バイオンテックと英AI企業が危険なコロナ変異株を早期発見する「警報システム」を開発

コロナウイルス感染症のワクチンを支えるメッセンジャーRNA技術を開発したドイツのバイオテックは、ロンドンのAI企業InstaDeepと共同で、潜在的に危険なコロナウイルスの新種を発見するための効果的な「早期警告システム」を開発した。

バイオンテックと英AI企業が危険なコロナ変異株を早期発見する「警報システム」を開発
Photo by BioNTech.

コロナウイルス感染症のワクチンを支えるメッセンジャーRNA技術を開発したドイツのバイオテックは、ロンドンのAI企業InstaDeepと共同で、潜在的に危険なコロナウイルスの新種を発見するための効果的な「早期警告システム」を開発した。AIを採用したプログラムは、伝達性の高いオミクロン株を含む懸念される亜種の90%以上を、世界保健機関(WHO)による指定の平均2カ月前に特定した。

両社の研究によると、新しい早期警告システムは、コロナウイルスの最もリスクの高い亜種を、その遺伝子コードから単純に予測することができ、健康当局やワクチン開発者に、流行する数ヶ月前に潜在的なリスクを警告することができる。

両社によると、今回の研究結果は、このプログラムが数分以内に新しい亜種のリスクを新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルス表面のトゲトゲした突起の部分)を分析し、進化に合わせて「ほぼリアルタイム」で監視できることを示しているという。

バイオンテックとInstaDeepが11日に査読なしの学術リポジトリbioRxiv.orgに発表した論文によると、オミクロンの亜種については、その遺伝子配列が初めて公開された日に潜在的に危険であると認識された。

このシステムは、昨年末にオミクロンのゲノム配列が世界的なデータベースであるGisaidに初めてアップロードされた日に、10月初旬から11月下旬にかけて発見された7万個以上の変異株のうち、最も懸念される変異株としてフラグを立てたという。これは、WHOによって懸念される変異株に分類される3日前のことだった。

また、昨年の冬にイギリス南部で急速に広がったアルファ変異株については、WHOによる正式な指定の65日前にフラグを立てることができた。

この1年で、DNAの塩基配列からタンパク質の構造を予測する技術が大きく進歩した。Googleの親会社であるAlphabetが所有するロンドンのAI企業DeepMindは、AlphaFoldというシステムを研究者に自由に提供している。また、AlphaFoldのライバルとしてワシントン大学の研究者が作成した「RoseTTAFold」というシステムも公開されている。

ノースカロライナ大学シャーロット校の研究者であるコルビー・フォードは、これら2つのシステムを用いて、オミクロン変異体は懸念される重要な変異体であるが、ワクチンによる抗体を完全には逃れられないだろうと予測した。そのような結果が従来の実験室での実験で確認される数週間前に予測したのだ。

バイオンテックとInstaDeepの研究では、これらの新しいAIベースのタンパク質構造予測ツールは使用せず、従来の分子シミュレーション手法を使用した。

1つは、新型コロナウイルスが感染する際のヒトの受容体であるACE2タンパク質にスパイクタンパク質がどれだけ容易に引っかかるかを評価するもの。もう1つのスコアは、バイオンテックのワクチンを接種した人にできるような抗体が、スパイクタンパク質と結合して、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐことができるかどうかを評価するものだ。どちらのスコアも実験で検証された。

「この数ヶ月間に開発してきた高度な計算手法により、スパイクタンパク質の配列情報を解析し、予測される免疫逃避とACE2結合スコアに応じて、新しい変異体をランク付けすることができます」とバイオンテックの最高経営責任者であるUgur Sahinは述べている。

このシステムの第2の部分は、DNAの配列を、あたかも一種の言語のように扱う。そして、自然言語処理のために開発されたAI技術を用いて、特定の変異体のスパイクタンパク質のDNA配列が、他の既知のコロナウイルスのスパイクタンパク質とどの程度類似しているかを調べる。そして、そこからさらに2つのスコアを導き出した。

研究チームはこれらの4つの指標(構造モデルからの2つの指標と言語モデルからの2つの指標)を組み合わせて、2つのスコアを算出した。1つは「免疫逃避スコア」と呼ばれるもので、構造解析で得られた抗体結合スコアと言語モデルで得られたスパイクタンパク質の差異スコアを用いて、そのバリアントが自然免疫反応やワクチンによる免疫反応を逃れる可能性を評価する。

もう1つは、「fitness prior score」と呼ばれるもので、構造解析から得られた結合データと言語モデルから得られたバリアントの存在の可能性を示す指標を用いて、そのバリアントが他の既知のバリアントに勝てる可能性を示している。また、fitness prior scoreには、過去8週間に配列決定されたすべてのバリアントの中で、そのバリアントがどのくらいの割合で存在しているかに基づいて、そのバリアントがどのくらいの速さで広がっているかを示す指標が含まれている。

免疫逃避スコアとfitness prior scoreの両方に基づいて、統計的手法を用いてその変異株の総合的なランクを決定する。その時点で拡散している他のほとんどの既知のバリアントと比較して高いランクのものは、懸念すべきバリアントとみなされる。

Sahinはこのツールはオープン化され自由に利用できるようになるだろうと述べている。「リスクの高い亜種の可能性を早期に発見することは、研究者、ワクチン開発者、保健当局、政策立案者に警告を与える効果的なツールとなり、懸念される新しい亜種に対応する時間を増やすことができる」と声明の中で語っている。

リスクの高い変異体を事前に知ることは、科学者がワクチンを適応させるのにも役立つ。バイオンテックは、1月末までにmRNAベースのオミクロンワクチンの臨床試験を開始すると発表した。今週、サンフランシスコで開催されたJPMorgan healthcare conferenceで、Sahinは次のように述べている。「我々はすでにオミクロン・ワクチンの商業規模での製造を開始している。規制当局の承認を得た上で、2022年3月までに市場への供給が可能になると見込んでいる」。

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