米新興EVメーカー、明暗分かれる

昨年の資本市場のブームによって、雨後の筍のように現れた米新興EVメーカーの間で明暗が分かれている。勝ち組は太いスポンサーを見つけ、負け組は当面の操業を支える現金をもたず資金調達に追われている。

米新興EVメーカー、明暗分かれる
Badger. 出典:Nikola

昨年の資本市場のブームによって、雨後の筍のように現れた米新興EVメーカーの間で明暗が分かれている。勝ち組は太いスポンサーを見つけ、負け組は当面の操業を支える現金をもたず資金調達に追われている。


まず、Rivian(リビアン)とLucid(ルーシッド)は生き残り組だ。

リビアンの財務は数多のEV新興企業の中で圧倒的に有利な立場にある。同社は6月末時点で150億ドル以上の手元資金を持ち、これは、2025年に予定されている小型車「R2」の発売までの同社の運営と拡張に十分な資金になるはずだと、マクドナーCFOは8月中旬の決算説明会で述べている。

2009年に創業したリビアンの運命を変えたのは、アマゾンだった。リビアンは2019年にアマゾンから7億ドル、その数カ月後にフォードから5億ドルなど、大きな支援を受けている(後にフォードとの資本関係は解消した)。出資後、アマゾンは、2030年までにラストマイル配送を電化する動きの一環として、特注のEV配送バンを10万台購入すると発表した。

これは、出資と販売の双方でアマゾンの手厚い支援を示唆するものだった。この「お墨付き」により、リビアンの株式市場への旅はより安全なものとなった。

高級EVメーカーのLucid(ルーシッド)は、リビアンほど多くの現金を保有していないが、その位置づけは悪くない。第2四半期末の現金は46億ドルで、3月末の54億ドルから減少している。CFOのシェリー・ハウスは今月初め、「2023年まで十分持つ」と述べた。

リビアンと同様、ルーシッドも昨年秋に高級セダン「Air」を発売して以来、生産増強に苦戦している。アリゾナ工場を拡張し、サウジアラビアに第2工場を建設するため、大規模な資本支出を計画している。しかし、ルーシッドにはリビアン同様、懐の深い後援者がいる。サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)はルーシッドの約61%を所有しており、同社が資金不足に陥った場合、ほぼ確実に支援に乗り出すだろう。サウジアラビアは今後10年間で最大10万台のルーシッドEVを購入することに合意している。

ルーシッドは最近10億ドルの信用与信枠を確保し、今年初めにサウジアラビアの様々な団体から追加的な資金調達を行うなど、同社には財務的余裕がある。

一方、Fisker(フィスカー)は白線の上にいる。

フィスカーはファブレスによって生産関連コストを圧縮する事業戦略を持つ。世界的なサプライヤーであるマグナ・インターナショナルと台湾の鴻海との委託生産によって車両を製造する予定だ。

これにより、フィスカーは、次世代SUV「Ocean」の生産開始に向けて多額の初期投資を負担する必要はなくなったが、後々サプライヤーに利益の一部を切り出さないといけなくなるだろう。

Oceanの生産は、マグナが所有するオーストリアの工場で11月に開始される予定だ。フィスカーは、試作品や最終工程のための資金、マグナへの支払いなど、その間にかなりの経費がかかるが、6月末時点で8億5,200万ドルのキャッシュが手元にあるため、これらのコストをカバーするのに問題はないだろう。

しかし、2023年以降、同社がどのように資金を調達するのかは、リビアンやルーシッドと比べて心もとない。EVを市場投入する前に市場を去る可能性がある。

ニコラとローズタウンはかなり厳しい

Nikola(ニコラ)は、特別目的買収会社(SPAC)との合併を経て上場し、その際の「投資家への虚偽説明」を米証券取引委員会(SEC)に突っつかれ、1億2500万ドル(約172億円)の和解金を支払った「いわく付き」のEV企業だ。

同社はバッテリー電気セミトラック「Tre」の出荷を少量ながら開始し、2023年には生産を拡大して長距離水素燃料電池仕様の「Tre」を追加する計画だが、キャッシュが続かなさそうだ。同社は、空売り業者からの疑惑、株価の急落、暴言癖のある創業者トレバー・ミルトンの更迭(彼は現在、投資家に対する発言で連邦詐欺罪に問われている)を受け、資金調達が困難な状況にある。

ニコラは6月末時点で5億2,900万ドルを手元に持っており、さらにプライベート・エクイティ企業のタミム・ストーン・キャピタルからのエクイティ・ラインを通じて3億1,200万ドルを利用することができる。ニコラの第2四半期決算説明会で、キム・ブレイディ最高財務責任者(CFO)は「これであと12カ月は操業できる」と語ったが、やがてもっと資金が必要になるだろう。タミムが追い銭をする以外の選択肢は見当たらない。

Lordstown(ローズタウン)は、6月末時点で手元資金が2億3,600万ドルと、おそらくこの中で最も不安定な立場にある。

ニコラと同様、ロードスタウンは創業者が空売り筋の不正疑惑で追い出された後、株価が暴落した。同社は工場モデルからフィスカーのような受託生産にシフトし、5月にはゼネラルモーターズの工場だったオハイオ工場を総額約2億5,800万ドルで鴻海に売却する契約を完了させた。

鴻海はこの工場を使って、ローズタウンのピックアップトラック「Endurance」や、フィスカーの次期小型EV「Pear」など、他社のEVを製造する予定だ。

ローズタウンはEnduranceの最初の生産ロットをわずか500台に制限することを決定したため、生産の立ち上がりにも不安を抱えている。追加の資金調達は必須だが、そのためにはEnduranceが初期顧客から相当な支持を受け、好評であることを示す必要があるだろう。

ローズタウンは細い綱渡りを行っているのだ。

Read more

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表 往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史