ビットコインは少数の特権階級に微笑む不公平なゲーム
ビットコインは少数のステークホルダーの手のひらの上にある。MITらの研究は、この過度の集中が、ビットコインが生み出す利益の大半が、少数の参加者によって享受される可能性が高いことを示唆している。
要点
ビットコインは少数のステークホルダーの手のひらの上にある。MITらの研究は、この過度の集中が、ビットコインが生み出す利益の大半が、少数の参加者によって享受される可能性が高いことを示唆している。
マサチューセッツ工科大(MIT)ビジネススクール(スローン)教授であるアントワネット・ショアーはロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス教授のイゴール・マカロフと共同で、ビットコインのエコシステムに光を当てた。
ショアーとマカロフは、ビットコインアドレスを実在の人物に結びつけるために、公的および独自の情報源を利用して、2015年から2021年までのビットコイン市場の変遷を記録したデータベースを構築した。彼らは、オープンソースソフトウェアのBitcoin Coreを使ってブロックチェーンデータをダウンロードし、BlockSci分析ツールを使って個々のトランザクションの生データを解析した。
ビットコインのブロックチェーンのセミパブリックな性質を利用して、ビットコインの市場参加者の行動に関する情報を抽出するアルゴリズムを開発した。
これにより、以下のことが可能になったという。
- ビットコインのブロックチェーン上での取引量と主要参加者のネットワーク構造の分析
- ビットコイン取引の正当性を検証するマイナーの集中度と地域構成を記録
- ビットコインの最大の保有者の所有権の集中度を分析する。
調査自体はビットコインに特化したものだが、著者が発見した内容の一部は他の暗号通貨にも当てはまる。以下は、彼らが知り得たことだ。
1. 違法な取引は、ビットコインの活動全体の中ではごく一部
ビットコインのブロックチェーンはパブリックな台帳であるため、アドレス間を流れるすべての支払いは観測可能である。しかし、ビットコインの利用者の中には、複数のアドレスで構成される長いチェーン上で資金を移動させたり、支払いを分割したりすることで、追跡を妨げる戦略をとる者もいる。著者らは、ビットコインネットワーク上の実在するエンティティ間の経済的に意味のある支払いを追跡できるように、これらをフィルタリングするアルゴリズムを開発した。
その結果、平均的な1週間のビットコインの取引量の約80%は、KrakenやCoinbaseなどの取引所や、オンラインウォレット、店頭取引所、大規模な機関投資家などの取引所類似のエンティティに起因していることがわかった。
ビットコインの価格が違法な取引によって支えられていることを心配する声は多いが、ショアーらは、違法行為はビットコインのブロックチェーンで実際に行われていることのほんの一部(彼らの推定では3%)にすぎないという。
2. ビットコインの所有は「特権階級」に集中している
ショアーらは、ビットコインの所有が一部のエリートに偏っていることを発見した。彼らの調査によると、2020年末の時点で、200万ビットコインをコントロールする「クラスター」が1,000個存在していた。
著者らは、1回の取引でビットコインを送ったすべてのアドレスが、同じ組織に属しているとみなされるようにアドレスをクラスター化した。ショアーらによると、このような行為は、資金の出所を不明瞭にすることだけを目的として行われることが多いそうだ。また、上位10,000のクラスターは、発行済みビットコインの約4分の1にあたる400万ビットコイン以上を所有していた。これは、市場の安定性にとって重要な意味を持つ。
3. ブロックチェーンの相互接続性は違法行為の取り締まりを困難にする
ショナーらは、ロシアの違法なダークネットマーケット「Hydra」でのビットコイン取引を追跡したところ、資金がHydraからCoinbaseやGeminiのような暗号通貨取引書に送られていることがわかった。そこでは、資金がそこで発生したものではないにもかかわらず、合法なものとみなされる可能性がある。
ショアーによると、これらの取引所に資金が到着すると、他の流れに混ざって事実上追跡不可能になり、どこにでも送れるようになるという。例えば、2020年1月から2021年6月の間に、CoinbaseはHydra市場に直接196ビットコインを送金し、Hydra市場から126ビットコインを受け取った。同時に近隣のクラスターを経由して53万ビットコインを送金し、21万8千ビットコインを受け取ってもいる。
ビットコインは匿名性が高いため、通常は金融機関による顧客の身元確認を義務付けるKYC("Know Your Customer")ルールで抑制しようとするところがあっても、犯罪者を追跡するのは困難だ。
4. マイナーは寡占
今年初めに中国が取り締まりを開始するまで、マイナー(ビットコインの取引を処理・検証し、ブロックチェーンの台帳に追加する個人)は非常に集中しており、約60%~70%が中国に存在していた。
ショアーらはマイナーの上位10%がビットコイン採掘能力の90%を支配し、わずか0.1%に相当する約50のマイナーで採掘能力の50%をコントロールしているとの結論に達した。
マイナー(採掘者)は、その作業の対価として、新たに作成されたビットコインを受け取る。ショアーらは、最大規模の16のマイニングプールから、そこに所属するマイナーへの採掘報酬の分配を追跡することで、個々のマイナーを特定することができた。
マイナーが特定の国に集中していると、ボラティリティーが生じやすくなる。ある国がマイニングを許可しないと決定すると、ビットコインのエコシステムに大きな混乱が生じる可能性があるからだ。
また、ビットコインの価格が下がると、マイナーの集中度が実際に上がることも分かっている。価格が下がるとマイナーの利益が圧迫され、大量のマシンに投じた設備投資が不合理なものとなるゲームから完全に脱落するマイナーが相次ぐためだ。
6. 独占的なプレイヤー
ショアーらは「ビットコインのエコシステムは、大規模な採掘者、ビットコイン保有者、取引所などの大規模かつ集中的なプレーヤーによって支配されていることを示唆している。この本質的な集中により、ビットコインはシステミックリスクの影響を受けやすく、また、さらなる普及から得られる利益の大半が、少数の参加者に不均衡に与えられる可能性が高いことを示唆している」と指摘している。
参考文献
- Makarov, Igor and Schoar, Antoinette, Blockchain Analysis of the Bitcoin Market (October 13, 2021). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3942181