規制当局や政界から仮想通貨ロビイストへの転職が急増

規制当局や政界から仮想通貨ロビイストへの転職が増えている。公務員から転向したロビイストは、一般人には入手できない議員や規制当局者へのアクセス権を持っており、最も高い入札者にそのアクセス権を売っているという。

規制当局や政界から仮想通貨ロビイストへの転職が急増
規制当局や政界から仮想通貨ロビイストへの転職が増えている。Photo by Alejandro Barba on Unsplash

3月初旬、消費者擁護団体パブリック・シチズンは、国会議事堂における暗号通貨ロビー活動の爆発的増加と、規制当局と業界の間で急増している人材の循環を指摘した報告書を発表した。

2018年以降、暗号通貨企業に直接雇用されたロビイストと、暗号関連の問題に取り組むロビイストは、大規模な爆発を経験している。報告書によると、業界は2018年に47人のロビイストを配備し220万ドルを費やしていたのが、2021年には900万ドルを費やし、157人のロビイストを直接雇用するようになったそうだ。

パブリック・シチズンはまた、暗号関連の問題でロビー活動を行ったと報告した、暗号推進団体以外の163人のロビイストを取り上げた。合計で、パブリック・シチズンは、2018年の115から2021年に320人の暗号通貨ロビイストを確認し、報告書によると、「新興セクターのためのロビー活動の非常に急速な増加」が起きている。

「メガバンク、ハイテク企業、化石燃料企業、その他の産業と同様に、暗号セクターは、公共の利益よりも私的なビジネスの利益を優先するよう議員を後押しするために何百万ドルも何千万ドルもつぎ込んでいる」と、リサーチディレクターのRick Claypoolはパビリック・シチズンの報告書に書いている。「お金がものを言うワシントンD.C.で、デジタル通貨ロビーは発言力を持とうと決心している。このロビー活動を前に、最も暗号に友好的な議員でさえ、この不安定なセクターにとって良いことが、彼らの有権者にとって最良のことなのか、一歩立ち止まるべきだ」

暗号関連の問題を進めるためにロビイストを使った暗号通貨以外の最大手企業には、米国商工会議所(32人のロビイスト)、Facebook(27人)、全米ベンチャーキャピタル協会(24人)、IBM(16人)、Fidelity Investments(13人)、Accenture(11人)などがある。しかし、当然のことながら、最大の支出者は暗号業界の大物たちだった。

コインベースは、数百万ドルの宝くじプレゼントに加え、スーパーボウルの1分間のQRコードCMに1,400万ドルを費やした。社内と7社のロビイスト26人に150万ドルを費やした。パブリック・シチズンの報告書によると、2020年に7人のロビイストに使われた23万ドルと比べて急増している。

ブロックチェーンファイナンスのRipple Labsは2位で、3社から14人のロビイストに110万ドル(約1億円)を投じており、昨年の9人のロビイストの3倍であると報告されている。リップルのCEOであるブラッド・ガーリンハウスは、フィナンシャルタイムズ紙の記事で、リップルの通貨を支えるブロックチェーン技術に魅力的な用途を見出そうとしており、暗号通貨の世界で「決済のアマゾン」となる夢を語っている。一方、Ripple Labsは無登録のデジタル証券の販売を通じて13億ドルを調達した容疑で、証券取引委員会と争っている。

元政治家によるロビー活動への興味深い進出もある。今年初めに頓挫し、カリフォルニアの銀行に売却されたFacebookの暗号プロジェクト、Diemは、元議員のセン・ダフィー議員(ウィスコンシン州)を含む4人のロビイストを登録した。ニューヨーク州北部の放棄された石炭発電所を暗号通貨を採掘するために復活させた未公開投資会社、Atlas Power Holdingsは、2021年にロビイスト10人に32万ドルを費やし、キャピトルヒル(連邦議事堂がある一角)入りした。そのオールスターチームには、「複数の元上院議員」のほか、元米国上院議員のマーク・プライヤーが含まれていた。

元公務員が暗号ロビイストとして活躍しているのは、この2社に限ったことではない。パブリック・シチズンの主な調査結果の1つは、暗号通貨業界では、例えば金融と同様の回転ドアが出現していることだ。元上院議員、下院議員、ホワイトハウス職員、財務省職員、SECやCFTC、FCCの規制当局者が皆、民間企業で働くチャンスに飛びついていることが、報告書の中で明らかにされている。

「暗号通貨推進派は、元政府高官をフルに活用し、そのコネクションで現金を得ている」と、パブリック・シチズンは報告書に書いている。「公務員から転向したロビイストは、一般人には入手できない議員や規制当局者へのアクセス権を持っており、影響力を求める業界の中で最も高い入札者にそのアクセス権を売っている」

パブリック・シチズンが取り上げた主要な例の1つが、BitfuryのCEOであるブライアン・ブルックスです。その昔、ブルックスはコインベースの最高法務責任者だった。トランプ政権の米国財務省通貨監督庁(OCC)長官のジョセフ・オッティングが去ったとき、スティーブン・ムニューシン財務長官はブルックスを長官代理に選んだ。トランプ政権での9ヶ月の間に、彼は暗号通貨界隈に優しい措置に署名し、その後Binance.USのCEOになり、Bitfuryで指揮を執るようになった。

しかし、「回転ドア」(公共部門と民間部門での人材の入れ替わりの比喩)を使っているのは、政治家と規制当局だけではない。上院院内総務のチャック・シューマー、下院議長のナンシー・ペロシ、下院院内総務ステニー・ホイヤーなどの民主党指導部で働いた元スタッフは、2021年の記録で開示されたロビイストの一員となっていることが証明されている。彼らは、立法ディレクターや補佐官、チーフスタッフ、顧問、スタッフディレクターとして議会で働いた後、Diem, Facebook, Ripple, Robinhood, Coin Center, Visa, Mastercard, Atlas Power Holdingsといった企業や団体のためにロビー活動を行ってきた。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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By エコノミスト(英国)