世界最高峰のAI研究所が突然黒字化した理由

世界最高峰のAI研究所DeepMindが、2020年通年で売上を3倍に伸ばし黒字化したことが判明した。親会社Alphabetが、一時は非営利化を打診したDeepMindをより「営利活動」に関与させるようにした結果のようだ。

世界最高峰のAI研究所が突然黒字化した理由

要点

世界最高峰のAI研究所DeepMindが、2020年通年で売上を3倍に伸ばし黒字化したことが判明した。親会社Alphabetが、一時は非営利化を打診したDeepMindをより「営利活動」に関与させるようにした結果のようだ。


Alphabet傘下の世界最高峰の人工知能(AI)研究所であるDeepMindが、史上初めて利益を計上したことが、5日に公開された英国の企業登記局への提出書類により明らかになった。

CNBCによると、ロンドンに本拠を置くこの研究会社は、ここ数年、数億円の損失を計上していたが、2020年に4,380万ポンド(約66億円)の利益を計上した。

Googleが2014年にDeepMindを約4億ポンドで買収して以来、何年にもわたって損失が拡大し、2019年には6億4,900万ドルの損失を計上している。さらに11億ポンドの負債を親会社のアルファベットが2019年に償却していた。

DeepMindは、消費者に直接製品を販売しておらず、アルファベット傘下以外の民間企業との取引も発表していない。FTが取得した英企業登記局に提出された最新の会計報告によると、DeepMindの収益はその技術をアルファベットの商用プロジェクトに適用することですべて得られている。収益は2019年にはわずか2億6550万ポンドだったのが、2020年には3倍以上の8億2,600万ポンドに増加した。人件費やその他の費用は、前年の7億1,700万ポンドから7億8,000万ポンドに増加した。

DeepMindは次のように述べている。「この報告期間中、私たちは、科学的発見を加速するために知能を解決するという使命において、大きな進歩を遂げた。タンパク質の構造予測における当社の画期的な成果は、AIが科学的知識の発展にもたらした最も重要な貢献の一つとして称賛された」。

そのAI技術を他のアルファベット製品に組み込むDeepMind for Googleチームは、ロンドンとカリフォルニアに分かれており、エンジニアを中心とした約100名の従業員で構成されている。

最近の商用プロジェクトの例としては、Googleマップのコラボレーションにより、マップサービス上の「到着予定時刻」を最大50%改善したことや、Googleの仮想アシスタントの音声を改善したこと、Androidのバッテリー節約プロジェクトでは、現在10億人以上のアクティブユーザーが利用しており、月に1,400億分のバッテリーを節約しているという。

先週、英国の国立気象・気候サービス機関である英国気象庁と共同で行った最近の研究成果を発表した。機械学習を用いて、2時間先までの降水のタイミング、場所、強さを高解像度で正確に特定することができた。

非営利化を打診していたDeepMind

Alphabet関連ビジネスにより収益が3倍になったことは、Alphabet側の「手心」が働いたとみるべきものだろう。

DeepMindは同社の最先端のAI研究の成果が単一の私企業に支配されるべきではないとの考えから、現在の株式会社を非営利団体(NPO)に転換することをAlphabetに要求していたと報じられた。

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WSJの報道では、Googleは1年に及ぶ2社間の交渉に終止符を打ち、DeepMindからの独立性向上の訴えを最終的に拒否したとされている。

WSJによると、DeepMindのリーダーたちは、2015年の時点で、より多くの自律性を確保することについてスタッフと話し合っており、同社の法務チームは、昨年パンデミックが発生する前に、新しい体制の準備を進めていたという。創業者たちは外部の弁護士を雇い、スタッフは会社の分離を導き、AIが自律型兵器や監視に使われるのを防ぐための倫理規則を起草した、と関係者は語っている。DeepMindの幹部は一時、Googleに部分的なスピンアウトを提案していたと複数の関係者が語ったという。

2019年のThe Economistの報道では、Google社がDeepMindに対して研究成果を商業化するよう圧力をかけていることが指摘されている。その結果、DeepMindは自社の研究をAndroidのバッテリー寿命の向上やデータセンターのエネルギーコストの削減に利用するプロジェクトを立ち上げた。一方で、英国企業の損失は増え続けており、2019年の公開資料では4億7,700万ポンド(約740億円)の最高額を記録した。

結論

GoogleがDeepMindに費やした対価を求めるのであれば、DeepMindに非営利団体のような地位を与えることはできないだろう。今回の急激なDeepMind for Googleの営利活動を通じて、両者の相互依存関係を深めていくことで、虎の子のDeepMindの非営利化の欲求を抑え込むことが目的と考えられる。

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