日本企業はESG情報開示から逃れられない

ESGに関する事項が投資家や規制当局の注目を集めるにつれ、政府機関や非政府機関、そして業界関係者が作成した開示基準が市場で注目を集めている。日本企業は早急な対応を求められている。

日本企業はESG情報開示から逃れられない
Photo by Ryo Yoshitake on Unsplash

ESGに関する事項が投資家や規制当局の注目を集めるにつれ、政府機関や非政府機関、そして業界関係者が作成した開示基準が市場で注目を集めている。ESGの開示基準やフレームワークの数は増え続けている。

投資家は、確立されたESGフレームワークでの情報開示をますます求めるようになっている。例えば、非営利団体(NPO)のCDP Globalの報告によると、2020年には、106兆ドルの資産を持つ515の投資家と、4兆ドル以上の調達額を持つ147以上の大口購入者が、CDPを通じて企業に環境データの開示を要求している。

ほとんどのESG情報開示は自主的に行われているが、特に欧州では規制当局が積極的になってきており、その状況は変わり始めている。

少し前までは、ESGの問題は狭い範囲でしか扱われていなかった。今日では、ESGのテーマは社会全体で目立つようになり、資産運用会社、銀行、保険会社、企業の取締役会、格付け機関、委任状アドバイザー、規制当局、アクティビストの議題にESGのテーマが影響を与えることが多くなっている。ESGの問題は、大企業、中小企業を問わず、あらゆる企業組織に影響を与えている。

企業のサステナビリティの取り組み関する枠組みについては、国際統合報告評議会(IIRC)が2013年、国際統合報告フレームワークを発行。2018年には米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)が2018年11月に改訂版のSASBスタンダードを発表した。

PwCあらた有限責任監査法人 パートナー サステナビリティ・アドバイザリー部 リーダー / ESG戦略室リーダーの田原英俊は、国際的なサステナビリティ基準開発は、11月初旬に英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26) で、IFRS財団が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を正式に発表し、来年、国際基準を策定する道のりに進んでいくと指摘する。

日本でも、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループで、有価証券報告書におけるサステナビリティ開示に関して検討が進められている。また、財務会計基準機構(FASF)では、サステナビリティ報告基準に関する事項を盛り込む内容の定款変更が行われるなど、体制整備についても準備が進められている。

このような枠組み開発が進展する要因のひとつとして、ESG投資が近年、ものすごい勢いで伸びていることが挙げられる。

Global Sustainable Investment Allianceは、持続可能な投資戦略に従って運用されている世界の資産の量が2012年から2018年にかけて2倍以上に増加し、13.3兆ドルから30.7兆ドルに増加したことを明らかにしている。BlackRockの報告によると、欧米の持続可能な投資信託やETF(金融商品取引所に上場している投資信託)の資産は2013年から2019年にかけて67%以上増加し、現在で7,600億ドルに達している(下図)。

持続可能な投資信託・ETFの資産額の推移と予測、2013年~2028年 Source: BlackRock
持続可能な投資信託・ETFの資産額の推移と予測、2013年~2028年 Source: BlackRock

また、モルガン・スタンレーの調査によると、大規模な資産所有者の大半が持続可能性の要素を投資プロセスに組み込んでいることが分かっている。米国を拠点とする超富裕層向けの投資会社ケンブリッジアソシエイツは、気候や持続可能性ファンドを含むESG投資に組入れた顧客資産が、2012年から2017年の間に2倍以上に増加したことを報告している。同社の顧客のうち、基金・財団、年金、ファミリーオフィスを含む130社以上が、すでに何らかの持続可能な投資戦略に投資しているという。

国際的な枠組み構築の進展とESG投資の興隆が企業の開示を様変わりさせている。「それまではマルチステークホルダー向け情報開示が焦点だったが、明確に投資家向け情報開示の側面を持つようになった。ステークホルダーがどう使うかが明確になった」。

ただ、今現在の財務と非財務報告は組合わされただけであり、今後さらに洗練化されていく必要があるという。

不正も出てくるリスクがある。「開示の不正によって粉飾となること、投資家から訴訟を起こされることはいまはまだわからないが、将来的にはありうる」と田原は語った。

田原はサステナビリティ・ESG対応はリスクマネジメントからオペレーションの改善、戦略的競争優位へとその地位を上げてきており、企業価値への関連性を高めていると主張した。「ISOの取得が、従業員の健康リスクを落とし、それに関連するコストを圧縮し、オペレーションを改善するというようなリスクマネジメントが行われていた」が、現在では市場開拓、製品開発、顧客開拓、ブランディング等、企業の競争力に直接関わるジャンルへと変わった。

PwCあらた有限責任監査法人 パートナー サステナビリティ・アドバイザリー部 リーダー / ESG戦略室リーダーの田原英俊(左)とPwCあらた有限責任監査法人 執行役副代表 企画管理本部長 / AI監査研究所副所長の久保田正崇

PwCあらた有限責任監査法人 執行役副代表 企画管理本部長 / AI監査研究所副所長の久保田正崇は「サステナビリティ・ESGは見過ごせなくなり、企業にとっては財務・非財務を融合したマネジメント・報告が当たり前にになっていくだろう」と語った。

久保田は、東京証券取引所が現在の1部、2部、マザーズ、ジャスダックの4つの市場区分を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編することに絡んで、プライムの要件としてデジタルとESGの二つの要素は欠かせなくなると主張した。

「ESGは広い意味での情報開示、デジタル時代では開示するべきものであり開示する方法でもある。開示した内容への信頼を獲得できると、ブランドイメージを一新できる可能性がある。ESGの開示失敗が事業全体の失敗につながることもありうる」と久保田は語った。

※本記事はPwCあらた有限責任監査法人のメディアセミナーへの取材を基に執筆した。

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