public

オンライン消費への転換はコロナ収束後も継続する?

コロナ禍のさなかコンテンツやモノのオンライン消費が増加している。これが経済社会にとって不可逆な変化なのか、それとも、一過性の出来事なのか。「ニューノーマル」の有無は、世界経済の大きな分岐点と言えるだろう。

a month ago

Latest Post ChromeのCookieサポート終了が広告技術に与える影響 by Takushi Yoshida public

本記事は5/22のAxion Tech Newsletterで公開されたものです。Newsletterの購読はこちらから。

要点

コロナ禍のさなかコンテンツやモノのオンライン消費が増加している。これが経済社会にとって不可逆な変化なのか、それとも、一過性の出来事なのか。「ニューノーマル」の有無は、世界経済の大きな分岐点と言えるだろう。

オンライン消費の急増は一過性?

コロナ感染拡大に伴うオンライン消費の利用増加は、既存のオンライン消費者がその利用割合を高めたために引き起こされており、非利用者のデジタル転換を実現していないため、コロナ収束後は、オンライン消費の増加分は剥げ落ちる可能性がある、と主張する興味深い論文が公開された。

渡辺努(ナウキャスト技術顧問,東京大学大学院経済学研究科)、大森悠貴(ナウキャスト,東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程)の論文『オンライン消費の増加はコロナ収束後も続くか?』は、新型コロナの感染拡大に伴い人々の消費スタイルの変化を調査した。

調査では、ナウキャストが提供する『JCB 消費 NOW』からアクティブな会員100万人をランダムに抽出したサンプルを用いた。渡辺らは、消費者の消費行動の状態を「オフラインのみ」「併用」「オンラインのみ」の3つと定義し、コロナ前とコロナ後(パンデミック期間を指す)での遷移の確率を、上述のデータに基づいて推計する手法をとった。

この結果、以下のようなことがわかった、と彼らは説明している。

  1. オンライン消費増加の主体は、コロナ前からオンライン消費に馴染み、オンラインとオフラインの消費を併用していた消費者。このような消費者は、オンライン消費の割合を高め、オフライン消費を一切やめてオンライン消費のみに切り替える行動をとった。
  2. オンライン消費の経験のない消費者の一部が、コロナを機にオンラ イン消費を始める動きもみられた。ただし、この寄与は必ずしも大きくない
  3. 年齢別にみると、35 歳前の年齢層がオンライン消費を増やし、これが大きく寄与した。一方、シニア層の寄与は皆無ではないものの小さかった。

渡辺らはコロナ感染拡大で生じたオンライン消費の増加分は可逆性は高く、収束後は剥げ落ちる可能性がある、と主張している。

この主張の背骨は、オンライン消費の増加には、もともと利用していなかった人が利用を開始した外延(Extensive margin = EM)、利用していた人が利用割合を高める内延(Intensive margin = IM)のふたつの性質のものがある、という想定と、EMとIMでの異なる可逆性があるとの推測だ。

渡辺らは、本論文では、EMの場合は非可逆性が強く、IMの場合は非可逆性が弱いと想定する。想定の根拠は、EMの場合、消費者は初期投資をし、そのサンクコスト化を恐れるため、オンライン消費を継続するが、IMの場合は、初期投資をしていないので、オンライン消費とオフライン消費をもとの水準に戻すことを防ぐ堀がない、という予測である。

パンデミックは強烈な加速器なのか?

これに先立つ4月、アクセンチュアが発表した報告書は、パンデミックが消費者のオンライン購入を加速させ、継続的なトレンドになる可能性がある、と指摘している。

もちろん、渡辺らの研究と比較することは難しい。いくつもの大きな相違点がある。それは、調査が世界15カ国(日本を含む)の約3,000人の消費者を対象に実施したこと、そして、調査期間は、日本で緊急事態宣言が発令される前の、2020年4月2日から同6日にかけてであることだ。さらに渡辺らがJCBカードのトランザクションデータを活用したのに対し、アクセンチュアはアンケートという手法をとっている。

アクセンチュアは、調査の結果、より多くの消費者が食料雑貨をオンラインで購入するようになったことが明らかになったと主張する。このうち、今回の事態をきっかけに食料雑貨を初めてオンラインで購入した消費者は全体の5人に1人を占めたほか、56歳以上に限れば、3人に1人に達した。また、「すべての製品・サービスをオンラインで購入している」と答えた消費者は32%を占め、この数字は今後37%に上昇すると予想される。

ステートメントによると、アクセンチュアの消費財部門を統括するマネジング・ディレクターのオリバー・ライト(Oliver Wright)は「今回の調査結果は消費者の購買行動が長期的に変化していくことを明確に示唆しています。こうした傾向はこれまでも見られたことですが、通常は何年もかけて生じるはずの変化がこれだけの規模とスピードでわずか数週間の間に一気に起きたのは驚くべきことだと言えるでしょう。消費者の新たな購買行動と消費活動は今後も継続することが見込まれ、その期間は1年半以上、そして2020年代の大半にわたって続くと推測されます」と主張している。

検索から見える

検索行動からもコロナの感染拡大とともに消費活動の変化の兆しが感じ取ることができる。Googleの尾崎隆の『Google トレンドで探る新型コロナウイルスに関連する検索動向』によると、政府によるイベント自粛や規模の縮小、全国すべての小学校や中学校、高等学校、特別支援学校について休校の要請が出たタイミングと重なる形で、2020年2月28日に「ネットスーパー」の検索が大きく伸びている。

尾崎は「ここには、「ネットスーパー」という単語で検索する人もいれば、特定のネットスーパーを指定して検索する人もいましたが、瞬間風速的に検索量が増加し、通常に戻る傾向が見受けられました。一度見つければ、そのネットスーパーの利用が定着するからでしょう。また、通常では検索されにくい「惣菜」「弁当」といったすぐに食べられるものや、「冷凍食品」「洗剤」といった食材や日用品などと掛け合わせて検索されたことも特徴的で、これまで EC で購入していなかった人もこうした食材や日用品を購入しようという意識・行動が高まったと考えられます」と説明している。

参考文献

  1. 渡辺努、大森悠貴. "オンライン消費の増加はコロナ収束後も続くか? クレカ取引データを用いた分析". 2020年5月14日.
  2. 江渕智弘. "経済の「今」オルタナデータでつかむ 予測に実態反映 ナウキャスト社長 辻中仁士". 日本経済新聞. 2020年5月19日.
  3. Oliver Wright, Emma Blackburn. COVID-19 will permanently change consumer behavior. April 28, 2020. Accenture.
  4. 尾崎隆. "Google トレンドで探る新型コロナウイルスに関連する検索動向". Think with Google. 2020年3月.

Photo by Brooke Cagle on [Unsplash](

Takushi Yoshida

Published a month ago