ゴールドマンサックスのエンジニアが従業員25%に到達した理由

金融機関のテック企業化は急務。テック企業による金融機関のアンバンドルは進んでいる。ゴールドマン・サックスもかつてのポリシーを覆す。ゴールドマンは小売分野でレガシーをディスラプトする側に回ろうとする。

ゴールドマンサックスのエンジニアが従業員25%に到達した理由

要点

  • 金融機関のテック企業化は急務。テック企業による金融機関のアンバンドルは進んでいる。ゴールドマン・サックスもかつてのポリシーを覆す。ゴールドマンは小売分野でレガシーをディスラプトする側に回ろうとする。
  • 投資銀行の若年層、エンジニア比率が高まっている。シリコンバレーとエンジニアの獲得競争をしている

ゴールドマン・サックスグループの社員の半数以上が30歳以下であり、4分の1がエンジニアとするbloombergの記事が話題になった。同社は新卒のエンジニアへの報酬を引き上げ、服装規定を緩くし、大型のコンピューターモニターをプログラマーらに支給しているという。目的はウォール街のビジネスにとって重要度が増すエンジニアたちをひき付けることだ。

しかし、若いプログラマーにとってウォール街の職はシリコン・バレーほど報酬が高くないことが少なくなく、環境も窮屈と考えられる。長い間、ビジネスサイドがエンジニアに対し高圧的な態度と強い権限を振るってきた経緯もある。

そもそも金融危機の後に大人になった米国の世代にとってウォール街は余りクールではない。以下の二つのドラマシリーズを比べるだけで米国の若年層が持つ印象をつかめるはずだ。

HBOの大人気シリーズ『シリコンバレー』はオタクなエンジニアである主人公が独自の圧縮アルゴリズムを開発したことがきっかけで、「パイド・パイパー」という会社を設立し、CEOとして起業するコメディ。

NBC系が制作した『MR. ROBOT』はセキュリティ会社勤務のエンジニアの主人公が、顧客である金融コングロマリット「Eコープ」の保有する金融データをクラッキングすることで、学生ローン、住宅ローンなどのあらゆる債務を帳消しにするスリラーである。

……ということで、選択肢のあるエンジニアが給与も上、仲間の評判も上なシリコンバレーを選ぶ傾向がある。

Quoraに寄せられた「ソフトウェアエンジニアとして働くには、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーのどちらが良いでしょうか?」と質問に対しては、ゴールドマン・サックスで勤務歴のあるソフトウェアエンジニアが「ソフトウェアエンジニアであれば、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーで働くのはやめましょう」と回答している。

その人は「ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの主要な価値(すなわち収益)を生み出す従業員は、銀行員とセールスマン/トレーダーである。他のすべての部門が何らかの形でこれらをサポートしている」と説明しています。

「テクノロジー部門や人事部が直接これらをサポートしているだけでなく、プライベート・ウェルス・マネジメントのような部門でさえも、(ソフトウェアエンジニアリングは)主要なビジネスで競争力を発揮するための補助的なビジネスとみなされる可能性があります(これは、自己勘定取引が銀行の利益の大部分を占めるようになり、アルゴリズムが世界を食べ続けるようになれば、この状況は変わるかもしれません)」。

その人は、お金に困らない生活がしたければ、エンジニアがゴールドマン・サックスで働くことは悪くない、と言いますが、一方で、「あなたは何かを作っているわけではありません。ロックスターたちと一緒にいるわけでもない」と語ります。その代わり、シリコンバレーもしくはそれに匹敵する場所に行くべき、と問いています。

自動化の波

MITテックレビューの2月の記事は「2000年には600人いたニューヨーク本社の株式トレーダーは、今では2人しかいない」と説明している。金融業界の動向を継続的に調査している英国企業コーリション(Coalition)によれば、現在、金融取引の45%近くが電子化されている。管理部門のスタッフだけではなく、ウォール街のコンピューターは、多くの高給取りの職まで置き換えているのだ。

トレーディングで機械が人間に勝ることが当たり前になりつつあるなか、4人のトレーダーが1人のエンジニアに置き換えられている。投資銀行業務の自動化も視野に入っている。

同社CFOによると、次は投資銀行業務を自動化するという。伝統的に営業力や相互関係の構築といった人間的なスキルが重視されてきた仕事だ。こうした「神の手を持つ社員」をすべてコンピューターと入れ替えるわけにはいかない。だがゴールドマン・サックスではすでに株式公募の際に必要な146の手順を明確にしており、その多くは「自動化がぜひとも必要である」とCFOは説明敷いています。

