ChatGPTが狙うAIビジネスの先行者利益

ChatGPTを運営するAI研究所OpenAIは、AIビジネスにおいて先行者利益を築こうと躍起になっている。主要な戦略は、ユースケースの拡大とコストの低減だ。必ずしも先駆者は勝利しないが、AIではどうなるか?

ChatGPTが狙うAIビジネスの先行者利益
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ChatGPTを運営するAI研究所OpenAIは、AIビジネスにおいて先行者利益を築こうと躍起になっている。主要な戦略は、ユースケースの拡大とコストの低減だ。必ずしも先駆者は勝利しないが、AIではどうなるか?


OpenAIは1日、ChatGPTと音声文字起こしAIのWhisperがAPIで利用可能になったと発表した。縦型SNSのSnapchatを提供するSnap、買い物代行のInstacart 、EC基盤ソフトウェアのShopifyが初期の採用企業に名を連ねた。

驚くべきことは、同社が「システム全体の最適化」により、12月以降ChatGPTは90%のコスト削減を達成したと述べたことだ(同社は現在その削減分をAPIユーザーに還元していると述べている)。価格は1,000トークンあたり0.002ドルで、既存のGPT-3.5モデルよりも10倍安い。12月時点では、Chat GPTは会話1応答につき数セントの計算コストを要すると、CEOのサム・アルトマンはツイートしていた。

ChatGPT APIは「GPT-3.5-Turbo」と名付けられた大規模言語モデル(LLM)に基づいている。「GPT-3.5-Turbo」は、OpenAIがChatGPT用にひそかにテストしていた、より最適化され応答性の高いバージョンのGPT-3.5のことを指している、とOpenAIの共同創業者であるGreg Brockmanは語った

これは、OpenAIが「安いAI」の競争で先鞭をつけたことを意味する。ChatGTPのようなチャットボットの応答は、そのライバルとみなされる検索よりもコストがかかる。LLMを消費者に対して展開するコストを引き下げることが、新しい競争の焦点となっているのだ。

チャットボットの高コスト問題を解決したプレイヤーが「AIの民主化」の権利を得る
ChatGTPのようなチャットボットの応答は、検索よりもコストがかかる。この大規模言語モデル(LLM)を消費者に対して展開するコストを引き下げることが次の競争の焦点のようだ。コストが下がればAIは民主化するだろうか。

12月の衝撃的なChatGPTの公開以降、OpenAIはAIのユースケースの拡大を図っている。他社に先行してユーザー、企業を囲い込む戦略のようだ。Open AIはAPIを開放し、企業に利用させることで、効果を最大化されようとしている。その潤滑油としてコンサルティング・ファームは機能しうると踏んでいるようだ。

コカ・コーラは2月下旬、OpenAIおよび戦略コンサルのベイン・アンド・カンパニーと共同でChatGPTおよびDALL-Eプラットフォームを使用してパーソナライズされた広告コピー、画像、メッセージを作成すると、発表した。コカ・コーラのCEOであるジェームズ・クインシーは、急速に台頭する技術でマーケティングを強化する機会があると考えており、事業運営や能力を向上させる方法も探っていると述べている。

ベインは2月下旬、OpenAIとのサービス提携を発表した。ベインのクライアントがOpen AIのAI製品を採用するのを支援する枠組みのようだ。500人以上のデータサイエンティスト、機械学習エンジニア、オペレーションリサーチの専門家が、クライアントと協力して、最も価値のあるAI使用事例を特定し、概念実証を行い、オペレーションモデルやプロセスにわたって機能を実装するという。

AIはエンタープライズITやコンサルティングのビジネスを変容させる可能性が大いにある。中には、ChatGPTがマッキンゼー、BCG、ベインを駆逐するという過激な議論もあるほどだ。

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)