AppleとGoogleの支配にメス:アプリストア迂回策の「パンドラの箱」は開く?

日本の規制当局は、欧州連合(EU)やインドとともにAppleとGoogleのアプリストアにおける支配を解こうとしている。これは、自由な商慣行の始まりか、それとゲートキーパーらが押し返すか。

AppleとGoogleの支配にメス:アプリストア迂回策の「パンドラの箱」は開く?
UnsplashLouis Hanselが撮影した写真

日本の規制当局は、欧州連合(EU)やインドとともにAppleとGoogleのアプリストアにおける支配を解こうとしている。これは、自由な商慣行の始まりか、それとゲートキーパーらが押し返すか。


政府のデジタル市場競争会議が先週まとめた「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告」は、アプリストアにおけるAppleとGoogleの独占的慣行にメスを入れることを意図した内容になっている。

第7回 デジタル市場競争会議 配布資料|デジタル市場競争本部
デジタル市場競争本部事務局

読売新聞はデジタル市場競争会議の目的は「スマホ関連市場で競争を活発化させ、料金引き下げやサービスの多様化を促す」こととし、「早ければ来年の通常国会への法案提出を目指す」と示唆した。

インパクトが大きそうなのは以下の3点。

  • アプリストアの迂回の許容。サイドローディング(純正アプリストア以外からのアプリのダウンロード)を認めるべき。
  • アプリストア税の回避の許容。決済システムの利用が義務付けられ、アプリ内購入(IAP)やサブスクリプションに絡んで、15〜30%の「税金」の負担が必要だったが、アプリ開発者に好きな決済システムを選択できるようにする。
  • プリインストールアプリがもたらす競争優位の排除。デフォルト設定のサービスが有利。変更を容易にする設定を求める方針(*1)。

これらが認められると、中国のように非純正のアプリストアが生まれ、1つのアプリに全てが載った「スーパーアプリ」と言われる、新興国型のビジネスモデルが勃興するかもしれない。

現状の課題は、AppleとGoogleが複数の役割を同時に担っていることだ。彼らはサードパーティのアプリ開発者に対してApple MusicやYouTubeアプリを提供する「競合」であり、ルール策定・執行を行う「審判」でもあり、収益の一部を徴収する「領主」でもある。

EU、中国、インド、韓国の先例

このような動きは、先進国の中ではEUがリードしている。2022年11月に施行されたEUのデジタル市場法(DMA)は「ゲートキーパー」(つまり、米大手テクノロジー企業)に対して、自社のサービスやプラットフォームを他の企業や開発者に開放することを要求する。ゲートキーパーは「その立場から私的なルールメーカーとして行動する力を付与され、デジタル経済のボトルネックとなる可能性がある」とDMAは記述する。

中国では、微信(WeChat)を提供するテンセントは長期にわたり、スーパーアプリ上のオンライン商取引の分け前を巡って、Appleと係争していた。中国の裁判所はテンセントにとって有利な判決を下し続けた。このような欧米型と乖離した、比較的自由なモバイル・エコシステムが築かれたことが、中国のデジタルプラットフォームの繁栄の一因になったかもしれない。現在、TikTokやShein、Temuのような中国企業の展開するアプリは、米国市場でシェアを拡大している。

インドは今年始め、裁判所がGoogleの訴えを棄却し、当局が整備したルールが確定。アプリストアの「権力」を骨抜きにする内容だ。韓国でも昨年、特定の決済サービスの利用を矯正すること禁じた法律が施行され、Appleは外部の決済サービスの利用を許容する、と方針を示したものの、法律を形骸化する方法を即座に構築していた。

Appleの対応

Appleも規制への対処を始めている。しばしばAppleからのリークを受け取るブルームバーグのMark Gurmanの報道によると、 AppleはiOS 17で初めて、iPhoneユーザーが公式App Store以外でホストされているアプリケーションをダウンロードできるようにする、と言われている。

DMAはAppleのプラットフォームに大きな影響を及ぼす可能性があり、その結果、AppleはApp Store、Messages、FaceTime、Siriなどに大きな変更を加える可能性が取り沙汰されている。他方、AppStore擁護派からは、サイドローディングによってセキュリティとプライバシーのリスクを引き起こす可能性が言及されている。

功労者のEpic Games

最も激しくAppleと闘ったアプリ開発者は、Epic Gamesである。Epic Gamesは、独占的観光があるとして、2020年8月に訴訟を起こした。同社は特に、App Storeが提供する以外のアプリ内課金方法を制限しているAppleの姿勢に異議を唱えた。Epic Gamesは同社の人気ゲーム「フォートナイト」のiOSアプリに独自の決済を載せ、即座にAppleとGoogleからアプリの配布を禁じられた。訴訟は現在、控訴審。

垂直統合と独占のコストはいかほどか

AppleとGoogleがモバイルエコシステムにおいて比類なき市場支配力を持っていることは、業界の常識だ。両者とも端末、OS、アプリストア、アプリに垂直統合的な影響力を保持し、サードパーティに対してルール策定の権力を振るっている。

政府が描くモバイル・エコシステムの各改装における支配力の構造。出典:デジタル市場競争会議、「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告」
政府が描くモバイル・エコシステムの各改装における支配力の構造。出典:デジタル市場競争会議、「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告」

これらの慣行に対して、独占禁止の抵触を問うのは自然だろう。ただし、両者とも相応のコストを負担し、競争を勝ち抜いた末に、巨大なソフトウェアを構築したことも事実である。また、垂直統合型のシステムは正しく運営されている分には、開発の一貫性やセキュリティの安全性のように消費者に利益がある側面もある。

ただ、現状は、両者の支配力は、新たな挑戦者の芽を摘み、イノベーションの意欲を失わせ、消費者の利益を毀損しかねないレベルに達していることも確かだ。市場の独占を見ると、両者はある種のレントシーキングの時間帯を迎えているようにも見える。

注釈

*1:プリインストールアプリについては、通信キャリアやスマートフォンメーカーも同様の慣行を行っている。こちら側は標的にはならないのだろうか。

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