EV材料高の救世主? ポストリチウムの電池素材フッ化物

機械学習(ML)により、フッ化物イオン電池の最も有望な材料が迅速に発見された。この研究により、現在原料価格の高騰が起きているリチウムイオン電池に匹敵する別材料の電池開発が加速されることが期待される。

EV材料高の救世主? ポストリチウムの電池素材フッ化物
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機械学習(ML)により、フッ化物イオン電池の最も有望な材料が迅速に発見された。この研究により、現在原料価格の高騰が起きているリチウムイオン電池に匹敵する別材料の電池開発が加速されることが期待される。

リチウムイオン電池(LIB)は、高いエネルギー密度、サイクル安定性により、スマートフォン、タブレット、ラップトップのような携帯電子機器に最適な選択肢となり、電気自動車(EV)用電池の主な候補となっている。しかし、これらにLIBを大量に採用したため、リチウム資源の枯渇につながった。

リチウムだけでなく、LIB に使用されるコバルトやニッケルのような他の鉱物の需給も逼迫している。そこで、新しい電池材料の検討が喫緊の課題だ。

理論的には、フッ化物イオンシステムは、EVから家電製品に至るまで、あらゆるものの電池として理想的である。フッ化物イオンは軽量、小型で安定性が高いからだ。また、リチウムイオン電池に必要なリチウムやコバルトに比べ、フッ化物は安価である。さらに、理論上では、フッ化物イオン電池はリチウムイオン電池よりも大きな蓄電容量を持つ可能性があるとされている。

しかし、フッ化物イオン電池の研究は、1970年代に最初に提案されたものの、1981年以降沈黙し、2011年に最初の実験例が報告され、再度注目を浴びたばかりだ。実際には、フッ化物イオン導電性固体電解質を特定するのが難しいため、研究が遅れているのである。

5月初旬、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のスコット・ウォーレン准教授の研究室に所属するジャック・サンドバーグらは、スーパーコンピュータを用いた機械学習法を考案し、既知のフッ化物含有物質においてフッ化物イオンがどれだけ容易に移動するかを迅速かつ正確に計算することに成功したと発表した。研究チームはまず、一般的な階層的計算法を用いて、14万件の既知物質のデータベースをスクリーニングし、フッ化物含有候補物質1万件に絞り込んだ。

サンドバーグは1万個の候補の中からランダムに300個を選び、それぞれの物質のフッ化物輸送能力について非常に正確な計算を行った。サンドバーグがDDI(Decoupled, Dynamic, and Iterative)と呼ぶフレームワークでは、計算段階を階層化せず、任意の順序で実行し(decoupled)、探索中に予測モデルを繰り返し更新し(iterative)、モデルの変更や材料の再ランク付けに応じて計算資源を再割り当てする(dynamic)。

(a)階層的検索でスクリーニングし、(b)この研究で用いられたDDI戦略で高品質の参照データセットを作成し、それを用いて高速計算を作成し、反復的に改良する。(Sundberg et al, 2022)

有望な材料を特定するための第三の、そして最後の戦略は、特定の応用条件と照合することだ。安定で安価、かつフッ化物イオン導電性を示す固体電解質をデータセットから検索した結果、12の構造が得られた。

これら12の構造には、いくつかのよく知られたフッ化物イオン伝導体(PbF2、LaF3、InF3、NdF3)が含まれている。残りの結果は、有望ではあるが未解明である二元および三元フッ化物を含んでいる。

これらの6つの構造タイプは、少なくとも3つの安定な組成を含む。各構造タイプには、結晶構造の例とその組成が示されている。棒グラフは、同じ構造を持つ組成の抵抗を表す。緑色の棒で示された組成は熱力学的に安定であり、金は準安定である。

唯一の二元系であるGaF3は、高い障壁とコストを持っていますが、純粋または混合相としてのフッ化物導電性についてさらに調査する価値があり、また、これまでフッ化物イオン伝導体として考えられてこなかった有望な3元系物質も多数発見された。その中でも、InF3と同構造のZnTiF6とMgTiF6は「軽量で安価な元素から多くの低障壁導電体が利用可能であり、最もエキサイティングな材料の一つ」とサンドバーグらは評価している。

参考文献

  1. Sundberg, J.D., Druffel, D.L., McRae, L.M. et al. High-throughput discovery of fluoride-ion conductors via a decoupled, dynamic, and iterative (DDI) framework. npj Comput Mater 8, 106 (2022). https://doi.org/10.1038/s41524-022-00786-8
  2. Mohammad Ali Nowroozi, Irshad Mohammad, Palanivel Molaiyan, Kerstin Wissel, Anji Reddy. Munnangi, et al.. Fluoride ion batteries – past, present, and future. Journal of Materials Chemistry A, Royal Society of Chemistry, In press, 9, pp.5980-6012. ff10.1039/D0TA11656Dff. ffcea-03149385f
  3. Kazuhiro Mori, Atsushi Mineshige, Takashi Saito, Maiko Sugiura, Yoshihisa Ishikawa, Fumika Fujisaki, Kaoru Namba, Takashi Kamiyama, Toshiya Otomo, Takeshi Abe, and Toshiharu FukunagaACS Applied Energy Materials 2020 3 (3), 2873-2880DOI: 10.1021/acsaem.9b02494

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