中国テック企業、香港上場へ雪崩打つ

滴滴の一件以降、米上場に事実上の規制

中国テック企業、香港上場へ雪崩打つ
香港証券取引所(HKEX)."RISE 2018 - Venture"by RISEConf is licensed under CC BY 2.0

要点

投資銀行は中国企業を香港に誘導しようと競っている。北京が制定した新しいサイバー・セキュリティ規則により、これまで北米に向かっていた利益の大きいテクノロジー企業の上場が中止されたためだ。


中国政府が、中国企業の米IPOへの態度を硬化させたのは、中国最大の配車企業であるDidi Chuxing(滴滴出行)が、サイバー・セキュリティ当局の静止を無視し、44億ドルを調達すべくニューヨークに上場したためだ。その数日後に、北京の規制当局が滴滴に対する調査を開始し、この調査のニュースを受けて、滴滴の株価はIPO価格から20%下落した。

中国のサイバースペース管理局(CAC)は、公安部、国家安全部、天然資源部、交通部、国家税務総局、国家市場規制総局と共同で、滴滴のネットワーク・セキュリティの監査を7月16日に開始した。CACは、滴滴のオフィスに調査員を常駐させるという異例の措置を取っている。

中国の規制当局が介入したことで、米国でのさらなる上場が疑問視され、方向転換が求められている。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーをはじめとする銀行にとって、中国企業のIPOを支援することは利益の大きいビジネスだ。

フィナンシャルタイムズによると、上半期の米IPOでは、中国企業34社が124億ドルを調達し、いずれも過去最高となり、米中の緊張が高まる中、米銀の手数料収入を支えている。ニューヨークでは、すでに2兆ドル相当以上の株式が取引されている。

中国のテクノロジー企業が株式を公開する場合、香港では証券規制機関と証券取引所の両方で審査が行われるのに対し、ニューヨークでは市場の厚みと流動性が高く、上場が容易であることから、長い間ニューヨークが好まれてきた。また、銀行の手数料も、香港の約2%に対し、米国では5〜7%と高くなっており、投資銀行にとっては好ましかった。

香港に殺到

香港証券取引所(HKEX)は、北米からの転換を取り込むことができるという見通しから、今月の主要取引所の中で世界トップの業績を上げた。ブルームバーグがまとめたデータによると、香港証券取引所は7月に10%近く上昇し、市場価値が100億ドル以上の同業他社11社を上回った。

香港に資金調達の場を求めているのは、中国のIPO希望者だけではない。香港の資金調達の柔軟性とオフショア資本の利用可能性は、多くの上海A株企業に香港での重複上場を促している。

香港では、A株市場の要件に比べて、トップアッププレースメント(先行的な私募形式による新株発行)や転換社債型新株予約権付社債(Convertible Bond)を発行するのに非常に柔軟性がある。

香港では、最低利益率などの厳しい上場規則があるため、多くの企業が香港での株式売却に苦労してきた。5月、香港証券取引所は、来年からメインボードに上場するための利益要件をさらに厳しくした。この規制では、会社の直近の3つの会計年度における利益総額の最低基準を8,000万香港ドル(1,390万シンガポールドル)としている。

しかし、米国市場を目指していた中国企業にとっては、深圳や上海よりも香港の方が扱いやすいでしょう。

香港の上場手続きが比較的簡素化されていることも魅力のひとつ。中国では、企業が規制当局の承認を得て、取引価格を決定し、最終的に上場するまでに数ヶ月かかることがあった。

HKEXは、新規株式公開(IPO)を迅速に行うために、これまで価格が決定してから取引が開始されるまで最低でも1週間は待たなければならなかったシステムを見直している。この計画は2022年の第4四半期に発効する予定で、香港が上場市場としての競争力を維持することを目的としている。

Refinitiv社のデータによると、セカンダリーを含めて、香港では今年上半期に280億ドルのIPO株式が販売され、ナスダック、ニューヨークに次ぐ第3位の上場市場となっている。

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