AppLovin (APP) の企業分析

AppLovinは、自身で200以上のカジュアルゲームアプリを提供する事によって、部分的に垂直統合型のビジネスを形成し、広告の流通網を築くことによってたくましく成長してきた。

AppLovin (APP) の企業分析

AppLovinは私が前職時代の2017年2月、日本法人の代表取締役を取材したころから知っている会社だ。当時、同社はビッグテックがひしめくモバイル広告市場で台頭してきた独立系アドテク企業だった。それから3年後のいま、会社は上場しようとしている。超競争環境にあるデジタル広告の世界で、広告のROAS(広告費用対効果)を詳細に追えるという売りを活かし、市場に挟まりこむことに成功した。

同社の製品は、アプリインストール広告だ。AppLovinは、同社のS-1では「12のスタジオによって運営されている200以上の無料プレイのモバイルゲームの多様なポートフォリオ」と呼ばれるモバイルアプリの自社スイートを持っている。これらのアプリの世界的な1日のアクセス数は3,200万人に上ると、この文書は付け加えている。

KKRが2018年半ばに約20億ドルの企業価値で、AppLovinの株式を取得したが、AppLovinは2018年から2019年まで106%、2019年から2020年まで46%成長した。100%の成長を遂げている最中にKKRはかなり割安で投資することができた。同社が常にシリコンバレーのVCからの投資を集めるのに苦しんだのは、アプリ広告というビッグテック企業の主要市場において、AppLovinが巨人から圧迫されることを危惧したことが関係したのかもしれない。

だが、AppLovinは、自身で200以上のカジュアルゲームアプリを提供する事によって、部分的に垂直統合型のビジネスを形成し、広告の流通網を築くことによってたくましく成長してきた。

しかし、いま大きな課題に直面している事に触れないといけない。それはAppleがiOS14から広告識別子のIDFAによってトラッキングするのに、アプリごとにユーザーから許可を得ることを要求しようとしていることだ。今回の上場の目的は、IDFAショックを受ける前に株主が出口戦略を実行できるようにすることかも知れないのだ。

1. 沿革

AppLovinは2011年に設立されたが、当初はベンチャーキャピタルの資金を調達することができなかった、とCEOのAdam ForoughiはS-1に含まれる手紙に書いている。2012年にステルスで会社を立ち上げたとき、Foroughiは、彼のビジョンを信じていないトップレベルのVCから資金を調達するのが難しいことに気付いたという。

そのため、同社は「収益性の高い成長」を目指し、2013年以降、毎年営業活動からのキャッシュフローを黒字化することができたと、Foroughiは書いている。「資金調達ができなかった時に学んだことは、誰かに間違っていると言われても、自分のやっていることに信念を持つことだ」と彼は語った

同社は2014年までステルスモードで運営されていた。この間、同社はエンジェル投資家であるStreamlined VenturesとWebb Investment Networkから400万ドルの資金調達を行い、製品開発に注力した。ステルスモードから浮上する前に、AppLovinはOpentableやSpotifyなどの企業を含む顧客を獲得した。2014年10月には、AppLovinはドイツのモバイル広告ネットワークMovoqoを買収した。

CEOのAdam Foroughi via AppLovin.

2016年9月26日、AppLovinが中国のプライベートエクイティ企業であるOrient Hontai Capitalに14億2000万ドルで買収されることで合意したと報じられたが、その後、対米外国投資委員会(CFIUS)から計画に反対されたことから、この買収取引は断念された。

1.1 年表

2011年: 当社のコアテクノロジーとソフトウェアの第一世代を設計・構築。

2012年: 当社のマーケティングソフトウェアソリューションであるAppDiscoveryの初期バージョンをAndroidで発表。その年の後半には、iOSでもAppDiscoveryの提供を開始した。

2014年: ヨーロッパに最初のオフィスを開設し、国際的に事業を拡大した。

2017年: 広告の開発やテストを行うための分散開発やクリエイティブサービスを提供する開発者向けサービスやツールを追加導入した。

2018年: Lion Studiosを設立してAppLovin Appsを立ち上げ、その後、モバイルゲームスタジオのPeopleFunを買収し、現在までに10以上のモバイルゲームスタジオを買収または提携。

