米上場の滴滴 Didi、中国政府の圧力で四面楚歌

外国企業が筆頭株主の企業の個人情報利用を「違法」と認定

米上場の滴滴 Didi、中国政府の圧力で四面楚歌

要点

配車大手滴滴 Didi に中国サイバーセキュリティ当局の調査が直撃した。上場直後の当局の動きに憶測が乱れ飛んでおり、なかには約3,000億円に達したアリババの罰金以上のものになるとの観測もある。


中国サイバースペース管理局(CAC)は7月4日夜、中国の配車大手滴滴出行(Didi Chuxing)が、「深刻な違法かつ不規則な個人情報の収集と使用があった」として、アプリストアからのアプリの削除と新規ユーザーの登録を停止を命じた。CACは同社に対し、法的要求を厳格に遵守し、関連する国家標準を参照し、既存の問題を真剣に是正し、大多数のユーザーの個人情報のセキュリティを効果的に保護するよう要請した。

これに対して、滴滴はユーザーの情報のセキュリティを確保するために、法律に従って事態を是正すると回答した。Didiアプリケーションをダウンロードしたユーザーは、通常通り使用することができ、乗客の旅行プランやドライバーの注文には影響がないという。

当局は、ユーザーデータのプライバシー侵害の内容や、滴的が問題に対処するための時間、滴滴のアプリがアプリストアに復帰する時期については明らかにしていない。

今回の滴滴の調査は、2020年6月1日に施行された、国家インターネット情報局、発展改革委員会、工業情報化部、公安部、財政部、中央銀行など12の省庁・委員会が共同で策定した「ネットワークセキュリティ審査弁法(网络安全审查办法)」等に基づくもの。滴滴の一件は、ネットワーク・セキュリティ・レビュー対策が実施されてから初めてのケースとのことだ。

当局の動きを見て、中国のネット上では、国民の情報を米国に流出させたり、個人情報を不正に利用しているとして、滴滴を非難する声が上がった。 この噂に対し、Didiの副社長であるLi Minは微博(中国版Twitter)で反論している。「海外に上場している多くの中国企業と同様に、Didiの国内ユーザーの情報は国内のサーバーに保存されており、米国に情報を渡すことは考えられない。また、関連する悪意のある噂は削除されているが、権利保護のために断固として訴える」。

CACは同国のテクノロジー業界に対する取り締まりを強化し、滴滴以外の米上場のトラック配車の満幇(Full Truck Alliance)と人材採用の看准(Boss Zhipin)にも調査の範囲を広げた。滴滴と満幇にはソフトバンクグループが出資している。

共産党機関紙の報道

共産党機関紙・人民日報系の環球時報は滴滴アプリの除外命令に関する論説で、「滴滴のように米国で上場しており、第1位と第2位の株主が外国企業である企業の場合、個人情報のセキュリティを維持するためにも、国家の安全保障を守るためにも、国家による情報セキュリティの規制はより厳しいものになる必要がある」と主張した。

滴滴の筆頭株主はソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)で、第2位はUberだ。SVFを運用し、Uberの筆頭株主であるソフトバンクグループはクレディ・スイスからグリーンシル問題をめぐって提訴される可能性が浮上するなど、世界中で奔放なガバナンスへの疑義が呈されている。

環球時報は「個人情報の収集に関しては、これらの巨大企業が抑制され、最小化の原則に従うことを保証するために、基準は国の手に委ねられなければならない」とも書いている。さらに同誌は、中国人の個人情報を国が保有している以上に詳細に管理する「スーパーデータベース」になることはインターネット大手には許されないと主張している。

このような考え方は、アントグループの「芝麻信用」という信用スコア事業に対してもみられた。当局は、アントに対して中銀元幹部が運営する国営企業へのデータ共有を求めていると言われている。また、芝麻信用は、中国政府が開発中の社会信用スコアの一つの構成要素になる可能性が指摘されてきた。

「アリババ以上の罰」

香港経済日報は、中国当局は、滴滴が米国での株式公開の勧告を無視したことに不満を持ち、アリババ以上の罰を与えるだろうと噂されている、と報じた。国家市場監督管理総局がアリババに課した罰金は182億2,800万元(約2,900億円)に上っている。

香港経済日報が中国メディアの報道内容を基に報じたところによると、滴滴アプリの削除理由は、国や中国国民のデータセキュリティが漏洩する危険性を上層部が懸念したことだが、それよりも重要な理由は、勧告にもかかわらず滴的が米国での上場を急いだことだという。

報道によると、規制当局は滴滴を米国で上場させたくないと、同社の上層部と何度も連絡を取っていたが、同社は有効な回答を出さず、わざわざ共産党の100周年記念式典の前に米国上場することを選んだため、規制当局を一層激怒させたという。

Image by Didi.

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