企業価値1.8兆円の印教育ベンチャーByju’sの快進撃

パンデミックによるリモート教育需要増の波に乗る

企業価値1.8兆円の印教育ベンチャーByju’sの快進撃

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要点

インドの教育テクノロジー新興企業のByju’sはパンデミックで急成長を遂げ、企業価値165億ドルに到達した。分厚いこどもの人口と中間層の教育熱はとどまるところを知らず、教育テック市場は成長の余地を大きく残している。


インドの教育テクノロジー新興企業のByju’sは6月初旬、アブダビの政府系ファンドADQ、UBS Group、Zoom創業者のEric Yuan、ブラックストーンなどから新たに3億5000万ドル(約383億円)を調達し、ポストマネー企業価値が165億ドル(約1兆8,000億円)に到達した。Byju’sは、さらに今月中旬に新たに2社の投資家(India Infoline Finance LimitedとMaitri Edtech)から5,000万ドルを調達した。これにより、Byju’sは、2021年単年で15億ドル以上を調達したことになった。

Byju'sは積極的に買収を実行する段階に到達した。Tracxnによると、Byju'sは1億4,300万ドル相当(2021年2月時点)の11社を買収している。

Byju'sは2020年8月にはEdtechスタートアップのWhiteHat Jr.を3億ドルで買収したと発表した。WhiteHat Jr.は学生にコーディングスキルを教えるプログラムを提供しており、生徒1人に1人の教師を割り当てている。これらの授業はライブで行われ、1回の授業料は約10ドルだ。WhiteHat Jrは買収発表直前に年間売上高ランレート1億5,000万ドルを達成したと発表していた。

Byju'sはこれまで、学生がいつでもコンテンツにアクセスできるようにする、アプリを使った非同期型のアプローチに焦点を当ててきた。White Hat Jr.の買収は、同社が同期型のフォーマットに移行し、1対1のライブチューターモデルを構築するためのものだった。

Byju'sは2021年4月、33年の歴史を持つ家庭教師チェーンであるAakash Educational Servicesを10億ドルで買収したと発表した。ブラックストーンの支援を受けているAakashは、一流の工科大学や医科大学への入学を目指す学生を対象に、国内で200以上の家庭教師センターを所有・運営している。同社は25万人以上の高校生にサービスを提供している。パンデミックの最中の2020年6月、オフライン授業の一部をAakashデジタルアプリに移行し、生徒数は150〜200%増加し、収益面でも2倍になったという。

また、この分野でByju'sによる買収の可能性が高いのは、ライバルのTopprだと言われている。 2014年に立ち上げられたTopprは、ビデオ講義、復習のヒント、人工知能(AI)を活用した疑問への即時回答などの形で、無料のリソースを提供している。Byju'sは、1億5,000万~1億6,000万ドルでToppr社を買収する方向で交渉を進めていると報じられた。

パンデミックの影響で、インドでは数ヶ月に及ぶ全国的な都市封鎖と学校閉鎖が実施されたが、これにより、オンライン学習スタートアップ企業の成長が加速した。「残念ながら、ほとんどの関係者がデジタル学習を試すにはパンデミックが必要だったが、保護者は以前よりもオンラインセグメントを受け入れている。この分野は明らかに転換期にある」とRaveendranはTech Chrunchのイベントで語っている。Byju'sはパンデミックの間、すべてのサービスを無料で提供した。Byju'sがアプリを発表してから2年半の間に、約4,500万件のダウンロードがあり、COVID-19のパンデミックが始まってからは、さらに4,000万件のダウンロードがあった。

現在では8,000万人以上のユーザーが利用しており、そのうち550万人が有料会員となっている。収益性の高いByju'sは、昨年、1億ドル以上の収益を上げたと、インドのベンチャーキャピタルBlume Venturesが先月開催したセッションで、(インドのスタートアップを支援している)GSV VenturesのマネージングパートナーであるDeborah Quazzoが語ったという。また、Byju'sの幹部は、最近のUBSのイベントで、Byjuの現在の年間売上高ランレートは8億ドルで、今後12〜15ヶ月で10億ドルに達すると予想していると語った。

それでも、同社は上場を急ぐ様子はない。2020年9月の時点で、RaveendranはByju'sは少なくとも2年間は株式公開を考えていないと語っている。

Byju'sは、英国の海運会社でエンジニアとして働いていたByju Raveendranによって作成されたプラットフォーム。2011年にRaveendranは、妻と一緒に教育関連の会社を設立し、学生の協力を得て、幼稚園児から高校生までを対象としたオンラインビデオ学習プログラムを提供し始めた。

Byju'sの仕組みは無料期間と有料購読の組み合わせだ。最初に、学生はすべての個人情報を提供する必要がある。その後、サービスを試すために、15日間の無料トライアル期間がユーザーに与えられる。試用期間終了後、1,000ルピー(1,500円)支払いが完了していれば、学生はより高度なレベルの学習へのアクセスを得ることができる。購読の継続率は89%に上る。

最新の資金調達により。Byju’sの共同創業者たちの持分は23.4%に希釈されたが、創業メンバーの持ち分の希釈化が激しい傾向のあるインドでは珍しい種類のものだ。インドByju Raveendran以外にも、彼の配偶者であるDivya Gokulnathと弟のRiju Raveendranも会社の株式を所有している。

Byju'sを追いかける二番手には、2020年だけで、さまざまな分野のスタートアップであるKreatryx、CodeChef、PrepLadder、Mastree、Coursavy、NeoStencilの6社を買収したUnacademyがある。最新の買収は、2021年3月に非公開の金額で買収したHanda ka Fundaだ。Unacademyの企業価値は、2020年2月から11月の間に5億1,000万ドルから20億ドルへと4倍になった。その資金調達総額は4億ドル以上で、Tiger Global Management、Dragoneer Investment Group、Sequoia Capitalなどの投資家が名を連ねている。

Photo: "File:Byju Raveendran CEO Byju's.jpg"by cherian_in is licensed under CC BY 2.0

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