インターネット広告市場にコロナ禍の暗雲

GoogleとFacebookの決算からインターネット広告市場がコロナ禍による衝撃を受けていることがわかった。圧倒的な勝者の立場の両者で観測された現象は、スモールプレイヤーにはもっと過酷な形でもたらされる可能性がある。

インターネット広告市場にコロナ禍の暗雲

本記事は5/1のAxion Tech Newsletterで公開されたものです。Newsletterの購読はこちらから。

要点

GoogleとFacebookの決算からインターネット広告市場がコロナ禍による衝撃を受けていることがわかった。圧倒的な勝者の立場の両者で観測された現象は、スモールプレイヤーにはもっと過酷な形でもたらされる可能性がある。

解説

3月に広告収益が急減

今週はインターネット広告業界の2強であるGoogleの親会社のAlphabetとFacebookのQ1の決算がありました。両者とも増収増益ですが、3月に広告収益の急減が見られた点が共通しています。

今週発表されたAlphabetの決算は増収増益だったが、Googleの広告収益は3月に急減しました。特に影響が大きかったのが旅行カテゴリで10億ドルの収益が完全に消失。CFO のルース・ポラットは、「広告収入の大幅な減速」に直面する以前の1、2月は広告事業は好調だったと述べています。彼女は投資家向けのアーニングコールで、4月に入ってもこれまでのところ同社の業績は悪化していないと付け加えたが、第2四半期は同社にとって「困難なもの」になると警告しています。

これを受けてAlphabetは態勢を守備的に変えたようです。今月初め、スンダル・ピチャイ最高経営責任者(CEO)はスタッフにメールを送り、同社は採用ペースを「大幅に減速」し、投資のペースを調整すると述べました。そして先週、CNBCは社内文書を引用して、同社が今年の下半期にマーケティング予算を50%も削減する計画であることを報じました。

その二日後に発表されたFacebookの決算も好調だった。FacebookのCFO デイビッド・ウェ―ナ―は、新型コロナの影響による3月は広告収益が急減したが、その後は安定化の兆しが見えてきたと述べています。「3月に広告収入が最初に急減した後、4月の最初の3週間には安定の兆しが見られ、広告収益は前年同期比でほぼ横ばいです」。

GoogleとFacebookはともに3月に急減を経験したが、4月は安定していると説明しています。両者は合わせて米市場の6割を占める巨人です(図1)。彼らの傷は浅いでしょう。しかし、残りの4割のスモールプレイヤーにとって「3月の急減」が暗示することは何でしょうか?

図1. 上位10社で米インターネット広告市場の76%を占めるが、実際にはGoogleとFacebookの2社が突出し6割を占めている。Source: IAB internet advertising revenue report, 2019 first six months results.

米パブリッシャー98%が収益減を予測

4月中頃に発表されたInteractive Advertising Bureau(IAB)の調査結果によると、米国のオンラインパブリッシャーの大多数は、コロナ禍のため、広告主が広告キャンペーンをキャンセルしたり、一時停止したと言います。広告費削減は、メディア消費が急増しているとしても、広範なレイオフとコスト削減につながっています。

IABによると、200社以上の米国の広告型オンラインメディア、プログラマティック・プロバイダー、メディア・プラットフォームを対象に調査を行った。この調査では、ハードニュースを扱う出版社のほか、料理サイトや金融アドバイスサイトなど、他の広告支援メディアも調査対象としています。

  • 米広告主の70%はすでに3月から6月の期間のデジタル広告費を平均して3分の1程度を削減
  • 回答者の98%が2020年には収益が減少すると予想していると答えた
  • 特にニュースパブリッシャーの中では、調査回答者の88%が広告主からキャンペーンのキャンセルを依頼されたことがあると答え、86%が広告の一時停止を依頼されたことがあると答えた
  • 一方、非ニュースパブリッシャーの中では、調査回答者の70%が広告主からキャンペーンのキャンセルを依頼されたことがあると答え、79%が広告の一時停止を依頼されたことがあると答えた

これに先立つ3月末にはアマゾンとウォルマートは、BuzzFeedのようなデジタルメディア企業とのコマースマーケティング契約を一時的に停止したと、The Informationが報じました。これは、GoogleやFacebookが経験した3月の収益急減と「同様の状況」だろう。

コマースマーケティングは、BuzzFeedだけでなく、Vox Mediaなどオンラインメディアにとって収益の重要な一部となっています。メディアサイトは、小売サイトへのリンクでショッピングに関する記事を公開している。人々が投稿をクリックして何かを買うことになれば、メディアサイトは収益の一部を得る、仕組みを採用している。BuzzFeedは、他のデジタルメディア企業よりも、この「アフィリエイト」への依存が高かった。昨年の収益の約20%は、アマゾンやウォルマートからの収益が占めていたようです。

広告費不払いが「ドミノ倒し」を生む?

また、DIGIDAYによると、米国のオンラインメディアは、アドテクノロジーにおける買い手であるDSP(デマンドサイドプラットフォーム)が、広告費の削減で、売り手側のSSP(サプライサイドプラットフォーム)への支払いができなくなることを心配している。

一部の広告主は、広告代理店やメディアへの支払いをすでに遅らせており、コロナ禍の影響で経営不振に陥り、広告費を支払うための手元資金を失っている懸念も広がっている、といいます。

仮に不払いが起きた場合、SSPとオンラインメディア側も損害を被り、「ドミノ倒し」が起きる可能性があります。現在、メディアは、広告市場の弱体化によって潰れ、最終的には出版社を直撃するような波及効果を引き起こす可能性のある、リスクの高い他のアドテク企業を警戒しています。次の波は、多くの支払い義務を負ったTier-2のDSPが資金不足に陥ったときに何が起こるかということです。

一方、景気のいい話もあります。サブスクリプションソフトベンダーのPianoは3月に入ってからの、欧米の有料購読の動向を追跡しています。その分析の結果、有料購読オンラインメディアの新規購読者数は、1月と2月に獲得した週平均の新規購読者数と比較して、パンデミックが宣言された3月11日あたりを境にスパイクしています。4月の第3週において、欧州では97%、米国では78%高い水準で推移しています。オンラインメディアの方は、インターネット広告の不確実性を考慮し、サブスクリプションを検討されてはいかがでしょうか。

図2. パンデミックが宣言された3月11日あたりを境にスパイク Source: Piano "Subscriptions Rise With Coronavirus Coverage - Weekly Updated Chart"

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

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米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)