滴滴出行 (Didi) IPOの2つのリスク

規制当局とロボタクシーの挟み撃ち

滴滴出行 (Didi) IPOの2つのリスク

要点

滴滴出行のIPOは、当初の想定価格から大幅下落のため、割安と捉えた投資家で賑わいそうだ。しかし、規制当局の独禁調査とロボタクシーの台頭という2つのリスクが、同社に時間滴制約を課しており、「滑り込みIPO」の可能性も否定できない。


ソフトバンクグループが出資している中国の配車大手、滴滴出行(Didi)は40億ドル(約4400億円)規模の北米でのIPOを迎えたが、同社は従来の目標よりもかなり小さい企業価値で株式を公開することを余儀なくされた。

ブルームバーグによると、米証券取引委員会(SEC)への24日の届け出によれば、滴滴出行は2億8800万米国預託株式(ADS)を1ADS当たり13-14ドルで募集する。届け出に掲載された発行済み株式数に基づくと、IPO価格が仮条件の上限で決まった場合、企業価値は約670億ドルとなる。これは2019年に行った前回の資金調達ラウンドでの価値を辛うじて上回る水準だ。

別のブルームバーグの記事では、滴滴は、価格を仮条件の上限以上に定める予定だと投資家に伝えたと「事情に詳しい関係者」が話している。このような情報戦の末、6月30日現在、DidiのIPO価格は14ドル、企業価値670億ドルとなると報じられていた。その後の上場で株価は、1%の上昇で終了した。

滴滴はもともと企業価値1,000億ドルでの上場を目論んでいた。フィナンシャル・タイムズによると、1,000億ドルは株価売上高倍率約5倍に当たり、UberとLyftの約8倍よりも慎ましやかな範疇に収まっているように見えるが、ある工夫がされていたという。

「滴滴が上場目論見書で売上高としているのは、実際には利用総額だ。ウーバーとリフトは、利用総額から運転手への支払いを引いたものを売上高として報告している(中略)滴滴の売上高に相当する項目は、『プラットフォーム売上高』という不透明な形で表示されている。これは20年に53億ドルだった。滴滴の評価額を1,000億ドルとすれば、売上高の19倍近くになる。 価格つり上げもいいところだ」。

滴滴の目論見書には「売上高」は216億ドル(約2兆4,000億円)と記載されている。出典:FORM F-1, Xiaoju Kuaizhi Inc / SEC.

Uberの財務報告書では、総利用額はGross Booking(総予約額)と定義されており、そこから徴収できる手数料部分を売上高と捉えている。これは、ホテル、航空券、eコマースのような他のプラットフォームビジネスでも同様の換算方法をとる。

この企業価値の1,000億ドルから670億ドルへの急降下は、必ずしもネガティブではない。急激な価格の変更は、市場関係者や個人投資家のアンカリング効果を引き起こし、「割安」と思い込ませる可能性がある。アンカリング効果とは最初に与えられた参照点に人の判断基準が引っ張られてしまうことを指す。

滴滴の状況はUberのIPOの状況よりも難しくない。Uberが市場に登場したときとは異なり、滴滴は2019年以降、調整後EBITDAベースで中核となる配車事業の黒字化を達成している。その中核事業は、2020年の滴滴の1420億元(220億ドル)の「売上高」(上述したとおり、正確にはGross Booking = 総予約額)の94%を占めている。これは、急成長しているが赤字の料理宅配にそれぞれ収益の35%と49%を依存しているUberやGrabに比べて、はるかに高い集中度合いである。中国では、滴滴は巨大なライバルであるMeituan(美談)とEle.me(餓了麼)に料理宅配分野では締め出されている。

滴滴の本業は利益を上げているものの、予約した1回の乗車に対するマージンは約3%と、国際的なライバル企業に比べてはるかに低く、Uberの20%に比べて劣っている。

規制当局の調査

今月初め、新華社通信傘下の金融誌は、反トラスト法の調査がIPOへの驚異となっているとし、価格操作の懸念や、滴滴がUberの中国事業を買収した際の調査を挙げていたが、その詳細はほとんど公表されていない。