2018年: アプリの収益化を向上させるアプリ内入札プラットフォームのMAXを買収し、戦略的にソフトウェアを強化した。

2019年: SafeDKの買収と統合によりブランド安全機能をMAXに追加し、当社の分析ツール「Compass」の開発によりMAXを強化した。

2020年: カジュアルモバイルゲームのポートフォリオを拡充するとともに、Machine Zoneの買収によりミッドコアジャンルへの多角化を実施。

2020年: 機械学習型レコメンデーションエンジン「AXON」の販売を開始し、マーケティングソフトウェアソリューション「AppDiscovery」の効果を高めた。

2. 製品

アプリ広告の進化の背景にはトラッキングの進歩がある。グローバルでは最初、端末固有のUDID(Unique Device Identifier:デバイス固有識別子)を活用していたが、端末固有のものなのでプライバシーの問題があった。

日本の業者はネイティブアプリからブラウザを挟み、Cookieでトラッキングしていた。ブラウザを挟みこむためユーザー体験が悪い。このため米国はグレーながらUDIDを使い続けていた。一時的に広告事業者らがUDIDに代わるIDをつくったが、最終的にはAppleがApple広告識別子(IDFA)、GoogleもAndroid広告IDを出した。それまではゲーム系の広告をゲーム系媒体に出すという運用だったが、それからアドテクが使いやすくなった。

アプリ広告はインストールしてもらうことが目的となる。広告事業者がアプリベンダーにSDKを提供して、広告主のアプリに入れてもらっていたが、広告主側も5個も10個も入れられない。アプリも大きくなってきてバグが出たりするという弊害があった。

ここでSDKを束ねたトラッキング事業者が現れた。以前は低質の在庫を提供するアドネットワークと高質の在庫を提供するアドネットワークを比較する術がなかった。しかし、トラッキング事業者は進歩して、インストールの先のイベント、収益、継続率などを捕捉できるにようになった。

インストール以降のトラッキングは、広告主がトラッキングプラットフォームのダッシュボード上で、各アドネットワークのROIを見れるようになった。トラッキングの会社からAPIでアドネットワーク側にも送られるようになった。広告IDに紐付いているので、その人がどれだけお金を使っているかがわかる。

それまではより低い単価でインストールをたくさん取ることが目的だった。インストール数が増えると、アプリストアのランキングも上がり、それに伴い自然のユーザーを獲得できるという仕組みだった。ただ、それだと新興国にあるクリックファームに大量にダウンロードさせるということも起きてきた。それで質重視の広告手法が求められ、インストールだけでなく継続性や課金につながるかに最適化するプラットフォームが求められるようになった。

これがAppLovinの登場の背景だ。広告IDでのトラッキングを元にインストールとその後の課金を追いかけることができる。その結果、広告主はROASを常に管理下においたキャンペーンを展開できるのだ。

2.1 課題

しかし、AppLovinには脅威が迫っている。Appleは昨年、iOS 14でアプリ利用者がIDFAを利用した追跡についてのオプトインを尋ねられる仕様を採用することを決めた。大半のiOSアプリ開発者がこの仕様変更に対応できなかったため、延期されたものの、2021年1月末、Appleは、延期していたアプリのIDFA(広告ID)の使用に関するポリシー変更を、ターゲット広告のためにユーザーを追跡するために最終的にロールアウトする計画を発表した。

1月末、Appleは、延期していたアプリのIDFAの使用に関するポリシー変更を、ターゲット広告のためにユーザーを追跡するために最終的にロールアウトする計画を発表した。

「Pal About(仮のアプリ名)が、他の会社のアプリやウェブサイトをまたいで、あなたの活動を追跡するのを許容しますか?」という問いに「アプリにトラッキングしないようお願いする」「許容する」から回答を選ぶ。通常、ユーザーはトラッキングを回避すると想定されている。Image via Apple Developer / App Store.

