銅不足で再エネとEVが足踏みを迫られる?
銅が不足する世界では、グリーンエネルギーへの移行計画は軌道に乗る前に墜落してしまうかもしれない。銅の産出を増やすことは難しいため、さらなるイノベーションが求められることになった。
銅が不足する世界では、グリーンエネルギーへの移行計画は軌道に乗る前に墜落してしまうかもしれない。銅の産出を増やすことは難しいため、さらなるイノベーションが求められることになった。
銅は化石燃料から持続可能なエネルギーへの移行において非常に中心的な存在であり、2035年までに世界の需要は2,500万トンから5,000トンへと倍増する可能性があると、ニューヨーク市に本拠を置く金融サービス企業S&Pの報告書は述べている。
「過去最高水準の需要が維持され、2050年には5300万トンまで増加し続けるだろう。これは、1900年から2021年の間に世界で消費されたすべての銅を上回る量だ」とS&Pグローバルは書いている。
国際エネルギー機関(IEA)は2021年の報告書で、化石燃料にゆっくりと取って代わる新しいエネルギーのパラダイム、すなわち鉱物、その最たるものが銅であると述べている。
S&Pのレポートでは、銅は「電化の金属」と表現されており、電気自動車、風力、ソーラー、バッテリープロジェクトが需要増加の大部分を牽引すると思われる。EVの充電ステーションを広範囲に配備するなど、インフラの改善も貢献すると予測されている
EVのような伝統的な製品の電動化に銅が使われることは、需要増に大きく貢献することがわかった。
内燃機関(ICE)自動車は、あらゆるサイズのパワートレインに約 4kg の銅が使われている、と報告書は指摘している。内燃機関を燃料電池に変えると、銅の量はわずかに増えるが、燃料電池をバッテリーに変えると、もっと増えます。小型のバッテリー式EV(BEV)パワートレインには60kgの銅が必要だ。中型のBEVでは139kg、大型の BEV ではなんと425kgもの銅が必要になるのだ。
この問題を解決するためには、銅鉱山を増やすしかない。しかし、「現在、新しい鉱山の開発には平均16年かかる。つまり、今日許可を得ようとする新しい鉱山は、需要の急増に対応するためには生産性が間に合わないということだ」と、S&PはIEAの調査を引用して述べている。
S&Pのデータによれば、アルミニウムなど他の金属の代替や銅のリサイクルも、予測される需要を満たすには十分でないとのことである。
需要もすでに高い。銅は複数の産業で使用されているため、しばしば経済にとって不可欠な資源とみなされ、COVID-19のパンデミックが始まると価格が急騰した。
世界が石油からバッテリーへと移行した場合、銅の不足は製造業をはるかに超えた問題を引き起こす可能性もある。S&Pのレポートでは、銅は「国際安全保障を不安定にする重要な脅威となる可能性がある」と予測している。
2つのシナリオとゼロの解決策
ひとつは採掘・精製能力とリサイクルについて楽観的な仮定を置いたもの、もうひとつは現在の銅産業を将来にわたって予測したものである。
S&Pグローバルのバイスプレジデント、ダニエル・ヤーギンは、2050年のネットゼロ目標を達成するのは困難であると述べている。「世界はこれほど短期間に、これほど大量の銅を生産したことはない。現在の傾向では、2035年までに世界の銅の需要が2倍になると、大幅な不足が生じる」
このままでは、2035年までに不足分が1,000万トンに達するとS&Pは予測。2050年には、ネット・ゼロの目標を達成するために必要な銅の20%しか生産できないことになる。
楽観的な計画では、赤字はまだ続くが、その規模ははるかに小さくなる。2035年には160万トンが必要になるだけである。いずれのシナリオでも、S&Pは、ネット・ゼロの需要を満たすのに必要な供給は単純に存在しない、と述べている。
同社は銅の生産量増加を阻む一連の運営上の課題には言及している。インフラストラクチャーの制限、許認可や訴訟、地元の利害関係者の要求、環境基準、税金や規制、契約の政治化、労使関係、資源の国有化戦略などが、障害として挙げられている。