Didi、業績悪化のさなかに従業員の株式売却を禁止へ
Didi Globalは現役および元従業員に株式売却を無期限で禁止。米上場廃止、政府の圧力という苦境の中で、インセンティブを失った社員の離反の恐れにも対処しないといけない。
要点
Didi Global(滴滴出行)は規制当局のサイバーセキュリティ審査以降、難局続きだ。しかもここにきて従業員の離職を誘いかねない規則の策定や業績の悪化等、新たな悪材料が降り掛かっている。
Didiは現役および元従業員に株式売却を無期限で禁止したとフィナンシャルタイムズ(FT)が報じた。
従業員の株式売却を禁止する動きは、6月の新規株式公開後、180日間のロックアップが終了し、27日に初期投資家が株式を売却できるようになった矢先のことだった。
FTによると、27日に株式を売却できるようになったのはソフトバンクG、テンセント、Uberの3社に限られるとのことだ。
現役および元従業員には報酬の一部が株式で与えられており、今回の措置により、株式報酬を流動化できる可能性が不透明になった。このため、上級職を含む従業員の中には退職を選ぶものも出てくると想定される。
ただでさえDidiの株式の価値は下がる一方で、従業員のインセンティブが減少している。取引開始からわずか6ヶ月足らずの間に62%下落し、その間に約420億ドルの時価総額が失われている。
中国の国家発展改革委員会と商務部は27日の声明で、制限されたセクターからのオフショアIPOに新たな制限を課すと発表した。これは、規制当局がデータの安全性を懸念していたにもかかわらず、DidiのIPOが行われたことを受けて、北京が海外の上場企業に対する監視を強化する動きだ。
米国に上場している中国関連企業を対象としたナスダック・ゴールデン・ドラゴン・チャイナ・インデックスは、27日に1.1%下落し、2021年の損失は44%以上に達した。
Didiの事業は政府の調査を受けて急激に悪化
中国の配車部門は、米国でのIPOを控え、規制当局の監視下で63億ドルの損失を出した。
Didiは損失が膨らみ、わずか数カ月前にニューヨークで実施した新規株式公開で調達した44億ドルを使い果たし、事業が急速に縮小している。Didiの年初来の9ヶ月間の営業損失は63億ドルに拡大し、第3四半期収益は前年同期に比べて2%減少した。
政府のデータによると、Didiのアプリが削除された後、Didiの乗車数が減少したことが示されているが、同社は12月30日、9月末までの3ヵ月間に中国の配車部門の収益が前四半期から13%減少したことを明らかにした。
Didiは依然として新規のユーザー登録を停止されたままだ。新規ユーザーはDidiを使うことができず、新しい携帯電話を手に入れた古いユーザーもダウンロードすることができない。中国国内でパンデミックが再び拡大していることも影響しているだろう。
規制当局はアプリストアに対し、ドライバー登録アプリを含む25のアプリを削除するよう命じた。また、中国政府系ファンドは、吉利汽車創業者で習近平主席と旧知の仲である李書福が支援する配車企業に出資を行っている。
その結果、Didiのキャッシュも減少している。同社は3月末時点で72億ドルの現金と時限式銀行預金をバランスシートに計上しており、6月の株式売却で少なくとも43億ドルを調達した。しかし、9月末の決算では95億ドルしかなかった。
コメント
今回の措置は、米上場廃止と香港への再上場のプロセスがどの程度かかるかわからず、また、政府の態度硬化がDidiのビジネスを難しくする不確実性にもさらされる中、筆頭株主に優先的に流動化の機会を提供したものと考えられる。しかし、Didiのファンダメンタルズは脆弱であり、ソフトバンクG、テンセント、Uberの3者が売り急ぐようだとたちまちのうちに株価が崩壊する可能性がある。加えて、インセンティブの喪失により、重要な従業員をつなぎとめておけるかも不透明になってきた。