ユーザーは基本的にトラッキングからオプトアウトすると見られている。iPhoneの最新機種を利用するユーザーはモバイルで最もお金を落とすユーザーだが、その人達のインストール以降のトラッキングがかなり難しくなったことを意味する。これは、AppLovinの売りである「ROASが管理された広告」を不可能にするだろう。このため、広告主がプラットフォームに落とすお金が減少する可能性がある。

3. ビジネス

AppLovinはモバイルアプリ開発者向けのツールを作っており、200の無料モバイルゲームのポートフォリオを持っている。同社は2020年に約14億5000万ドルの収益を報告しており、2019年の9億9410万ドルから増加している。同社は2019年に利益を上げていたが、2020年の損失は約1億2500万ドルに上った。

2019年については、当社の収益は2018年の4億8,340万ドルから2019年の9億9,410万ドルへと、2018年から106%の前年比成長を遂げた。2018年は2億6000万ドルの純損失、2019年は1億1900万ドルの純利益、2020年は1億2590万ドルの純損失を計上した。2018年、2019年、2020年の調整後EBITDAはそれぞれ2億5560万ドル、3億140万ドル、4億750万ドルだった。

AppLovinの売上原価は2018年から2020年まで収益に占める割合として着実に上昇している。実際、数字は2018年の11%から2019年には24%、2020年には38%になった。

これはそれほど悪いことではない。2020年の売上原価の数字の中には、約100万ドルの株式ベースの報酬と、2億2830万ドルの「買収された無形資産に関連した償却費 」(のれん)がある。我々は、売上原価からそれらを引き出した場合、2020年のAppLovinの売上総利益率は62%から77.5%に成長する。それはかなり良い数字だ。

Applovinは、VCマネーが創業初期に得られなかったことに起因して構築された、強力なキャッシュフローにより、事業の拡大と成長に再投資することができていること示唆している。

創業時からの収益の推移。via AppLovin
2018〜2020年の損益計算書 via AppLovin
現金は2020年末に3億1,700万ドルあり、さらにIPOを通じて1億ドルを追加するため、余裕がある。

2020年には、過去12ヶ月間に12万5,000ドル以上の収益を上げた顧客と定義される172社のエンタープライズクライアントと、月間アクティブプレイヤー(同社のアプリを使用しているユニークな消費者向けモバイルデバイス)は150万人を数え、一人あたりの月間平均収益は41ドルとなっている。125カ国以上の開発者がAppLovinのプラットフォームを使用しており、同社によると、4億1,000万人以上の毎日のアクティブユーザーにリーチしている。

3.1 ビジネスモデル

Applovinは、ビジネス顧客と消費者の2つのソースから収益を収集している。2020年には、ビジネス収益(対広告主)が総収益の49%を占め、消費者収益(対アプリユーザー)が総収益の51%を占めている。

3.2 ビジネス収益

ビジネス収益は、Applovinのソフトウェアを使用してアプリを成長させ、収益化するためにモバイルアプリの広告主、またはビジネスクライアントから支払われる料金から得られる。Applovinが運営するアプリのデジタル広告在庫を購入したビジネスクライアントからも事業収益を収集している。

ビジネスクライアントには、インディーズの開発スタジオから、FacebookやGoogleなどの世界最大級のインターネットプラットフォームまで、さまざまな広告主が含まれている。2020年12月31日時点で1,400社近くのビジネスクライアントを抱えている。

3.3 消費者収益

消費者収益は、当社のアプリのユーザーがアプリ内購入(IAP)を行った場合に発生する。AppLovinのアプリは一般的に無料でプレイできるモバイルゲームであり、IAPを通じて消費者収益を生み出す。同社のIAP収益の大部分は、Apple App StoreとGoogle Playの2つのアプリストアを介して流れており、これらのアプリストアはIAPに対して標準的な手数料を徴収している。

2020年12月31日に終了した3ヶ月間に、当社はアプリのポートフォリオ全体で平均210万人の月間アクティブペイヤー(MAP)を獲得した。同期間の月間アクティブペイヤーあたりの平均収益(ARPMAP)は41ドルだった。

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