人間よりも短時間でチップを設計するAIが爆誕

半導体開発プロセスを加速の期待

人間よりも短時間でチップを設計するAIが爆誕

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要点

Googleはチップ設計を人間よりも短時間で効果的に行うAIを開発した。世界経済が半導体不足に苦しむ中、ムーアの法則を継続し、AIの発展を高速化する半導体設計ツールが生まれるかも知れない。


Googleの研究者は、チップのレイアウト設計をエンジニアが何か月もかけていたところを、すべての主要な指標において、人間が作成したものよりも優れた、または同等のレイアウト設計を6時間以内に自動的に生成するAIモデルを作ることに成功したとNature誌に掲載された論文の中で主張している。

現在、チップの製造はほぼ自動化されているが、設計はまだ手作業に頼っている。エンジニアや設計者はコンピュータ支援設計ソフトウェアを使用するが、すべての部品をスペースに収めるには、数週間から数カ月かかることもある。今回、Googleの研究者は、人工知能(AI)を利用することで、このプロセスを1日以内に完了できることを示した。

フロアプラン(論理機能をチップのどの場所に置くか決めること)は通常、人間の設計者がコンピュータツールを使って、チップのサブシステムをシリコンダイ上に最適に配置する作業だ。CPUやGPU、メモリコアなどの部品は、何十キロもの極細の配線でつながっている。ダイ上の各部品をどこに配置するかによって、最終的なチップの速度や効率が左右される。そして、チップの製造規模と計算サイクルを考えると、ナノメートル単位の配置の変化が大きな影響を与えることになる。

フロアプランの設計は人間にとって何カ月もの多大な労力を要するが、機械学習の観点からは、この問題を「与えられたリソースで最大の性能を達成するゲーム」として捉えることで、強化学習を適用することが可能となった。

Googleの研究者であるAzalia MirhoseiniとAnna Goldieは、さまざまな品質のチップの1万のフロアプランのデータセットを対象に、強化学習アルゴリズムを学習させた。各設計には、必要なワイヤの長さや電力使用量など、さまざまな指標での成功度に応じて、特定の「報酬」関数がタグ付けされた。アルゴリズムはこのデータをもとに、良いフロアプランと悪いフロアプランを区別し、自分のデザインを順番に生成していったという。

AIがチップの設計に要した時間は6時間未満で、この手法はすでに、Googleのテンサー・プロセッシング・ユニット(TPU)の設計にも使われている。強化学習モデルが行う設計は人間が作成したものとは全く異なる。ダイの上に部品が整然と並んでいるのではなく、サブシステムが無造作に散らばっているように人間には見える。

これが広範な範囲で実用化されるには、さらに多くのチームが、設計ソフトウェアが堅牢で、他のデータセットやチップタイプに対応できるかどうかをテストする必要がある。より多くのチームが今回の成功を再現することができれば、チップ設計ツールの中での地位を確固たるものにすることができるだろう。

チップ配置の最適化は、少なくとも60年以上にわたって研究されてきたが、今回の発見は群を抜いたものとなった。Nature誌の論説は、この研究を「重要な成果」とし、このような研究が、1970年代にチップ設計の公理として提唱された「ムーアの法則」(チップ上のトランジスタ密度は1.5〜2年ごとに倍増する)の終焉予測を相殺するのに役立つだろうと述べている。AIは、チップの微細化の物理的な課題を必ずしも解決するものではないが、同じ速度で性能を向上させるための別の方法を見つける助けにはなるでしょう。

Photo by Adi Goldstein on Unsplash

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