頭に400グラムのものを被せて数十分話す負担感はどのようなものだろうか。
チップやバッテリーパックの発熱はユーザーのストレスにならないか。バッテリーパックの重さも気になる。重さや熱はユーザー体験に大きく影響しうる要素だ。
高価なVision Proは限定的な「プロ」のためのものである。プロがいろいろ試した末に興味深いユースケースを見つければ、この未発達のジャンルに明るい未来を予感させるだろう。
最近公開されたより手頃な価格のMeta Quest 3との間で競争が予想されるが、ゲーマーはMeta Quest 3を選びそうであり、そのときVision Proにはどのような別のキラーアプリがあるのか、それともゲームの戦場に降り立つのか、注視すべきだ。
デバイスの特徴
- M2プロセッサとMRデバイス用に設計された新しいR1チップの組み合わせと、新しいオペレーティングシステム 「visionOS」によって駆動。
- 両目に対して4Kディスプレイを搭載し、ピクセルの大きさはわずか23ミクロン。これで描画に要する計算コストを圧縮しているとみられる。
- Vision Proには、12台のカメラ、LiDAR (光による検知と測距)センサー、TrueDepthカメラ(カメラ、および、赤外線カメラ、環境光センサー、ドットプロジェクタ等のユニットを総称した呼び名)、IRフラッドイルミネーター(暗い環境でのハンドトラッキングのための照射装置)が搭載
- ヘッドセットの重量は1ポンド(約453グラム)未満で、電源ケーブルで銀色のバッテリーパックに接続されている。バッテリーパックは2時間の駆動を許容する。
- 外向きに曲面有機EL画面『EyeSight』を搭載している。着用者の目線や表情を外部に伝える、逆パススルーと呼ばれる仕組み。
米テクノロジー誌The Verge編集長のNilay Patelは、Vision Proを試し、印象的なディスプレイとビデオパススルー[*1]機能を備えた高品質のVRヘッドセットであると説明した。Patelは、Vision Proは素晴らしいハードウェアであるが、その目的や人々の生活、特に社会的・共同的な文脈にどのように適合するかについては疑問が残ると結論付けている。ヘッドセットを装着した体験は、やや孤立感を感じさせるようだ。
「脳とコンピュータの接続」
Vision Proは初めてのブレイン・マシン・インターフェース(BMI)ハードウェアだったという見方もある。
かつてAppleの技術開発グループに所属していたニューロテクノロジー・プロトタイピング・リサーチャーのスターリング・クリスピンは、「人生の10%」をVision Proの開発に費やした。クリスピンは、没入体験中のユーザーの精神状態を、身体と脳からのデータを使って検出することに重点を置いて研究を行った、とツイートしている。
クリスピンは、Vision Proは生体を傷つけないBMIだと主張している。彼の仕事の主要な部分として、ユーザーの行動(クリックなど)を事前に予測することが挙げられるが、これはユーザー画はするシグナルの中でも特に目の動きを追跡することで実現された。これは、クリックする前の瞳孔の反応をモニターし、目を通して脳とコンピュータのインターフェースを構築したと言える。
また、機械学習と身体・脳の信号を利用して、ユーザーの集中度やリラックス度、学習効率などを予測する研究も行っている。そして、その状態を高めるように仮想環境を調整し、適応的な没入感を生み出すことができる、ともクリスピンは呟いている。
注釈
[*1]ビデオパススルー:VRヘッドマウントディスプレイ上に、カメラで撮影した周囲の現実世界映像を投影する技術。 投影した映像の上に3Dコンテンツを重ねて表示することで3DCGの実在感を高めることができる。