ブルームバーグの2019年8月の記事によると、ゴールドマン・サックスはトレーダーの業務を自動化するため、エンジニアを100人増員する計画を進めている、と報じられました。レーディング部門のエンジニアリング部門の共同責任者であるアダム・コーンは「このような人材を市場で積極的に追いかけていくことになるでしょう。歴史的に、エンジニアはビジネスの一部として見られていませんでした。それが明らかに変わりました」と語っています。

テクノロジーの急速な進歩は、ビジネスが行われる方法を根本的に変え、自動化が進むにつれてスタッフの削減を可能にしてきた。銀行は、より多くのリソースをテクノロジーに割り当てることで対応している。

ゴールドマンはトレーディングとリスク管理のプラットフォームであるMarqueeの開発を継続しており、100人はほぼこのための増員枠のようだ。同時に大規模なクオンツ・ヘッジファンドにサービスを提供するために、取引ツールのをより多くのビジネスパートナーに展開できるようにすることを視野に入れて、電子取引プラットフォームの見直しを行っています。取引時間を短縮し、より多くのリクエストを処理し、クエリへの応答を迅速化することで、より多くの取引とより多くのビジネスを生み出すことができるとの見通しがあります。

当社のパートナーである Raj Mahajan 氏は、株式トレーディング業務を支えるテクノロジーの構築を支援するなど、このイニシアチブの重要な役割を担っています。最近、彼は新しい役割に昇格し、クオンツの顧客を担当することになりました。

この取り組みは一定の成果を上げており、最終四半期には株式取引から20億ドル以上の収益を上げ、近年ウォール街のトップの座を維持しているモルガン・スタンレーとの差を縮めることができました。

バンキングも個人の時代へ

個人のバンキングはデジタルデバイスのなかで完結する時代を迎えている。中国のアリペイの余額宝を使えばモバイルアプリ内でワンタップでマネーマケットファンド(MMF)に投資できてしまう。アリペイはアリババ運営の電子商取引サービスにおける決済ではクレカの代わりになる。公共料金の支払いも可能にし、公に示されるクレジットスコア(芝麻信用)の算定すら行ってしまう。

GSは今年、米国で一般個人向けのオンラインリテール銀行「GS Bank」を開設。超富裕層・機関投資家を相手にしてきたGSにとって余りにも意外な動きだった。GSはオンラインリテール事業を英国に拡大すると9月にFTが報じた。

オンライン個人レンディング「Marcus」は社内スタートアップとして進められた。GSはレンディングクラブやVision Fundが投資するSoFi、Prosperなど西海岸のFintechスタートアップがしのぎを削るフィールドに突如降り立ったのだ。

スーツを着た東海岸のスクエアが金融スタートアップをやれるのか? 以下のMarcusのポリシーは従来型の金融機関のポリシーと真っ向からぶつかることになるが、GSがこれを掲げていることが極めて興味深い。

  • 消費者は隠された手数料に疲れています。Marcusには手数料はありません。
  • 消費者はクレジットカードの予期しない金利の変化にストレスを感じています。Marcusは融資期間を通じて固定金利を提供しています。
  • 消費者は、事前に割り当てられた支払い日と制限された支払いオプションに不満を感じます。Marcusでは、毎月の支払い日と予算に合わせた支払い方法を選択することができます。
  • 消費者は、支援が必要なときに誰かに直接話すことができるのではなく、自動化されたマシンに不満を抱いています。Marcusには融資専門家がおり、生のパーソナライズされたサポートを提供しています。

Marcusは他の金融機関に対しレガシーITインフラを持たず、スクラッチから開発できるという強みを持っている。GSはもともと消費者向けクレジットカード事業を行っていないため、カニバリを恐れなくていい。しかも、先行するSoFiなどがビジネスモデルとプロダクトの検証を終えている。GSは、既存のプラットフォーム、オープンソースソフトウェア、FICO、Twilio、Facebook、Adobeなどの外部APIを利用して12ヶ月でMarcusを立ち上げた。Marcusは開始8カ月で10億ドルを融資しているという。GSは今後、Marcusでレガシー金融機関のリテールビジネスをディスラプトする側に回ろうとしている。

CB insightによると、Goldman Sachs Investment Partners(GSIP)は、Uber、Facebook、Pinterest、Spotify、thredUP、foodpanda、Goeuro、Compassなど消費者向けまたはB2B2Cのテック企業に投資。GSIPは2011年12月にUberのシリーズBラウンドの共同リード投資家でもあります。

※2017年11月の記事の再掲載です。2020年4月16日、加筆しました。

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By 吉田拓史
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