権威主義と監視技術が融合したときビッグブラザーが生まれはしないか?
権威主義的な権力が「ビッグブラザー」として市民を従わせるために監視を使うのなら「個人の自由 vs 権力」という懐かしい近代の出来事になる。あるいはもっと悪いことになる。

※本稿は顔認証、監視技術をめぐるエッセイです。
香港の抗議者が「顔認証避け」のレーザー
香港の抗議者がレーザーを使用して治安部隊が使用する顔認識カメラを攪乱しているのが話題になっている。先週はプラネタリウムにレーザーを当てる「レーザーポインターデモ」が行われたそうだ。
Someone raise a piece of newspaper and let everyone use their laser pointer point to it. After 20 sec, the paper didn't burn. (Which indicated the police said in the afternoon is complete BS)#HongKong Tsim Sha Tsui pic.twitter.com/jS6EkDCXHG
— Wingki Lau (@wingkiwingki) August 7, 2019
ニューヨークタイムズのPaul Mozurの記事によると、当局は抗議リーダーをオンラインで追跡し、スマホの持ち主を探している。現在、多くの抗議者が顔を覆っており、警察が逮捕の標的を特定するためにカメラやその他の監視ツールを使用しているのではないかと彼らは恐れているのだ。実際、香港では法執行機関による顔認識技術の採用とカメラやその他の追跡ツールのネットワークがほんど本土中国並みに急速に拡大している。
ソーシャルやチャットでは抗議者、警察官双方の顔写真が流通している。抗議者の間でチャットアプリ「Telegram」の利用が広まっているが、そこで抗議者のグループチャットを設定した男性が逮捕されており、監視から自由なわけではないようだ。顔のデータを基に即時的にアイデンティティを特定しその人物を監視、時には捕捉する……というディストピアもののSF小説のような出来事が起きている。本土中国ではすでに採用されているシステムだが、それが香港に導入され、欧米社会の「普遍的な価値観」である「自由」「人権」を圧迫しにかかっているように見える。
顔認証の危険性
顔認証には法執行機関がそれを濫用する恐れがあるだろう。権威主義的な政府は、それを市民統制のために利用することを躊躇しないはずだ。
特に新疆ウイグルで実行されている大規模監視システムは極めて危険である。ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書によると、新疆当局は「統合ジョイント・オペレーション・プラットフォーム」(一体化联合作战平台、IJOP)と呼ばれるシステムで一般人から実に様々な情報を収集しており、その範囲は血液型から身長、「宗教的雰囲気」から政治的所属にわたる。IJOPは電話や自動車、IDカードを追跡して人びとの動きをモニタリングするのだ。電気やガソリンスタンドの使用履歴も取得される。人びとの移動の自由は、システムにプログラムされた要因によって決定された、その人物がもたらすと当局が認識する脅威レベルに応じて、さまざまな程度に制限される。
これらの追跡には顔スキャナーと生体認証チェックポイント、無数の監視カメラ等が用いられているとThe Gardianは報じている。
顔認証にはアップサイドは存在する。パスワードレスな認証として顔は眼球の虹彩と並んでかなり有望と考えられる。「Amazon Go」のような無人コンビニでは顔認証は重要な技術になるだろう。無数のカメラ等のセンサーを利用して買い物客の動きを追い、客が手に取った商品を自動的に会計に加算するシステムにおいて、顔認証は相当役立つのではないだろうか。
オーウェリアン主義というディストピアシナリオ
このブログで指摘したが、権力が正しく監視を応用できるのなら、「個人の自由 vs 最大多数の最大幸福」という問題になるはずである。
だけど、権威主義的な権力が「ビッグブラザー」として市民を従わせるために監視を使うのなら「個人の自由 vs 権力」という懐かしい近代の出来事になる。あるいはもっと悪いことになる。そして、香港や新疆で起きているのはオーウェリアン主義(Orwellianism)の発露ではないだろうか。このまま技術の社会活用が人を支配する方向に進んでいくとかなりまずい。
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