これは、ロイターの6月中旬の報道で裏付けられている。ロイターはこの件に詳しい3人の人物を引用して、中国の国家市場規制総局(SAMR)が、滴滴について、その価格設定メカニズムが十分に透明性のあるものかどうかの調査を開始したと報じた。この調査が、上述したIPO価格の急落をもたらした可能性がある。また、ロイターの報道によると、滴滴が小規模なライバル企業を不当に締め出していないかどうかも調査する予定だと、3人の関係者のうち2人が語っている。

滴滴の調査は、中国の市場規制当局による最新の動きであり、北京によるビッグテックの取り締まりが行われている。アリババは、独占禁止法に基づく調査の結果、4月に記録的な182億元(27億8,000万ドル)の罰金を科せられた。アリババの金融関連会社のアントグループはIPOが停止になったばかりか、包括的な中国政府・中銀・国営企業への「協力」を求められている。その他、テンセント、バイドゥ、日本のソフトバンクも少額の罰金を科せられている。

5月初旬、国営通信社の新華社が配車プラットフォームの高い手数料を明らかにする記事を発表し、中国のソーシャルメディアで熱い議論を巻き起こした。新華社の「調査報道」によると、一部の配車プラットフォームでは、手数料を20%以上、時には50%まで取られることもあるとわかった。報道は、配車プラットフォームの運転手は交渉力を失い、乗客はサービスの対価としてより高い価格を支払わなければならない状況を描写した。

これを受けて5月、他の30社以上の配車企業とともに、滴滴の幹部がドライバーの給与に関する懸念から運輸省に召喚された。

この種のギグワーカーの労働条件に関する懸念は、配車ビジネスにつきものだ。カリフォルニア大学バークレー校のKen JacobsとMichael Reichの研究は、カルフォルニアの現行法のもとでは、Uberドライバーが保証される賃金は時給5.64ドルにとどまる可能性が高いと主張している。Uberらが主張する報酬には様々な隠されたコストが含まれておらず、ギグワーカーは、現行法で提供されると規定されるさまざまな保険給付の対象外となっていることが主な要因だ。

Uberらは稼働時間にのみ給与を提供しているが、ドライバーらは待ち時間を含めると長時間労働を余儀なくされる。その待ち時間には賃金が適用されないため、時給換算すると、最賃以下となる。出典: Ken Jacobs, Michael Reich, 2019.

スタンフォード大学の交通研究者Stephen Zoepfらのチームは、UberとLyftのライドヘイリングドライバーの経済性について、1100人以上のドライバーを対象とした調査結果と、詳細な車両コスト情報を組み合わせて詳細な分析を行ったところ、1時間あたりの勤務時間、運転から得られる利益の中央値は税引前で3.37ドル、ドライバーの74%は所属する州の最低賃金を下回っていることがわかったと結論づけている。

自律走行車の台頭

このような潜在的な苦境を、滴滴は自律走行車へのシフトで乗り越えようとしているようだ。目論見書には以下のような、自律走行の採用とともに市場が拡大していく、とても楽観的な未来図が描かれている。

出典:FORM F-1, Xiaoju Kuaizhi Inc / SEC.

滴滴は2016年に自律走行部門を作り、2019年に100%出資子会社としてスピンアウトした。そのDidi Autonomous Drivingは、北京、上海、合肥、蘇州、カリフォルニアの公道で自律走行車のテストを行う許可を得ているが、他の自律走行ソフトウェア企業と比較すると、公開されている成果はとぼしい。

この市場は非常に混雑しており、後発の滴滴が勝者になる可能性は薄いだろう。また、自律走行ソフトウェア企業は、それまでに費やした大量の研究開発費用を勘案すると、配車企業のポジションを代替するビジネスモデルを目論むのが普通だ。最近、自律走行ソフトウェア企業によるロボタクシーの実証実験が盛んだ。一部はセーフティドライバーなしで商業運行している。滴滴だけならず、多くの配車企業に残された時間は残り僅かかも知れない。

Image via 滴滴出行

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